川崎裕一 / マネタイズおじさん

元起業家でスタートアップのコーチやってます。スマートニュース株式会社執行役員。

先を読む頭脳

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先を読む頭脳

棋士羽生善治さんの将棋における思考とそれを2人の学者が分析した本です。羽生さんは既に決断力 (角川oneテーマ21)や簡単に、単純に考える (PHP文庫)を出されています。私感ですが最も将棋について深くその思考を語っている本だと思います。とはいえ私は将棋の素人なのでその中で参考になった部分をメモしておきたいと思います。

センスと継続力

プロになるためには、もちろん持って生まれた先天的なセンスや能力が大事だと思いますが、それ以上に必要なものがあると私は思っています。それは例えば、非常に難しくてどう指せばいいのかわからないような場面に直面したとき、何時間も考え続けることができる力。そして、その努力を何年もの間、続けていくことができる力です。

羽生さんのような天才が頭を何時間もフル回転させ、それを何年もの間継続すると普通の棋士との差がどんどん広まることは間違いないです。

翻って凡人であるところの私を踏まえれば、なおさらのこと一つの事に徹底的にこだわり様々な視点から物事を捉え、仮説を作り、検証し実践していくことを継続的にやることを長きにわたってやること無しには自分の目指すところには到底到達できないことは火を見るよりも明らかというところだと強く思いました。

できるだけ可能性は残す

また、私は序盤戦においては、自分が何をやりたいかというよりも、できるだけたくさんの可能性を残しておくこと、そして相手がどのようにやってきても対応できるような手を指すことに重点を置いています。そのために、序盤では自分が何かを主張するよりも、如何に相手にうまく手番を渡すかということに非常に苦心をしているのです。

自分が打てる手を最大限に増やし、相手がどうきても対応出来るようにすること。そのために自分はあえて主張はせずに相手がスムースに手を打てること。ただしその手は自分が対応できるような手を打ってもらうにようにするためにあえて主張はしないこと。奥深いです。

翻ってビジネスにおいては自分の考えは表になるべく出さず相手に気持ちよくビジネスをしてもらいながら結果的にそれが自分にとってもビジネスがしやすいように仕掛けていくことというのが学べる点でしょうか。将棋とビジネスの違いはゼロサムではないという点が大きいと思いますので。

物事を塊で捉え、それが時系列で整理されている

局面は初心者に取っては一つ一つの駒でできた盤面であるが、上達に従って矢車囲いなどの部分的な形として捉えることができるようになり、熟練者は一つの盤面を形として捉えることができるようになる。更に一握りの超熟練者はその形としての盤面としての局面がどのような手順でそこに至ったのか、更にこの後、どのような展開になるのかという前後関係まで同時に想起できるようになる。
(p116を元に筆者抜粋)

日常のビジネスにおいて多くの複雑な課題があります。その課題は言うならば駒が複雑に置かれた盤面と言い換えることができます。新入社員は複雑な状態を構成要素を一つ一つ分析して相互の関係性を理解しようとつとめます。中堅社員は構成要素間の関係性を見つけ塊で見ることができるようになります。ベテラン社員は課題を一つの大きな塊として認識することができます。更に大家となると塊がなぜその塊を作るようになったのかを理解することができるようになります。

課題を一つの塊として捉えることができるようになるまでには多くの実戦経験が必要な点に関してビジネスとの共通点は大いにあると感じます。

相手によって指し手は変えない?

例えば、発対面の人との一番勝負であれば、奇襲戦法で相手を驚かせて、あっという間に勝負をつけるという戦い方も有効でしょう。しかし、長い時間の中で何十局も戦うとなれば、相手が驚くような奇襲作戦で一度勝っても、次からは同じ手は通じないのであまり意味がないのです。長く戦い続ける相手とは、結局正面から戦わざるを得ないということになります。

ですから、私は相手の得意な戦型だからといって避けたりはしないようにしています。長期的に考えると、むしろ相手の得意戦法にぶつかっていくくらいでなければ、良い成果は残せないように思います。

戦術と戦略に繋がる指摘だと思います。局面局面では戦術を駆使し勝利をおさめることができても、最終的に戦略が無いため敗北を喫した戦いは歴史に多く存在しています。

自らの成長のためにあえて不利と思われる局面であっても真っ向勝負する必要があるというのはビジネスに置いても避けられない点なのだと思います。一つの戦いで一つ負けた場合、その負けた方を綿密に分析することで相手の勝ち方を理解することができるようになります。勝ち方の中には相手の個性があります、癖があります。個性の中には時に弱点となりうる点も存在しています。

ビジネスのゴールが持続した成長のために長期的な勝利が求められることとするならば、相手の得意な形における自分の一つの負けは自らにとっての大きな資産になる可能性が高いと思います。