「天才エンジニア」でIT業界は変わらない

相変らずITProが「勘違い奴隷育成キャンペーン」をやろうとしているように見える。

天才高校生はIT業界を変えられるか?

この高校生が偉いんだってことは、まぁそうなんだろうと思うけれど、大変残念ながら彼等がエンジニアになる限り、IT業界なんて変えられない。

彼等がどういったことをやって、どんな成績でどうであったかは「まぁ偉いんだね」とわかればいい。何であれ成果を出すのは良いことだから、そういった意味では評価されていい。まぁこの記事だけでは何が偉かったかまでよくわからないのが残念だけど、リンク先を見ればいい。

というのはまぁいいんだが、問題はこの記者の持っている期待だ。

それでも,マイクロソフトのビル・ゲイツやGoogleのセルゲイ・ブリン,ラリー・ペイジといった天才が世界を変えたように,保坂さんのような天才が将来,日本のIT業界を変えてくれることを,密かに期待してしまうのだ。

という部分。

ここで挙げられている3名が「天才」であったことはまぁいい。でも彼等がこうやって名前を挙げられるようになったのは、技術者であったと共に

経営者

であったからだ(だけじゃなくて「運」もあるけど)。彼等は自分達の技術を元に会社を創り、それをうまく取り回し、それで金が儲かるようにし、それを巨大化させた。だからこそ、彼等の名前がすぐに挙げられるのだ。

彼等が天才であり非凡だったのは、「自らの手で技術を金につなげた」ことだ。間違っても、「単なる天才エンジニア」だったからではない。つーか、「天才エンジニア」と呼ばれるにふさわしい人物ということで言えば、この3名以上の人物はいくらでもいる。でも、ITProの記者ごときがすぐ挙げられる程度に有名であるためには、

技術者である以上に経営者

でなければならない。

残念なことに、技術者がその技術だけで名前を上げることが出来るシステムは、世界中探してもない。つーか、世の中ってそんなものなのだ。「ものすごいITシステムを作ったエンジニア」なんて、一般人が知るわけがない。そりゃ業界の中では有名になれるだろうけど、一般人に知られるわけがない。世の中を変えてしまって一般人にも「有名」になるためには「ものすごい会社をやって」なければならないのだ。「IT業界」的にも、そういった「一般人へのインパクト」がなければ社会的評価にはならない。せいぜい「あいつ凄いんだぜ」程度でしかない。となると、必然的に経営者でなければならない。

だから、件の記事で記者がそういった妙ちくりんな期待を「技術者」に持ってしまうのは「勘違い奴隷」の作るだけである。また、件の高校生に世の中を変えることを期待するのであれば、「ITエンジニア」になることを期待するのはおかしい。

何度も書いているけれど、日本のIT業界に足りないものは、「優れたエンジニア」ではなくて、「優れた経営者」なのだ。シグマの反省をしないバラ撒きをするような政治工作をするような経営者じゃない、もっと「本物」の経営者だ。

日本から素晴しいサービスやソフトウェアが出ることを期待するのであれば、技術者のことで一喜一憂するのは間違い。世の中にあるいは業界が変わるだけのインパクトが欲しければ、優れた経営者を求めるべきなのだ。だから、「未踏」なんてものが本当に必要なのは、

将来のある経営者

の育成なのだ。

だから、いいか、技術者およびその卵達。お前のその技術で世の中を変えたかったら、自分で経営者になるか、いい経営者を連れて来い。漫然と「天才エンジニア」とかおだてられて体良く奴隷にされても、世の中なんて変わらないってことは覚えておけ。まぁ「世の中を変える」ことばかりがエンジニアの本懐じゃないけどね。

PS.

私は件の高校生の業績については何の論評もしてないし、するつもりもない。彼等が天才であるか秀才であるかもどうでもいい。天才は秀才の集合に含まれる者もいればそうでない者もいる。だから「彼等は秀才であって天才ではない」的な論はあまり賛成しない。全ての人は天才である可能性を持っているから。

このエントリの趣旨は彼等が何者であろうと、いわゆる「天才エンジニア」なんかで業界は変わらないということ。別にそれが「秀才エンジニア」でも同じだし、「女性エンジニア」でも同じだし、「凡才エンジニア」でもいい。つまりはそういうこと。

「天才エンジニア」でIT業界は変わらない」への6件のフィードバック

  1. 本論とは外れるかもしれませんが……

    何かこの手のマスコミって「天才」と「秀才」を勘違いしているんではないでしょうか?

    反復学習の結果、他者より先を行っているのが秀才。他者にはないひらめき、と言うか発想があって実現できるからこそ「天才」ってオイラの中では分類しているんですけど。

    誰かが作って答のある問題を解けても「天才」ではないような気が……
    他の人が解決できない問題を解決するから「天才」と呼ばれると思うんですが、違うのかなぁ?

  2. ピンバック: 404 Blog Not Found

  3. 二人とも同じ方向でつっこんでるんですが、私はあえてこの方向でのつっこみはしなかったんです。だから彼等が「どう偉いか」には触れてない。秀才なのはわかるけど、それが天才ゆえなのかもよくわからないし。

    私が良くないなと思ったのは、こういう「技術的に優れた奴等」がこの業界の未来を開くのだという「信仰」にも似た勘違い。それを件の記事は再生産している。そのことです。

  4. おごちゃんが批判したいのは、記事の論旨が間違っているということであって、
    天才云々とは関係ないのでしょう?

    だとしたら、『だから、いいか、』以下の文章は不要なのでは?

    それと、
    「将来のある経営者」と「天才エンジニア」がタッグを組むのが
    日本には向いていると思う。
    ソニーしかり、松下しかり、ね。
    「将来のある経営者」は「天才エンジニア」を見抜けるし、
    「天才エンジニア」は「将来のある経営者」を惹きつけるのが
    世の常だし。
    その両輪が成功した後に「天才」とか「将来のある」の言葉が
    付与されるものであって、
    まぁ、総ずると、この記事を書いた人は、
    そういう経営者候補へのPR効果を狙ったんだとは思うけど、
    相変わらずの記事の書き方なので、
    おごちゃんには引っ掛かったんではないかと。

  5. Danさんのツッコミに同意するけど、それよりも元記事の教授のコメントがひどいですね。「アルゴリズムを思いつくためには,よっぽど数理的センスが優れているか,大学か大学院できちんとアルゴリズムを学んでいる必要があるだろう」って、どこをどうつっこんだらいいのかな…。ちなみに私もかつて「天才」って呼ばれたけど、それって他の奴隷よりも従順かつ大量に与えられた仕事を文句いわずにこなす能力のことを評価しただけだって、後で気付いて、むかついたしだいw

  6. 彼らにとっては、受験戦略の一環でしかないからなあ。この記者はそこんところがわかってないと思いますよ。だからあっちにずれた記事書いているんじゃないかと。

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