若手社会学者・古市憲寿さん(30才)は、著書『保育園義務教育化』(小学館)で、保育園をすべての子どもが通うものとすれば日本社会が変わっていくと説いている。
果たしてこの政策で日本のママたちは幸せになれるのだろうか。4人の子を持つ親でもある保育ジャーナリストの猪熊弘子さん(50才)と古市さんが、保育園義務教育化の是非とこれからの保育、日本のあり方を語り合った。
――現状を変えるため、古市さんは保育園を無償の義務教育にするアイディアを提唱している。実現すれば、待機児童や保育園不足が解消して子育ての環境が整いそうだが、教育方針や費用の問題などから疑問の声もある。
古市:義務教育といっても全員が毎日朝から晩まで利用するのではなく、週1回保育園に預けるだけでもいいんです。信頼できるベビーシッターさんに預けたいというかたや、ずっと子供といたいというお母さんもいるとは思いますが、週1時間でも子供を預ければ母親はリフレッシュできます。
幼稚園の場合は、そのまま幼稚園を義務教育化すればいい。昔と違い、祖父母や地域のサポートが難しいなか、育児を母親だけに押しつけるとさまざまなリスクが生じる。母親と子供が24時間べったりしていると社会性のない子供に育ってしまう危険性があります。最近では、なかなか子離れができない『毒親』も問題になっていますよね。
猪熊:母親ひとりで子供2~3人みるとなるとさらに大変です。社会と子供をつなげるしくみは絶対に必要ですよ。
例えば東京都の町田市や江東区、石川県の金沢市などには、すべての子供を自宅近くの保育園に登録し、“悩みがあれば来てください”と呼びかける「マイ保育園制度」(*註)があります。乳幼児から第三者を関与させれば虐待の防止にもなります。
(*註)妊婦や母親が、近所の保育園で、出産前から子供が3才になるまで保育士等から継続的に育児見学や育児相談、一時保育サービスなどの支援を無料で受けられる制度。
古市:それはいい制度ですね。保育園の義務教育化もマイ保育園と同様のイメージです。
猪熊:もちろん、“私は絶対に預けたくない”という母親もいるでしょう。けれど、今は何もなくても保育が突然必要になる場合もあります。誰もが希望通りのやり方を選べるように、制度を整えておくべきです。
古市:年配世代からは、「私たちは苦労して子供を家で育てたのに、今の母親は楽をしたいのでは」との疑念も聞かれます。
猪熊:家庭で子供を育てることが美化されがちですが、決してそうではないと思っています。私は取材で多くの家庭を訪れますが、幼い子供をベビーサークルに入れて教育用のアニメを見せっ放しで、何の疑問も持っていない人も多いのが現実。食事も今は経済的な格差が広がっていて、末期的な家庭も少なくありません。
古市:確かに貧困は大きな問題です。格差が広がるなか、貧しい家庭にすべての保育を委ねると子供に学力がつかないだけでなく、非行に走ることもある。保育園が義務教育化されれば、犯罪も減って、この国は安全で豊かな社会になります。
※女性セブン2015年8月13日号