産経抄

日本人の判官びいきを軽視したか 10月23日

 赤穂藩の旧藩士47人が江戸・本所の吉良邸に討ち入ってしばらくは、上野介(こうずけのすけ)への同情の声の方が多かった。大勢の侍が年寄りを襲うなんて、というわけだ。ところが、赤穂事件を題材とした浄瑠璃や歌舞伎が上演されると、赤穂浪士はたちまちヒーローとなる。江戸研究家の故杉浦日向子さんから聞いた話である。

 ▼庶民の突然の心変わりに、吉良家の縁者たちの戸惑いは大きかったはずだ。パリに出張中の小池百合子東京都知事も日本から届く衆院選の結果を聞きながら、似たような思いをかみしめているにちがいない。

 ▼自ら立ち上げた「希望の党」への追い風は、「排除の論理」をきっかけに逆風に変わった。憲法や安全保障に対する考え方がバラバラでは、将来党内に混乱を招く。その意味でメンバーの選別は、政党のリーダーとして間違っていない。

 ▼ただ、小池氏は有権者の判官びいきを軽視したのではないか。立憲民主党が予想以上に票を集めた一因は、排除された候補者への同情だったとみる。選挙の結果は、兄の源頼朝に追っ手を差し向けられた義経が、逆に鎌倉に攻め上るがごとくである。

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