リアリズムと防衛を学ぶ

本の感想などを書いています。

「災害の一日前に戻れるとしたら、何をしますか?」と被災者に聞いてみたページがすごい

 「一日前プロジェクト」をご存知でしょうか。たいへんいい企画だと思うので、ご紹介させて頂きます。

「一日前プロジェクト」は地震、津波、豪雨などさまざまな災害に遭った方々に「もし災害の一日前に戻れるとしたら?」と聞いて、小さな物語を集め、発信し、共有するプロジェクトだそうです。プロジェクトが発信している物語、イラストは利用自由。企業の社内報や地域の広報にコラムとして掲載するなど、幅広く活用してOK、むしろドンドン語り継いで行こう、といういうものです。

 被災者視線での短い体験談なので、読みやすく、いかにも身につまされます。このブログでは代表的なものをいくつか紹介させていただきます。ご興味をもたれたら、ぜひ元サイトをご覧になってください。

震災の前に知っておけば良かったと、今でも悔やんでいること

 例えば、阪神淡路大震災で被災された70代の方が「震災の前に、これを知っておけばよかった」と、以下のように述べていらっしゃいます。

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知っていれば良かった救急救命法 (神戸市 70代 男性) 平成7年 阪神・淡路大震災

ほんとうにこれを知っとけば良かったというのはね、今で言う救急法の知識ですね。

当時17歳の女の子が助け出されて、50代後半に近いおばちゃんが一生懸命人工呼吸をやっていて、私も手伝って、その子が一度は息を吹き返したんです。

そこで私は、「息吹き返したからこれで大丈夫や」と思い、「あと、お願いします」と言ってその場を離れました。とにかく、他にも助けなければならない人がたくさんおったから。

でも、後で、その子が数時間後に窒息で亡くなってしまったということを聞きました。救急法の「気道確保」とかを知っていたら、口あけて、口の中に詰まっている土を取り出してジュースでも探してきて口をゆすいであげていたら、あの子は助かったかもしれないという思いがずっと残っています。

寝ていた場所がわかっていれば、土壁の土ぼこりを吸い込んでいるかもしれないと気づいたのかもしれないんだけど、どんな状況で助けられたのかも聞かされていませんでしたし。

実際にそういう状況で助かった子もいたようですからね。救急法の知識をもっとちゃんと身につけていれば良かったと、今でも悔やんでいます。

内閣府防災情報のページ

参考

東京消防庁<安心・安全><救急アドバイス><救命講習のご案内>

分かっていたけど、やらなくて後悔したこと

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 地震にそなえてこうしておくべき、と知ってはいても、やらずに済ませてしまう、わかってはいるけど、まあ今やらなくてもいいか……という類のエピソードは数多く収録されています。思い当たることが多く身につまされる話です。

 身の回りを見回してみても、あの家具は高いところに置きすぎだな、あれだけは固定してないな、といった物はありませんか?

 家族などから「あれは危ないぞ」と言われていても、ついそのままになっていて、いざ地震にあって後悔。そんな体験談は多く見られます。

息子の忠告聞き流す (穴水市 60代 女性)

うちは畳の上にジュウタンを敷いていて、置いていた家具が全部倒れてしまいました。板の間に比べると畳は少しフワフワしているから、よけい倒れやすかったようです。

正直、地震なんて1000分の1も思っていませんでした。自分のところには地震は来ないと思っていたので、阪神・淡路大震災の神戸の人たちを気の毒やなあと思っていただけでした。整理ダンスの上とかに書類を入れたカラーボックスをいくつものせていて、息子から「地震がきたら全部落ちるぞ」と言われていたのに。

地域でいろいろ活動してきたけれど「今まで口先だけやったなあ」と反省しました。防火のために風呂場の水を捨てないでおくとかはやっていましたが、家具は固定しておかなければならなかったんです。

内閣府防災情報のページ

 地震でもっとも危険なのは、建物や家具が崩れてきたときの圧死です。家が崩れてきた、二階が落ちてきた、重たいタンスが倒れてきた、というような。ちょっとした作業ですが、いささか面倒なものですから、分かってはいるけど無精してしまいがちです。

 「こうした方がいい」と知っているけど、やらない、というのはありがちなものです。被災経験のある大工さん、建築士さんのような方でさえ、後で悔やまれたとか、自宅の設計でついつい耐震より見栄えをとってしまった、等と語ってらっしゃいます。

「大工の私が一番後悔 ~家具の転倒防止を勧めておけば…」

「建物はバランスが大事」

 ちょっと周囲を見回してみて、せめて家具の固定や、高所に重いものをおかない、といった細々したことくらいは、欠かさずやっておきたいものですね。

ちょっとした備えで助かった

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 そういうちょっとした備えがあったご家庭の体験談を実際に読むと、うちでもやっておこう、という気持ちになります。宮城県北部を震源とする地震と、阪神淡路大震災で被災された方のエピソードに、こういうものがありました。

「倒れたらあぶないな」と家具固定 ~前の地震が教訓に~(石巻市 50代 女性)

食器戸棚とかがいっぱいあるんだけれども、5月に大きい地震があったときに、これが倒れたら危ないなと思って、ヒートン(ネジ)を戸棚につけて、壁の柱みたいになっているところに、全部たこ糸でくっつけていたんです。たったそれだけなんですけれども、倒れなくてすみました。やっていてほんとうに良かったなと思います。

内閣府防災情報のページ


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母の防災意識で命助かる ~つぶれた庁舎見て震災の激しさ初めて自覚~ (神戸市 40代 男性 市職員)阪神・淡路大震災

うちの母親が東京出身でして、地震については、かなり問題意識が強かったんです。で、枕もとには、地震が起きたときに落ちてくるような物は絶対に置かないということを徹底していまして、そのおかげで僕の部屋は……寝ていたところは大丈夫でした。

母親のほうも、細長いロッカーみたいな洋服ダンスを持っていましたが、ベッドと平行に置いていたので、頭の上に倒れるのではなく、ベッドと平行にバタンと倒れたので、命拾いをしました。

内閣府防災情報のページ

 こういうのを読むと、ちょっとの手間なら厭わずやっておこう、という気になりますね。

危機管理のリーダーシップ

 災害のような突発時には、誰もかれもが混乱するため、組織といえども動きが鈍くなりがちです。平時から有事を想定して、対策を練り、指揮をとる人や部署、その権限を定めておくことが重要です。このブログで阪神淡路大震災の記事を書いた際に、ダイエーの中内社長(当時)の指揮ぶりを紹介したところ、Tumblr他で大きな反響をいただきました(過去記事)。ああいった有事のリーダーシップを取れる人がいるとその家族や組織は大いに助かるでしょう。

 一応の取り決めはあったけど、イザとなって混乱した、という役場のエピソードがありました。

船頭さんは誰ですか ~決めておくべきだった役割~ (宮城郡 50代 女性 行政職員)

役場の中に「災害対策本部」が設置されたらだれが本部長になるというのは、カタチ的には決まっていたんですけれども、やっぱりこういう災害になると、いろいろな方面でいろいろな指揮をとる人が出てしまうので、「だれの意見を聞いたらいいの?」という感じでした。

 船頭さんは1人じゃないと船は進みませんから、だれが船頭さんなのかと。そしてだれがこぐのか、だれがその船に乗るのかということなんです。想定されていないことはいっぱいあるし、被害の大きさによって動きは変わるにしても、やっぱり最低限の役割分担を決める必要があったなと思います。

 その後に、そういう反省もあって危機管理課という部署ができたんです。まだ、実際動くときにどうするんだということまでには結びついていないかもしれないけれど、担当部署がはっきりしていれば職員も動きやすいと思います。

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 他に、危機管理のエピソードでは以下の2つが特に興味深いものでした。

いざという時には危機管理のメンバーで判断

仮設トイレにも細かな気配り

被災時の助けあい

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 単に教訓的なばかりでなく、被災時でありながら心温まるエピソードも多く収録されています。

ご近所で「あげます」「いります」 ~玄関前にボードで貼りだし~(神戸市 60代 男性) 平成7年 阪神・淡路大震災

地震後、家の中を片づけるのに大変だった時期に、近所の十数家族で避難所になった近くの小学校に、交代でみんなの朝とお昼の菓子パンを取りに行っていました。初めから決めていたわけじゃなくて、奥さん方が「今日は私が手伝います」、「じゃ、次の日は私が手伝います」って自主的に言ってくれたのが始まりでした。

しばらくたってから、家の前に厚いベニヤ板を出して「こんなものが役立つよ」とか、「こんなものが余っているから使わない?」とか書いた紙を張り出すようにしたら、お互いにないものをスムーズに供給しあうことができました。

うちは、きれいな水の入ったポリタンクを外に出しておいたのですが、どこからか情報を聞いて、「うちのおばあちゃんが薬飲む水がないんですけど、いただいていいですか」とかいって来られるんです。煙やらで、のどがむせたりするとやっぱり水が欲しくなるでしょ、みなさん寄ってきて、最後は犬まできましたよ。

私は、引っ越してきて1年2カ月ぐらいで、近所とは顔見知りになっていましたが、もうちょっと広い範囲に住む、初めて家の名前も知った人たちと一緒に力を合わせることができて、とてもうれしかったです。

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 阪神淡路大震災以降、震災時のボランティア活動はすっかり有名になりました。ボランティアは単に労働力として被災地を助けるのみならず、被災された方々の精神面の助けにもなっている―というのが以下のエピソードです。



仮設住宅に新鮮な風運ぶボランティア (小千谷市 50代 男性)

地震で家を離れ、仮設住宅に入って冬を過ごしたわけですが、ああいうところに入った直後は、精神的にダーっといい調子に上がってくるんですけど、しばらくするとまたズーっと落ち込むんです。ボランティアの方は、タイミング良くちょうどその落ち込んだ時に遊びに来てくれるんです。そうすると、また気持ちが盛り上がってくる。

いろんなボランティアさんがいて、中にはいい加減な人も紛れ込んできましたけれども、それはそれとして、集落の人だけでいると、ほんとうに精神的にだんだん暗くなってくるといいますか、2週間、3週間ぐらいたつと話も尽きてくるんですよ、思うように動けないから。

そういうときにまた顔を出してくれると、いろんな話を世間から持ってきてくれるから、結構盛り上がるんです。何人かで楽しそうにやっていると、周りのみんなもついてくる。

内閣府防災情報のページ

ほか、資料など

 一日前プロジェクトのサイトには、他にも多数のエピソードが収録されています。災害の種類別、場面、地域でソートできるので、ニュースで聞いただけであまり知らない災害を調べてみたり、あるいは教訓が得られそうな場面を探してみたりしてはどうでしょうか。

内閣府防災情報のページ

 こういった体験談で防災意識が高まったら、その気持ちを忘れないうちに、より教訓的な資料に目を通して、何か行動に移したいところです。同ページにある「減災パンフレット」のほか、消防庁の「防災マニュアル」等がありますので、併せてお勧めしておきます。

 少なくとも、地震対策でやっておいて間違いないのは、家具の固定や配置の見直し、扉ロックの設置などでしょう。特に寝床周辺は要注意です。具体的な方法は、静岡県のウェブサイトにある「家具の地震対策」にできる限り倣うのが確実だと思います。(ほぼ同内容のpdf版)

 そこまで時間がかかる作業でもないので、時間をつくって家中やってしまってはどうでしょう。それもできるだけ早めの着手をお勧めします。次の災害の一日前は、今日かもしれないのですから。