日経サイエンス  2006年7月号

トポロジカル量子コンピューター

G. P. コリンズ(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

「エニオン」という不思議な粒子を操ると,“時空のひも”の束で量子計算を表現できる。組みひもの構造は周囲の状況が多少変化したくらいでは変わらないので,エラー発生率の低い現実的な量子コンピューターにつながる可能性がある。

量子コンピューターは古典的コンピューターをはるかに超える能力を持つと期待されているが,ちゃんと動かすにはエラー発生率を非常に低くする必要がある。現在の技術水準では,既存の量子コンピューターの設計でこうした低いエラー発生率を実現するのはとても困難だ。

そこで別のタイプとして,これまでとはまったく異なる物理系を用いて量子計算を行う「トポロジカル量子コンピューター」が提案された。トポロジカルな性質は周囲の環境が多少変化しても変わらないので,本質的にエラーを起こしにくい。

トポロジカル量子計算には,理論的に存在が仮定されているエニオンという励起状態を用いる。これは粒子のようなもので,奇妙なことに2次元世界にのみ存在する。半導体でできた特殊な平面構造を絶対零度近くに冷やし,強い磁場を加えた最近の実験で,エニオンの存在が示された。これに続いて,トポロジカル量子コンピューターの基礎実験が提案されている。複数のエニオンを操作し,時空のなかでこれらがたどる軌跡を“編む”ことが,計算に相当する。

トポロジカル量子コンピューターは従来の量子コンピューターに代わる難解な手法として研究が始まった。まだ赤ん坊の段階だが,現実的でエラーのない量子コンピューターの標準的な実現法になるかもしれない。

原題名

Computing with Quantum Knots(SCIENTIFIC AMERICAN April 2006)

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