ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

『営業利益』と『経常利益』と『当期純利益』が分けられている訳

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こんにちは、らくからちゃです。

今からだいたい4ヶ月ほど前、わたしはある記事に『謎かけ』をして、そのまま放置しておりました。

 理解していますか?営業利益・経常利益などの様々な利益の違い - NO TITLE

ぶっちゃけ言ってしまうと、このコメントをつけた段階では、『まあ誰かがそれらしい回答をくれるでしょ』と思って投げていました(^_^;) 

学生時代も、こういった会計制度の歴史を専門にしていたのではなく、『こんな感じかなあ』程度のぼんやりとした認識しか有りませんでした。でも、わたしとしても疑問に思う点もありましたので、学生時代に戻った気分で色々と文献を読み漁っていました。せっかく自分なりに答えがまとまってきましたので、『専門家の見解』ではなく『会社員の自由研究』レベルではありますが、答案を作成してみたいと思います。

企業会計原則と4つの利益

 そもそも、『営業利益』『経常利益』『当期純利益』は何を根拠にして区別して表示されているのでしょか?その答えは、日本における会計の基本原則を示した『企業会計原則』にあります。企業会計原則では、『損益計算書原則』の中で、以下の利益計算の区分を表示を要請しています。

二 損益計算書の区分
損益計算書には、営業損益計算、経常損益計算及び純損益計算の区分を設けなければならない。
A 営業損益計算
営業損益計算の区分は、当該企業の営業活動から生ずる費用及び収益を記載して、営業利益を計算する。 二つ以上の営業を目的とする企業にあっては、その費用及び収益を主要な営業別に区分して記載する。
B 経常損益計算
経常損益計算の区分は、営業損益計算の結果を受けて、利息及び割引料、有価証券売却損益その他営業活動以外の原因から生ずる損益であって特別損益に属しないものを記載し、経常利益を計算する。
C 純損益計算
純損益計算の区分は、経常損益計算の結果を受けて、前期損益修正額、固定資産売却損益等の特別損益を記載し、当期純利益を計算する。
D 未処分損益計算
純損益計算の結果を受けて、前期繰越利益等を記載し、当期未処分利益を計算する。

企業会計原則 - Wikibooks

この基準は1949年に作られ、1982年に最後に改定されました。それ以後は、企業会計原則そのものを修正するのではなく、『注釈』などの別文書で補足を加えていく、という形を取っていますので、若干現代のルールに一致しない部分もあります。今の損益計算書に、当期未処分利益まで記載はありませんね。

さて、今回テーマに上げる各損益の区分の中で、『経常損益』は企業会計原則が設定された当時からあったものではありません。その当初の企業会計原則原文が是非知りたいのですが、なかなか見当たらず・・・。この辺が大学図書館という知の宝庫を利用できない社会人の限界ですね。。。どなたか見つけられた方がいらっしゃったら教えてくださいな。

例えば、下記のサイトを御覧ください。

  1. トヨタ自動車75年史|財務|損益計算書の推移(1960〜1963)
  2. トヨタ自動車75年史|財務|損益計算書の推移(1963〜1966)

トヨタ自動車の単体損益計算書の年次推移になりますが、『経常利益』の項目は、1963年から現れます。では、1963年に何があったのでしょうか?

財産法と損益法

1963年、法務省からひとつの規則が発令されます。

中には、損益計算書の区分の仕方として、以下のような記載があります。

第三十七条
損益計算書には、経常損益の部及び特別損益の部を設け、経常損益の部は、営業損益の部及び営業外損益の部に区分しなければならない。

この規則により、損益計算書には、営業損益に加え経常損益と特別損益を表示することが求められるようになります。

 この規則は、前年昭和37(1962)年に行われた商法改正の結果を受けたものでした。当時、『国の法律』である商法と、『産業界の実務慣行』である企業会計原則の間には、差異がありました。それぞれのルールが、別々の財務諸表の作り方を示していたんですね。昭和37年の改正は、その差異の解消と、更に企業会計原則を進化させることを狙い実施されました。

この改正での重要なポイントが『損益法の導入』です。

会計学における『利益』の考え方は、大きく分けて『財産法』と『損益法』の2つの考え方に別れます。ざっくりいうと、

  • 財産法:資産の増減で利益を計算する
  • 損益法:売上と費用の差分で利益を計算する

といった感じになります。両社は、複式簿記の考え方を取る以上、原則として一致しますが、『持っている資産の金額=貸借対照表』の正しさを重視するのか『その期間の利益計算=損益計算書』の整合性を重視するのかによって、計算の考え方が異なります。あまり良い例ではありませんが、わかり易い例として『減価償却』の考え方があります。

 例えば、300万円の自動車を購入し、3年間使うものと考えます。この金額を、毎年少しづつ費用として計上し、資産の金額を減らしていく処理を『減価償却』といいます。

これは、300万円発生した費用を、そこから得られる収益の発生のタイミングに合わせて分配していく『収益費用対応の原則』という考え方に則った考え方です。たまに、『帳簿の金額を実際の価格と合わせるために行う』なんていう教え方をされている例も見受けられますが、実際の自動車の値段と関係なく、発生した費用を分割します。

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支払った300万円は、実際の価値ではなくその車を使った期間の割合に応じて按分していきます。これは、『資産の価値』よりも『費用の測定』を重視した考え方です。

その為、貸借対照表に載っている『自動車』の価値とは、『将来発生する費用の繰り延べ』でしかなく、本来の価値を示すものではなく、『貸借対照表』の正しさより『損益計算書』の整合性を重視する考え方になります。

昭和37年の改正では、商法にも全面的に損益法の全面的な導入を行うものでした。その重要な点は、以下の3つにまとめられます。

①資産評価における原価主義の採用
②繰延資産の範囲の拡大
③引当金計上の容認

戦後日本の会計制度形成と展開 p146

実際の金額ではなく取得した際の原価を中心とした考え方を採用し、研究開発費等の費用の繰延べを認め、当期未発生であっても引当金計上としての費用処理を認める。といった改正が行われました。それまでも、損益法的な考え方で計算された収益や費用もありましたが、その範囲を大きく拡大し、損益計算書の有用性を高める大胆なアプローチでした。

当期業績主義と包括主義

損益法を用いる最大の利点は、『どういった内容で利益が発生したのか?』が分かることです。財産法だと『増えた、減った』しか分かりませんが、損益法だと『売上が◯◯万円で、給料が☓☓万円だったので、利益は□□万円』といった計算ができます。

損益計算書の記載内容が充実するのと同時に、その表示方法に対しても変更が加えられます。下記は、改正前の企業会計原則からの抜粋です。

利益剰余金計算書は、前期未処分利益剰余金から前期剰余金処分額を控除し、これに前期以前の損益計算における過不足額の修正記入と当期の固定資産の売却損益等を加減して、繰越利益剰余金期末残高を算定し、これに当期の純利益を加えて、当期未処分利益剰余金を表示する。(損益計算書原則七・A)

ちょーっと分かりづらいのですが、

  • 前記以前の財務報告の結果の訂正
  • 固定資産の売買益等

 は、損益計算書では計算せずに、今で言うところの『経常利益』までを損益計算書で計算し、今で言うところの『特別損益』に該当するものは、別の『利益剰余金計算書』に表示せよ、ということを謳っています。それが、昭和38年の法務省令では以下のように規定されます。

 

第四十二条
 特別損益の部には、前期損益修正損益、固定資産売却損益その他の異常な利益又は損失についてその内容を示す適当な名称を付した科目を設けて記載しなければならない。

これで、今と同じような『特別損益』が損益計算書に表示されるわけですね。それ以前の損益計算書には『その期間に稼いだ利益』が表示されました。こういった『損益計算書には、ある期間で発生した利益を掲載すべし』という考え方を『当期業績主義』といいます。

ただ損益計算書を『当期業績主義』にだけ基づいて計算した場合、前の期間の結果を修正した分の差額や、突発的に起こったことを表現することができません。こういった『損益計算書は、純資産そのものの減少をもとに計算された利益を掲載すべし』という考え方を『包括主義』といいます。

我が国における現代の会計のルールは、『当期業績主義』によって計算された損益を『経常損益』として表記し、そこにそれらに当てはまらない利益や収益を『特別損益』として表記して『包括主義』にも対応するといった考え方を取っています。

では、こういった考え方を採用するに至った経緯を追ってみたいと思います。

財閥解体と金融制度の歴史

1945年、我が国は太平洋戦争に敗北しました。その後、日本を占領したGHQは、数々の指令を日本政府に対して行いましたが、その中でも戦後の日本の金融制度を考えるにあたってもっとも重要なものが『財閥解体』です。

戦前において、我が国の産業は、『三井・三菱・住友・安田』などの一族を中心とした財閥の強い影響を受ける状況にありました。特に金融業はその比率が著しく、四代財閥で、資本全体の1/4を担っている状況にありました。

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(出典:日本の財閥 成立・発展・解体の歴史)

彼らは、

  • 生来の経営者として大資本を経営
  • 圧倒的な資金量を元に経済界をコントロール
  • 政治に対しても強い影響力の発揮が可能

という状況にありました。

こういった財閥が、軍需産業と結びついていたことや、彼らによって産業全体が支配される構図を重く見たGHQは、その一族に対して

  • 経営から退く
  • 株式を手放す
  • 政治の世界に参加しない(公職追放)

を求めました。

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戦後は圧倒的に物が不足していました。そんな中、『誰に資金を融通し、何を生産するのか』を決めることが出来る『復興金融金庫』などの強い影響を受けました。教科書にも載っている傾斜生産方式などをリードした銀行ですね。これらの金融機関は、後に諸外国から『Notorious MITI(悪名高き通産省)』との悪評を受ける官僚たちが、財閥家族の支配からも逃れ、非常に強い権限を奮うことが出来るようになります。

GHQは、財閥の解体によって、一般市民が株式市場を通して資本市場を形成していく姿を思い描いていいたようですが、実際にここの会社を評価して投資を行うには、日本の金融市場は未成熟で、市民にもとても投資の余裕など無い状況でした。ここは重要なポイントですが、資本市場の発展には、裕福な投資家の存在が不可欠なのです。代わって、銀行などの金融機関が資金の担い手として頼られるようになり、事業会社の経営状況についての知識も深めながら『メインバンク制』という我が国独特のコーポレート・ガバナンス体制が作られていきます。

また、財閥家族や旧来の重役が追放され、大企業はいくつかの会社に解体された結果、場合によっては課長クラスであったひとが、いきなり社長の席につくといったことも発生しました。彼らは、財閥家族のような『株式の裏付け』があってその地位についたわけではなく、非常に不安定な存在でした。その為、会社間で株式の持ち合いを行い、自らの権力の基盤を固めようとしました。

整理すると

  1. 官僚が力を持ち、金融機関を通して市場をコントロールする
  2. 一般市民の余剰資金が少なく、企業は資金調達を金融機関に頼る
  3. 権力基盤の弱いサラリーマン経営者が株式の持ち合いをすすめる

これらの条件がガッツリとマッチし、我が国に資本市場は、株主不在(といえば言い過ぎかも知れませんが)の中で成長を遂げていくことになります。

財務諸表はどう読むべきか

さて、我が国の経営者の中には、経営指標として重視するものとして『経常利益』をあげる経営者は少なくありません。もう古い話になりますが、ライブドアショックの発端になったのも、本来は『売上』として計上できない自社株の売買益を損益計算書に無理やり計上し、経常利益を大きく見せようとしたことが原因のひとつです。

では、企業経営者はどうして『経常利益』を重視するのでしょうか。

まず理解したいのが、特別損益の部に計上される科目は、

  • 過去の会計処理の誤り(前期修正損など)
  • 過去の投資判断の失敗(固定資産売却損など)
  • 通常発生し得ない損失(災害での特別損失など)

経常利益以下の項目は、あくまで『当期の経営者の業績』に左右されない項目になります。日本の経営者は、内部昇進を経たサラリーマン経営者であることが多く、自身の正当性を『自分の管理可能な範囲での利益』が好調であることを見せる必要があります。

一方銀行側も、本来であれば資金の回収可能性を考えれば、『当期純利益』や『貸借対照表の状況』について意識を払うべきです。ただ、どうしてそこに意識が行かなかったのかは、当時の銀行員の方に聞いて頂きたい点ですが、ひとつキーになるのが『物価の上昇率』だと思います。

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(出典:[14]日本のデフレは消費者にとっての超安定でもあった - 齋藤進|WEBRONZA - 朝日新聞社)

1990年代に入るまで、日本の物価上昇は諸外国に比べても高いものでした。物価が上昇していく以上、貸借対照表に記載された『取得原価』は、余り意味を持ちません。また、過去の修正である『特別損益』を含めた当期純利益もまた然りです。

また株主側も、本来自身の『配当可能利益』に直結するはずの当期純利益よりも、社会全体が成長していく中において、過去の失敗の精算を含む『当期純利益』よりも、当期実現した成長の度合いを示す『経常利益』をパフォーマンス評価の軸として利用しました。

こうして、経営そのものが『当期業績主義』で進んでいった結果、安定した成長に水を指すような表示は疎んじられ、特別損益項目として表示されるのであればまだしも、純資産直入法などの方法で、表に出ないように処理されることが慣習化していきました。

その結果、企業の本来のパフォーマンスの評価が実態として為されなかった感があります。

一方、アメリカの会計基準では、『見せたくないものは特別損益へ』ということを許さず、事業活動に関連するものは『営業利益』の中に表現するようにといった方針が取られました。

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(参考:米国基準と日本会計基準の違い ~ コナミホールディングス株式会社)

米国基準においても、財務費用は別に考えますし、特別損益が存在しないわけではないので、この図は必ずしも正しく無いような気がします。ただ重要なポイントとして、米国基準においては、日本の決算報告のように、営業車を売っただけで特別損益が上がることはなく、非常に『レア』な項目です。またこの方針は、国際会計基準(IFRS)にも引き継がれ、『特別損益とか、なんかややこしいし要らなくね?』というところまで話が進んでいます。

アメリカでは、『EBITDA』(営業利益+償却費)が持て囃されたころもありましたが、償却費を意図的に操作し、成長を演出できるため、バフェット氏も『こらあかんやろ』と言われ始め、なんだか最近は当期純利益重視に戻っているように思えます。

この違いがどこにあるのかを簡単に考えることは難しいのですが、ひとつの重要なポイントとして、資本市場が発達していたため、『当期業績』という近視眼的な見方ではなく、経営全体の長期的な効率性という観点でデータを見る姿勢が広く養われていたのかもしれません。

また米国基準では、『営業利益』と『当期純利益』の間にある差は、『財務調達のコスト』であって、それは資本をどのように調達するのかの差になります。資本市場が発達した国であれば、資本調達の手段もより自由が効きますので、『経常利益』的なものは、あんまり重要な項目とは見なされなかったのかな?というところも差異を産んだポイントかもしれません。

さて、金融市場では『貯蓄から投資へ』といったことが良く喧伝されています。

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(出典:現金大好き日本人と投資大好きアメリカ人|カブトク#69 | マネトク)

確かに、日本の家計の資産構成を見ると、個人の資金運用の多くが銀行預金で行われています。一方、米国では株や投資信託の比率が高い。ただその背景には、金融資産保有額の格差の影響もあります。参考元にも下記の記載がありますね。

ちょっと補足しますと、これはあくまで平均値ですので、一般家庭の保有比率とは異なる場合があります。というのも、例えばアメリカの場合、富裕層が圧倒的に株式を保有していますので、その分一般家庭の株式保有比率は下がり、逆に現金の比率が高まっているかと思われます。

 NISAで一定額までの投資が無税になるなど、どんどん資産をリスクマネーに振り分けたいようですが、個人には十分に金融リテラシーを学ぶまでの余力がない人も多いはずです。そんな人に対して、『経常利益が高いから儲かっているんだ!』みたいな風にみせかけて、投資を促したところで、待っている未来は果たして明るいものなのでしょうか。

IFRSの導入等、財務諸表をどう読むべきかは、ますます一般個人に対しては意味不明なものになりつつあります。そこを埋めるべく、企業のIR担当者の努力の姿はいつも素晴らしいものがあるとは思いますが、あまりそこにばかり頼り切るのもどうなんだろうなあと思うところもあります。

本当は、金融教育なんてしなくても、個人は銀行に預けておくだけで良い、そういった風にもできないものかねえと思う今日このごろでございます。

一応、参考文献としてこちらを上げさせて頂きます。

戦後日本の会計制度形成と展開 (拓殖大学研究叢書社会科学)

戦後日本の会計制度形成と展開 (拓殖大学研究叢書社会科学)

 

また、今回記事を書くにあたって参考にした資料一覧を、下記のタグでブックマークしておきましたので、もしご興味がある方は是非。

2016年3月7日参考文献に関するlacucarachaのはてなブックマーク

ではでは、今日はこの辺で。 

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