【コラム】西部謙司

2025年のサッカー 

[ 2025年1月4日 10:00 ]

神戸FW大迫勇也
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 2025年はJリーグの最後の春秋制シーズンだ。通常のリーグ戦終了後に移行期の特別大会が開催され、2026年から秋春制(とっても実質は夏春)に移行する。

 これまで欧州主要リーグとはシーズンのずれがあったが、26-27からは同時進行になるわけだ。

 これまで欧州との半年のずれは戦術に影響を与えていた。

 1987-88シーズンにACミランがアリゴ・サッキ監督の下で画期的なプレッシング戦法でセリエAに優勝するのだが、全日空(後の横浜フリューゲルス)の加茂周監督が「ゾーンプレス」と名づけて導入し始めたのは1990年だった。2年も遅れていたことになる。

 ただ、プレッシングに関しては欧州でもその内容がよくわかっておらず、ミランの練習場には世界中の指導者が見学に訪れる「ミラノ詣で」が行われていたくらいで、日本だけがとくに遅かったというわけではない。当時は現在ほど情報がすぐに入ってくるわけでもなく、欧州トップリーグとはレベルの差も大きかったので、ミランの2年後というタイミングはむしろ早いほうだったかもしれない。

 欧州で何かが流行すると、Jリーグに波及するのは1、2年後というのは普通だった。ただし、近年はそのタイムラグは短くなり、欧州とほぼ同時進行になった感もある。

 欧州のやり方を見て、それを採り入れようとしてもシーズンがずれている。欧州リーグが終了する5月にはすでにJリーグが開幕した後なので、そのタイミングで新しい戦術を導入するのは難しい。キャンプを挟んで次のシーズンからということになると、その間に欧州はまた先へ進んでいるという具合だから、欧州の模倣をしていたら同時進行はありえない。しかし、それが現実に起きているのは欧州の模倣ではなく、現場の要請でそうなっていると考えられる。実際、同時進行のケースで監督に聞いてみても「欧州は参考にしていない」という場合があった。

 欧州トップリーグとJリーグでは依然としてレベルに差があるとはいえ、その差は小さくなっていて、戦術的な変化が起こる背景が似てきているのだろう。

 2024年のJ1はヴィッセル神戸の優勝だった。神戸は1対1のデュエルの強さ、縦に速い攻め込みを特徴としていて、2位サンフレッチェ広島、3位町田ゼルビアも同種のプレースタイルだった。一方、欧州もプレミアリーグでリバプール、ラ・リーガはアトレティコ・マドリー、セリエAではアタランタが首位に立っていて、傾向としてはJ1と似ている。まだシーズン途中なのでこの先どうなるかはわからないが、パスワークで圧倒するよりも強度を重視したチームが優位なのだ。

 ポジショナルプレーが普及した結果、それへの対抗策も熟練してきて、現状で守備側が優位性を持っているということだろう。これまでの歴史がそうだったように、技術が体力を凌駕する逆転はいずれ起きると予想するけれども、2025年のJリーグでそうなるとは考えにくい。プレスされてボールを失うケースはJリーグの方が多く見られ、とくに背後から寄せられたときはほぼ打開できないからだ。むしろビルドアップを諦めるチームが増えるのではないかと思われる。

 地上戦で打開できないとなれば、空中戦に活路を求めることになるだろうから、強力なターゲットマンが重要になるかもしれない。すでに神戸の大迫勇也、武藤嘉紀がそうした特徴を発揮している。2025年は2024年の延長として、よりアスリート能力が問われていくのではないだろうか。(西部謙司=スポーツライター)

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