« MAP - group_inou | メイン | ラジオ「ありがとう浜村淳です」での浜村淳の気になる発言&行動記録 »
2015年09月04日 15:45
ドリルンベースを発明したのは誰なのか - 1994-95年頃の話
試聴動画もたくさん貼りました。
ここ数日とりとめもなくドリルンベース(Drill ’n’ Bass)について思い出したり調べたりしていたのですが、せっかくなのでブログ記事にまとめておきたいと思います。テーマは「ドリルンベースを発明したのは誰なのか」。
■SquarepusherとAFXが初めてドリルンベース作品を発表したのは1995年後半
ここで「ドリルンベースとは何か」を厳密に定義するのは面倒なのでやめておきます。とはいえ、話を進める上でユルユルに定義しておくと「SquarepusherやAphex Twinの作るようなドラムンベース、王道のドラムンベースのルールを無視した複雑なダンスミュージック」みたいなことになるのではないでしょうか。では、そのドリルンベースを代表する両者が初めてドリルンベース的な作品を発表したのはいつなのかとなると、Squarepusherの最初の作品「Conumber E:P」が1995年10月?頃で、Aphex TwinはAFX名義の「Hangable Auto Bulb EP」で1995年10月。いずれも1995年の後半です。当時すでに絶大な人気のあったAphex Twinがこういう音楽をリリースしたことで世界中にドリルンベースが広がったのは間違いないでしょう。
■ドリルンベースという言葉が産まれたのは1997年
自分の記憶では、SquarepusherやAphex Twinのような人達が作っていたこの音楽も、最初はドリルンベースとは呼ばれておらず、日本に住む自分の周囲や、読んでいた雑誌類は「変則ドラムンベース」「変態ドラムンベース」みたいな曖昧な呼び方をしていたと思います。決まった呼び方は無かったのでは。
ドリルンベースという言葉が使われだしたのは1997年のことだそうで、1997年2月リリースのμ-ziqのEP「Urmur Bile Trax」のプロモーション資料の中に「Drill ’n’ Bass」が使われたのが最初の記録だという意見があります。自分が一番最初にこの言葉に触れた体験として覚えているのは、Ninja Tuneから1997年11月に出たAnimals On Wheelsのアルバム「Designs & Mistakes」の雑誌レビューかレコード店のポップか何かで、「また変なジャンル名を作ったなー。どうせ定着しないのに」とバカにしたような記憶があります。
■Luke Vibertの存在
SquarepusherとAFXがドリルンベース作品をリリースしたのは1995年後半と上に書きましたが、それ以前に“ドリルンベース的”な作品をリリースしていたアーティストとして忘れてはいけないのがLuke Vibertです。彼がドラムンベース曲を発表する時に使うPlug名義での最初の作品「Plug 1 (Visible Crater Funk)」が1995年4月リリースです。他にもWagon Christ名義での2 Player「Extreme Possibilities」、Cranium HF「Belladonna」のリミックスがどちらも強烈な“ドリルンベース的”な作品で、ともに1995年前半のリリースです。
Squarepusherはインタビューの中で、1995年の「Conumber E:P」製作時の影響としてPlugのEP「Plug 2 (Rebuilt Kev)」に収録された曲「Military Jazz」をあげて、「1995年の夏にラジオでその曲を聴いたことを思い出すよ。物が言えないほどに驚かされた。ファンクグループの演奏を聴いてるのかと思ったら、突然もの凄いアーメンブレイクが蹴りこんできた。未来の音楽みたいに聴こえた」と大きな影響を受けことを明かしています。
Luke Vibertは1994年にコーンウォールからロンドンに引っ越し、そこで海賊ラジオなどを通じて初めてドラムンべースに出会ったんだそうです。その辺の事情が2011年のhigher-frequencyでのインタビューで語られています。
■ Plug インタビュー(higher-frequency)
ドラムンベースはロンドンに行くまでは知らなかったからね。ロンドンの海賊ラジオでドラムンベースがかかっているのを聴いたりして、「なんだ、これは?!」ってなって、自分でも作ろうと思うようになったんだよ。(中略)ジャングルを作り始めた当時、Aphex Twin や μ-ziq みたいな僕の友達は、「ジャングルなんて幼稚だ」って馬鹿にしていたんだ。レイヴ・ミュージックみたいだし、子供っぽい音楽だってね。けど僕は、ジャングルのファンキーな部分が好きだったから作り続けていて。98年くらいになると、ジャングルもだいぶ定着してきたから、Aphex Twin とかも「ジャングルっていいよね」って言い始めたけど(笑)。
■1994-95年のこの辺の曲はドリルンベースなのか
「Plug 1」とほぼ同時期、1995年5月頃にリリースされたPlaidのEP「Android」に収録された「Angry Dolphin」。これは完全に元祖ドリルンベースのひとつとしてカウントして良いのではないでしょうか。いかにもドラムンベースなブレイクビーツの音が鳴ってるわけでもなく、リズムの組み方も全然普通のドラムンベースと違うのに、しっかりドラムンベースに聴こえる、なんだこりゃ?という感じで、当時自分はものすごく衝撃受けました。確かThe Black Dog分裂後の初のPlaid組の新曲だったような。この曲はドリルンベースの歴史の中でもっと重視されて良いのではないかと個人的には思っています。
WARP周辺だと、Autechreも当時ドラムンベースを感じさせる曲をリリースしています。1994年9月リリースの「Anti EP」収録の「Flutter」。スネアドラムが連打されるリズムやテンポ感は十分にドリルンべース的ですが、これをドリルンべースに含めてよいかと問われると、人それぞれ意見が割れそうです。
ロンドンのドラムンベース・シーンの外部からジャングル的なものを作っていたという点で、Alec EmpireやIan Pooleyが出していたドイツのレーベルRiot Beatsが面白い存在です。ここから1994年にリリースされたコンピアルバム「Rough And Fast」は“ドイツ人が作ったジャングル”というコンセプトの作品で、ドリルンベース的なものを感じさせる曲がいくつも収録されています。下の曲はAlec Empireの変名作品。
また、当然、本流のジャングル・ドラムンベースのほうを探せばドリルンベース的な作品がたくさんあるはずです。自分は全然詳しくないですが、詳しい人なら「あの曲はドリルンのルーツなんじゃないの?」っていう曲が簡単にスルスルいくつもあげられるのではないでしょうか。下の3曲はAphex TwinがDJでプレイしたことのある1994-95年のドラムンベースです。
■まとめ
ただ単純に調べたことや自分の記憶をダラダラと書き連ねただけなので、まとめも何も無いのですが、結局今回の記事で何を読み手に一番伝えたかったのか自問自答すると「Luke Vibertって面白いよね」ということかもしれません。ここで「ドリルンベースを発明したのはLuke Vibertだ!」という結論に飛びつくのも違うと思いますし、突き詰めると、どこからどこまでがドリルンベースなのかということになってしまって、ジャンル警察官・ジャンル裁判官・ジャンル測量士みたいなしょぼくれた話になるので、「皆がいたから今があって皆がすごい」と、手を繋いでゴールして皆が1位で世界にひとつだけの花だよ、というような沼地に逃げこんで終わりとします。
Text : 2015年09月04日 15:45
ブックマーク
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL :
http://www.spotlight-jp.com/matsutake/mt/mt-tb.cgi/656