KDDIが3月に宮城県仙台市にて実施した「災害対策公開訓練」は、起こりうる様々なシチュエーションが考慮された意欲的なものだった。自衛隊や民間企業との連携、ドローンや5Gといった先進技術の活用が盛り込まれた、その訓練の一部始終を本稿でお伝えする。
「陸・海・空」から電波を届ける
訓練は、7つのシーンを想定しておこなわれた。
「大型車載基地局の出動訓練」は、市役所の通信エリア復旧を目的にしたもの。陸路から被災地に到着したトラックから10mを超えるアンテナが空高く伸ばされ、そこから電波を発射。市役所周辺の通信を復旧させた。
2つ目は「可搬型基地局の出動訓練」で、防災センターの通信エリア復旧が目的。この可搬型基地局は、悪路によりKDDIの大型車載基地局が現地までたどり着けないケースで利用される。中継地点で陸上自衛隊のトラックに機材が積み替えられ、到着した被災地で基地局が構築された。
「船上基地局の出動訓練」は、離島・沿岸部のエリア復旧を目指した訓練。自衛隊のヘリコプターで運搬された機材は船舶に運び込まれ、船上基地局が構築される。その後、海から離島・沿岸部に目がけて電波が発射される手はずが整えられた。
「ドローン基地局の出動訓練」は、孤立地域のエリア復旧が目的。自衛隊のヘリから下ろした機材を船舶に運び、船上から内陸部に向けてドローンを飛ばす。その後、船上から吹かせた電波をドローンが中継することで、孤立地域のエリア復旧がはかられる(当日は悪天候のため、ドローンの飛行は回避された)。
「車載基地局による避難所支援訓練」では、被災者が避難できる「イオンのバルーンシェルター」が構築されると、KDDIの車載基地局とUQ車載型基地局の2台が現地に出動、避難所のエリア復旧が果たされた。
6つ目は避難所で増加する通信トラフィックへの対応策。車載基地局による避難所支援を発展させたもので、TOHKnetの協力により、電柱に走る光ケーブルをUQ車載型基地局に接続。避難所で大容量のトラフィックが発生しても耐えられる環境を構築した。
5Gを活用した支援も
最後は「次世代通信5Gを活用した避難所支援」。被災者と遠く離れた家族をVR映像で結ぶことを目指している。訓練では、避難所に設けられたVRカメラの前で母子が無事を報告、遠隔地にてVRゴーグルを装着した父親がその様子に安堵する、というデモが披露された。「高速・大容量」「低遅延」といった5Gの特徴を活かした避難所支援策。担当者は「電話では伝えられない臨場感により、遠く離れた家族をより身近に感じ、安心することができる」と説明していた。
IT技術と連携により、柔軟な対応策を実現
先の震災は、通信事業者にも多くの教訓を残した。あれから7年が経ち、KDDIでは「被災者支援の充実化」と「通信確保手段の多様化」をはかる様々な取り組みを進めてきたという。KDDI 技術統括本部の大内良久氏は、7年前と現在を比較して次のように説明する―――。たとえば、陸上においては当時から車載型基地局、可搬型基地局、電源車を所有していたが、被災状況によっては、それらのアセットを充分に活用できなかった。現在は自衛隊、イオン、UQコミュニケーションズとの協定締結により、困難な状況にも柔軟に対応できるようになっている。
海と空に関して言えば、7年前は有効な手立てを用意できていなかった。現在は、海では海上保安庁と協定締結。船上基地局も実現した。空においては、自衛隊のヘリによる機材の搬送が可能となったほか、ドローン基地局の開発も推進している状況だ。
またモバイル技術本部の黒澤葉子氏は、5Gやドローンを使った被災地支援の取り組みを紹介。例えば、5Gの活用による建機の遠隔施工は、被災地における危険な作業にも有効であると説明する(参考URL:https://www.rbbtoday.com/article/2018/02/16/158234.html
)。この日に披露した、5GとVRの組み合わせによるデモは「高臨場感により家族の距離を縮めることができる」と話した。今後は5Gとスマートドローンを組み合わせ、被災地の様子を4Kの高画質でリアルタイムに災害対策本部に届ける仕組みも確立していきたいと明かした。
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