コラムバックナンバー
アナリティクスアソシエーション 大内 範行
発信元:メールマガジン2024年12月25日号より
今年最後のコラムです。9連休をゆっくりお過ごしの方も多いでしょう。気軽に読んでいただければと思います。
2024年の皆さんのお仕事はいかがでしたか?
私はここ数年、デジタルマーケティングの世界が、相当「めんどうくさく」なったと感じていました。
プライバシー保護意識が高まる中、GA4や広告のデータも今ひとつ確信が持てません。SEOもGoogleの検索結果にAIの生成結果 (AI Overview) が出はじめて、単純な順位はもはや意味がなくなっています。ゼロクリックも増えていくでしょうし、広告の運用もAIにおまかせとなり、効果に直結する施策が打ちにくくなっています。
アトリビューションなど、データでユーザー行動が可視化できる世界を目指していた身としては、何ともすっきりしない世の中になってしまいました。
ただ、インターネット老人として、「昔がよかった」と愚痴を言っても仕方ないので、2024年今年一年は考え方を変えるようにしてきました。
「めんどうくさいのは、裏返せばチャンス」と、ギアを変えてアクセルを踏み込んだわけです。結果はどうだったか?
まあ、うまく行ったぞと確信を持って語れませんが、この方向しかないなとも思っています。
今回はおおまかに3つの方向にまとめてみました。
(1) ユーザーを深く理解する:本質的な問いでユーザー行動を追求する
そもそもデータは何のために見ていたの? と問いかけると、これはもう「ユーザーを知りたい」ということに尽きます。ここ数年「めんどうくさいなあ」の要因は、GA4や広告のデータからユーザーが見えない、ということでした。
2024年、私が見るデータは少しづつ変わっていきました。
以前は、ビジネスに活用しやすい、CVや売上が結びついたデータを重視してきました。施策を実行するには、やっぱり金額が見えないとね、と思っていたわけです。
けれども、今年はコンバージョンよりもっと手前のデータを見る機会が増え、滞在時間やスクロール、特定のクリックなど、ユーザー行動を想像するためにデータを探る作業が多くなりました。
同時に、ヒントになるなら、ヒートマップ、ユーザー調査、サポートの声など、定量定性かまわずに、できるだけ集めるようになっています。
打ち手を導き出すプロセスも変わってきました。
デジタルマーケティングの打ち手を出すプロセスで、かつてはデータと推測を7対3ぐらいの比率で活用していました。
しかし、この割合は今や逆転し、データは2-3割以下でも、残り8割以上はユーザー行動を悩みながら推論していく、そんな割合になっています。
「きっとこういうことじゃないか?」「確かめる方法は何かないか?」「いや本当はこうなんじゃないか?」という、ユーザーに迫る本質的な疑問や課題を考える方に、よりエネルギーを注ぐようになっています。
私自身、今の方が、よりユーザー行動を考えるようになったので、その点はよいなと感じています。
(2) プライバシー保護への対応:差別化の武器に変えよう
プライバシー保護への対応、私はこれが一番面倒くさいですね。
たとえば、データの精度を高めようと、ファーストパーティデータの活用に取り掛かろうとします。すると個人情報保護法やGDPRまで絡んで来て、法律を深く理解する必要が出てきました。ここで嫌がらずに、法律の世界も勉強していくと、意外に壁が低かったり、法律だけではカバーできない点も多い、そんな現実も見えてきます。
ただ、この法律の壁を乗り越えて、少しでもデータ品質を上げることができれば、何もしない競合他社よりは、好循環に入っていくはずです。
今やデジマはAI時代です。自然検索にしても広告にしても、裏側はAIおまかせの世界が進んでいます。
ざくっと言えば、より品質の高いデータをAIに食べさせれば、より正確な予測結果を導き出してくれるはずです。
法務、技術、ビジネスを通じて、プライバシー保護とその影響に精通することは、結果的にデジマの好循環を生む力になります。
(3) チーム力でデータの限界を超える:みんなの知恵を集めよう
データが限られてくると、推測の割合が増えます。今までよりも決断をする根拠が足りないので、前に進むのが遅れてしまいます。
「悩むよりやってみた方が早いんだけどな」と、愚痴を言いたくなりますね。
ここで問われるのが、人と組織の力だと思います。
2024年、私はお客様の複数のチームと関わり、自分がハブとして決断を後押ししているなと感じる場面が何度かありました。
法務とマーケティングチームの間でボールが落ちたままになっていたり、SEO担当と広告担当がまったく協力せずに別々に動いていたり、技術チームとの連携がおろそかだったりすると、組織が行動に移す速度はどんどん遅くなります。
チームの垣根を越えて早めに相談したり、別のチーム同士、あるいは外部のスペシャリストをつなげて見ると、生の声や経験が思わぬ力になることも多いのです。
ひとりで根拠を積み重ねて説得しようと悩むより、人と声を集めて、「やってみましょう」へ後押しする方が、時には有効です。
さて、2024年がもうすぐ終わり、21世紀の最初の四半世紀を締めくくる年を迎えます。
2025年は、この3つの方向性で、取り組みをより具体化していこうと考えています。
データが制限される時代だからこそ、知恵と工夫で道は開ける。2025年からその先は、ワクワクする未来が待っています。
アナリティクスアソシエーション代表
個人情報保護士、専門統計調査士
日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、Googleなどを経験。Googleでは2011年から7年間、Googleアナリティクスとダブルクリック広告のマネージャなどを歴任。
2019年からはJellyfish 副社長 VP Analyticsとして参画し、2021年からはアユダンテ株式会社でCSOに就任。
並行して2008年から協議会「アナリティクスアソシエーション (a2i.jp)」代表としてデジタルマーケティングのデータ分析の普及に取り組んでいる。
仕事の傍SEOやアナリティクスの書籍も多数執筆。
主な著書『できる100ワザ SEO&SEM』、『できる100ワザ Google Analytics』、『SEM Web担当者が身につけておくべき新100の法則』など。
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