KDDIは、前身のKDDが国際通信ネットワークを構築する必要から、'60年代より海底ケーブルの建設や保守を行ってきた。現在、1992年2月に就航したKDDIオーシャンリンク(9,510総トン)と、1993年建造、1998年1月に就航したKDDIパシフィックリンク(7,960総トン)の2隻の海底ケーブル敷設船を保有し、日本周辺海域の海底ケーブルの建設・保守を行っている。
一方、2011年の東日本大震災においては、道路の寸断や光ケーブルの切断により、KDDIとしても陸路からの基地局復旧に大変な困難を要した。こうした経験をきっかけに、海上側からエリア復旧が可能な沿岸地域を船舶に搭載する基地局によって通信を復旧すべく、海上保安庁など関連機関の協力のもとでこれまで実証試験や訓練を実施し備えてきた。
9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震においては、震源地近くの苫東厚真発電所が緊急停止したことによって、北海道全域が一時停電する事態に陥った。携帯電話の基地局には蓄電池設備があり、停電が起きても24時間程度は通信が可能であるが、蓄電池が枯渇してしまうと基地局の電源は落ち通信ができなくなってしまう。こうした状況下で、緊急時における通信エリアを海側から復旧・補完ができるよう、携帯電話の基地局機能をKDDIオーシャンリンクに設置し備えていた。今回、これが初めて運用されることとなった。あわせて、被災地域へ向けた飲料水・非常食等の救援物資を搭載・運搬し、要請に応じて避難所などへ届ける用意がある。
KDDI広報によれば、当初はKDDIオーシャンリンクを苫小牧港に着岸させて船舶型基地局を運用する予定であったが、周辺の陸上基地局が早期に復旧したため、まだ復旧していないエリアに移動させた。現時点(9月9日)で日高町沖約7kmのところに停泊しており、沿岸地域数kmをカバーしている。KDDIオーシャンリンクに設置された船舶型基地局は一般的な基地局と同様に半径数キロをカバーできるものとなっており、港などに着岸すればその港周辺一帯の通信がカバーできるという。800MHzの帯域で、4G-LTEおよび3Gの通信が可能である。バックボーンは衛星通信経由となる。
船舶型基地局は、災害時等における携帯電話エリアの復旧を目的とした無線基地局で、早期のエリア復旧により、災害時の救助・復興活動における連絡手段の確保に貢献できるとして、2011年の東日本大震災をきっかけとして開発と実証実験が進められてきた。2012年6月には、KDDIは総務省中国総合通信局が主催した「災害時における携帯電話基地局の船上開設に向けた調査検討会」に参加。2012年11月には広島県呉市において「携帯電話基地局の船上開設に向けた実証試験」を実施、この結果を踏まえて2013年3月には調査検討のまとめを公表。その後、2014年から2015年にかけて鹿児島県肝属郡南大隅町にて実証実験を繰り返してきた。それらの成果から、2016年3月に関連法令が改正され、以後、KDDIは商用電波を使った船舶型基地局の訓練を行ってきた。こうした近年の備えが、北海道胆振東部地震発災後の迅速なKDDIオーシャンリンクの派遣による船舶型基地局の運用につながっている。
通信各社は、車に基地局を載せて移動し電波を復旧させる「車載型基地局」をはじめ、「災害用伝言板」や、無料WI-Fiスポット「00000JAPAN」の提供など、被災地支援を積極的に行っている。それらの「陸側」からの通信エリアの復旧支援に加え、これまでになかった「海側」からの新たな支援手段としてその成果が期待される。