本紙前ソウル支局長起訴

「民衆感情を利用、抑圧の典型」木村幹・神戸大教授

 私的な面であろうと大統領への批判に対し、法的に大きな制約をかけようとしているのは、多くの民主主義国ではあり得ないことで、韓国の現在の政権の問題を顕著に示している。

 この問題は、日韓関係の枠組みではなく、韓国政治のリーダーシップと民主主義の問題からとらえた方がよい。朴槿恵大統領は先般、「大統領に対する冒涜(ぼうとく)は大統領を選んだ国民に対する冒涜であり、許されない」という趣旨の発言もしている。選挙で選ばれた自分を批判するな、と言っているに等しい。民衆が信じる正義のためには多少の法的無理は許される、というポピュリスティックな論理構成で、韓国大統領制型民主主義の暴走と言ってもよい状態だ。

 このような状態で韓国で嫌われている産経新聞をたたいても世論は反対しないだろうという読みも政権側にはあったろう。政権は、世論を背景に産経をたたくことで、加藤前支局長が引用した朝鮮日報をはじめとした保守系メディアに圧力をかけ、敵対する進歩系メディアにも大きな圧力をかけることができる。今回の件は、民衆感情を利用して大統領がメディアを抑えつける典型だ。韓国ではメディアが政権に対して沈黙していく過程に入りつつあるのかもしれない。(談)

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