私を貯金に駆り立てるもの

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25歳くらいの頃、ちょっとした貯金があった。
転勤になるまでは実家暮らしだったのでありがたいことに生活にお金がかからず、最寄のコンビニまで車が必要というほどの田舎ではないものの通勤中にちょっと買いたい服やコスメが見つかるほどの都会でもなかったため年に数度の遠征や旅行以外ではお金を使うこともほぼなく、必要な出費以外をひたすら貯蓄に回した結果、遊んで暮らさなければ3年くらいは生き延びられるかな、という額になっていた。

東京で娯楽に囲まれて暮らす今から思うと、よくもまああんなにお金を遣わずに生きていたなという感じだけど、普通に友達と外食をしたりたまに服を買ったりはしていたし、舞台は今より頻繁に観ていたし、ものすごく切り詰めて何かを我慢していた記憶もない。ただ根が貧乏性で、予定外にお金を使うととてつもない罪悪感に襲われてしまう性格だったため、また前述したように使う場所もあまり無かったため、日々の無駄遣いがすごーく少なかったのだな、と思う。
例として挙げると、私は自販機で飲み物を買ったことはおそらく人生で10回もない。あとコンビニ傘も買わない。定期圏外の駅に予定があるとき、時間に余裕があれば1駅分は歩く。ポケモンGOにハマってからは2駅くらいでも歩いている。東京は駅の間隔が短いので余裕だ。1万円の舞台のチケットは躊躇なく買うくせに、150円のペットボトルや乗車券を買うのにはものすごく抵抗がある。長い目で見ると損をしていると言われるタイプだけど、そういうことの積み重ねでお金を貯めていた。

意識的に貯金をするようになったのは高校生の頃だった。月5000円のお小遣いとお年玉のやりくりだけの話だけど、「これは使わないで貯めておく用」と貯金箱にお金を入れていた。

きっかけは当時大流行していた漫画「ハチミツとクローバー」のある台詞だった。

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貧乏暮らしの美大生である竹本(主人公)が、自分と同じボロアパートで貧乏暮らしをしていると思っていた社会人の先輩・真山が意外と貯金をしていたことを知る、という場面。貯金の理由を聞かれた真山はこう答えるのだ。

ガキの頃 オレ 何かの本で読んだんだけどさ
チャンスってのはどんな人間にも
少なくとも3回は絶対訪れるんだって

―で 大人になって思ったんだけどさ
イザ そのチャンスが来た時に
それに「飛び込めるか」、「飛び込めないか」って
単純にお金の「ある」「なし」にかかってくる事が
ほとんどな気がすんだよね

それにさ
もし好きな女に何かあった時さ
「何も考えないでしばらく休め」って
言えるくらいは

なんかさ
持ってたいんだよね

真山、格好良い…!!
親の庇護の下ぬくぬくと暮らしていた私は、この台詞になんだかとっても感銘を受けたのだった。私はまだ何を勉強したいとかどんな仕事がしたいとか全然わからないけど、どうしてもやりたいことができた時に「お金が無いから」って諦めなきゃいけない可能性があるのか。それは嫌だな。それから「収入の一部は必ず貯金する」ことは私の習慣になった。

じっさい、私が会社を辞めて結婚のために上京することを決めた時、私を何よりも助けたのは貯金だった。

次の仕事が決まっていない状態で新卒からお世話になった企業に辞表を出すのも、社会人になりたてで貯金がほぼゼロという状態の婚約者だけを頼みに物価の高い東京に引っ越すのも、臆病な私には貯金がなければ絶対に無理だった。当面の暮らしに困らないお金があったから、「せっかく仕事を辞めるのだから無職期間を楽しんでみよう」と思い切って長期の旅行を計画できた。(そして楽しすぎて結果的に半年以上も無職をやってしまった)

貯金があったから経済的に100%夫に寄りかかることなく家賃と生活費は払うことができたし、ちゃんと払うものは払っているのだからと後ろめたさを感じずに遊ぶことができた。(夫は私が私の稼いだお金で遊ぶことに文句を言うような人では無いけど、生活の基盤を完全に依存しながら娯楽にお金を使うのは自分にとってはかなりストレスだ)ついでに再就職後に予定外の結婚式をすることになった時も、当座の資金はほとんど私の貯金から出した。

若かりし私が明確な目標もなくなんとなく「いつかのために」と思って貯めたお金はしっかり私の人生に潤いと余裕をもたらし、精神安定剤になってくれた。夫にとってもそうであればいいと思う。真山が守りたかった片思いの相手・リカさんは有名なデザイナーで、真山より遥かに稼いで自立している女性だけど、彼の気持ちはとてもわかる。夫が突然仕事を辞めたくなった時に「何も考えずにしばらく休め」って私も言いたい。カッコつけたい。専業主夫を養えるほどの甲斐性はないけど、半年くらいなら私の貯金でも生きられると思うので、その時が来たら彼も無職を謳歌してみてほしい。株や投資や、どかんと資産を増やす術は持っていないけど、私と大事な人のいつかのために、これからもちまちまと貯めていきます。

該当の台詞は8巻に収録されています。ちなみに私はハチクロだとわかりやすく野宮さんが好きです。