さて、Yahoo!ニュース側のコラムで報じましたが、先のエントリで私自身が疑義を呈した日本eスポーツ連合がついていた嘘は確定となりました。まだそちらを読んでない方は、リンク先へどうぞ

ということで、JeSUがこれまで「高額賞金」と呼んでいたものは、実は従前から景表法運用基準に存在してきた「労務契約に基づく仕事の報酬」としてのゲーマーへ提供されているものであり、けして彼等がこれまで宣伝してきたような「JeSUのプロ認定制度が実現した」ものではなかったわけです。そして、この事実が判明した事によって、幾つかの新たな問題が見え始めています。

①「仕事内容に相応な報酬の支払い」

これは先のYahoo!ニュース側のコラムでも述べた事でありますが、景表法運用基準が従前から「景品にあたらない」としてきた労務契約に基づく仕事への報酬でありますが、これは本来「その仕事内容に相応する報酬」の範囲で限定的に認められてきたものです。また、少なくともコレまでの類似する運用例では、そこで提供される報償を「賞金」と呼称することも相応しくないとされてきました。JeSUがこれを「高額賞金」と呼び続けることは、景表法上、非常に大きな問題を孕んだ行為となります。

②副業禁止規定への抵触

また、賞金ではなくそれが「仕事の報酬」であったことにより、新たに生まれたのが多くの正業を持つゲーマー達が直面する各企業や団体の定める「副業禁止」問題です。

ゲーム大会で獲得する「賞金」は本来、我々がパチンコや競馬などで獲得する賞金と同様の「一時所得」と呼ばれる所得です。これは税法上「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得」と定義され(参照)、明確に「労務や役務の対価としての性質を有しない」とされています。即ち、ゲーム大会で賞金を獲得したとしても、多くの企業や団体がその従業員に定めている副業禁止規定に抵触するものではありません。

ところが今回、JeSUが提供している「賞金」は実際は労務契約を通じて支払われる「仕事への報酬」である事が判明しました。当然ながらこれは、多くの企業が定める副業禁止規定に抵触する所得となります。JeSUによるプロ制度は、多くの正業を持つゲーマーにとっては、けして幸せにならない制度であるという事が判明してしまったわけです。

このことは実はJeSU自体もこれまでコッソリとwebサイトの片隅で説明しています。以下、JeSUプロ認定制度の初適用となった闘会議2018大会に掲載されていた但し書き(現在は削除されている)。

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引用:企業その他の団体と雇用関係を結んでいる(本業がある)状況下で本ライセンスに基づくゲーム大会に出場をしますと、副業とみなされるおそれがあります。該当する方は今一度、ご自信が所属されている団体の服務規律をご確認いただきますようお願いいたします。

③プロ認定制度が生む「プロ/アマ」の溝

そして、この副業禁止規定が生み出す大きな問題が「プロ/アマ」の間に横たわる深い溝です。実は今回、私が「JeSUの提供する賞金は本当は労務報酬なのではないか?」という疑義を呈した直後から、幾人かのゲーマーの方からコンタクトがありました。その内容は「実は、今回のJeSUのプロ制度の発足で、私自身はプロゲーマーへの道を諦めました」とのものです。

彼等は現在、特定のゲームタイトルにおいて優秀な成績を収めている、いわゆる上位ランカーでありながら、一方でそれぞれ他に正業を持つ兼業ゲーマーであります。実は、eスポーツの世界はゲーム一本で飯を食っている人間というのはホンノ一握りであり、多くのプレイヤーがこのような兼業ゲーマーで構成されているのが実態です。

ところが今回JeSUの推進するプロ認定制度が登場したことで、彼等は上記の副業禁止規定との兼ね合いから「どちらを正業として選ぶか」を迫られた。しかしJeSUの認定する「プロ」は、あくまで「労務報酬としてゲーム大会で報償を得られる権利」を付与するだけのものであって、その所得を保証するものではありません。「自身のキャリアや家庭の事情など様々な背景を考えると、正業としている職を捨てるワケには行かない」。それが彼等が下した決断であったとのことです。

「仕事の報酬としてゲーマーに報償を提供する」というJeSUが提案しているプロ認定制度は、実はこのようにプロとアマチュアの間に存在する「セミプロ」と呼ばれる分厚い層をゴッソリと排除してしまう制度でもあるわけです。

④全てのゲーム会社に考えて欲しい新しい提案

私自身はゲーム業界の中の人間ではありませんが、上記のような兼業ゲーマーさん達に触れ、今のJeSUが描いているプロ認定制度を中心としたeスポーツの未来像が必ずしもゲームコミュニティにとって幸せを生まないのではないか?という疑念を抱かざるを得ません。そこで、私なりに持っている法的見地から、どうやったらこの状況を打開しうるか?という建設的提案を一つさせて頂こうと思います。

まず大前提として、繰り返し申し上げている通り景表法は事業者がその取引相手に「仕事の報酬」として経済的利益の提供を行うことはそもそも禁じていません。一方、現在JeSUがしきりと宣伝しているような、本来「仕事の報酬」として提供されている金銭を「高額賞金」として表現する事は景表法上非常にリスクが高い行為でありますし、また本来、実際の仕事内容に相応する価額を超える高額な報償の提供は認められていません。だとするのならば、やはり景表法運用基準の示す原理原則に基づいて、ゲーム大会の上位優秀者に対しては事業者が何らかの「適正な労務契約を結ぶ」という事を正しく打ち出すべきだと考えます。

一方、副業禁止規定に抵触する兼業ゲーマーに関する問題ですが、これも先述のとおり本来的な意味での「ゲーム大会の賞金」は法律上「労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない」ものであり、副業禁止規定に抵触するものではありません。但し景表法は「賞金」として事業者がその取引相手となる消費者に直接金銭を提供することを制限していますから、あくまでその提供は完全なる第三者から提供されるものでなければなりません。

上記二つの要件を掛け合わせて考えると、以下のようなスキームであれば全ての法的問題をクリアしながら、全てのゲーマー達がゲームの結果から何らかの報償を獲得することが出来るのではないかと考えます。
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a)常設リーグの組成
近年、LJLやPUBGのαリーグなど、ゲームパブリッシャー自身が公認する常設リーグを設置するeスポーツタイトルが徐々に増えています。繰り返し申し上げますが、そもそも景表法は事業者がその取引相手に「仕事の報酬」として経済的利益の提供を行うことは禁じていませんから、この常設リーグにおいて職業としてゲームをプレイするゲーマーに対して企業が報償を提供することはできるわけで、これが景表法運用基準の示す「仕事の報酬としての金品の提供は景品にあたらない」の本来的な利用方法であると言えます。

b)賞金制トーナメントの開催
上記と並行して開催を提案したいのが、半年に一回、もしくは四半期に一回開催される賞金制トーナメントの開催です。この定期的に開催されるトーナメントの上位入賞者と先の常設リーグに参加するプレイヤーが何らかの基準をもって入れ替わる。「大会上位入賞者には常設リーグに参加し、ゲーム会社から直接スポンサーを受ける権利を付与される」この建付けであれば、トーナメント大会の報償としては全く法律上問題ないわけで、この常設リーグに所属するプレイヤーが名実と共に「プロゲーマー」であるわけです。

例えばこちらのトーナメント大会に関しては、現行で各コミュニティが開催している既存のゲーム大会を代用し、各コミュニティ大会の優勝者が常設リーグを構成するという形式にする事も可能かと思います。

c)ストリーミング配信
一方、課題となっているアマチュアプレイヤーへの報償ですが、その原資には是非、常設リーグのストリーミング配信から生まれる「広告料」を充てて下さい。現在、多くのeスポーツ大会の視聴はyoutubeやtwitchなどにおけるストリーミング配信によって支えられています。このようなこのストリーミング配信に付加される広告からは、広告料が生まれますが、実はこの収入は文字通り第三者によって拠出される資金そのものであります。即ち、この広告料収入を原資とした賞金の獲得を争うゲーム大会の提供は、景表法の規制対象とはなりません。

即ちb)で提案を行った四半期に一度、もしくは半年に一度開催されるトーナメント大会の上位入賞者には、先述の常設リーグへの参加権に合わせて、直前に開催されたリーグのストリーミング配信から生まれた広告料を原資とする賞金の二つが付与される形式とします。副業を持たないプロプレイヤーはその両方を獲得し、一方でその他の正業を持つ多くのセミプロはリーグ参加権は放棄した上で、賞金と「第●回全国トーナメント優勝者」という栄誉だけを獲得する。このようなプロとセミプロの住み分けであれば、実は各プレイヤーに対する適切な報償の提供は実現し得ます。

また、当然ながらその常設リーグのストリーミング配信を視聴するファンが増えれば増えるほど、すなわちそのゲームタイトルのeスポーツとしての人気が高まれば高まるほど、そこからトーナメントに対して積み上げられる賞金額は大きくなる。これこそがゲームがコミュニティによって支えられる、本来的なeスポーツのあり方なのではないかと思うわけです。

d)広告収入の管理
但し、上記の大会スキームが成立する為には、一つ絶対的な「条件」が存在します。それが、広告収入から生まれる資金の「第三者性」を維持しながら、それを適切に維持管理すること。この点は少し頭を捻って、関係各所と調整をする必要があります。

繰り返しになりますが、景表法はゲーム会社が自らの取引相手となるゲーマーへ経済的利益の提供を行う事を制限しています。すなわち、常設リーグのストリーミング配信によって獲得された広告料がゲーム会社自身の会計の中に一旦取り込まれてしまうと、そこから先の賞金拠出が出来なくなる可能性が高い。ストリーミング配信によって積み上げられた広告料を、次回開催されるトーナメント大会に拠出されるまでの間、その第三者性を維持したまま「誰か」に管理させておく必要があるわけです。

結論:
何度でも繰り返しますが「労務報酬」としてゲーマーへの報償が行われている限り、現在JeSUが提唱をしているプロ認定制度は本来的には必要がない制度です。JeSUは、この制度をもって国内に存在する様々なゲーム大会に上から網を被せようとしているようですが、本来必要とされていない制度で、これまでゲームコミュニティが育んできたゲーム大会を管理しようとする手法は、正直あまり健全なやり方であるとは思えません。また、先述の通り、この認定制度はプロとアマチュアの間に大きな溝を生む制度でもあります。

一方で、例えば上で私が示したように、不要な認定制度なぞは作らずしてもプロとその他のアマチュアに対してそれぞれ適切な形で報償を提供しながら、eスポーツシーンをコミュニティ全体が支えてゆける手法はあるわけです。そこでキモとなるのが広告料として集められた金銭の第三者性を維持しながら管理をお任せできる「団体」であるわけですが、それが国内eスポーツ事業の推進を目的として設立された公益的な法人、例えば一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)であるということならばそれは同団体にとって非常に適切な役割となるかもしれません。また、もしJeSUがその主体として機能しないというならばコミュニティや選手などが主体となって新たな資金管理団体を建てることはそれほど難しくないことでしょう。

いずれにしても、私としては我が国のeスポーツ業界がより健全かつ適切に発展してゆく事を願わんばかり。上記提案がその為の一助となるのならば幸いです。