ハイブリッドワーク? それとも毎日出社?変わるオフィスのあり方とは…。
「グッドカンパニー研究」当シリーズでは、多様な働き方を考えるカンファレンス 「Tokyo Work Design Week」 を主催し、現代における様々な「働き方」を探求、「ヒューマンファースト研究所(※)」の外部アドバイザーでもある横石 崇さんが、時代をリードする企業のオフィスを訪問取材。
オフィスのありかたから垣間見える企業の理念やコミュニケーションに関する考え方、その企業らしい新しい働き方を探究し、「グッドカンパニーとは何か」を探ります。
いま世界中でオフィスのありかたが見直されています。次の一手のために必要なことは何なのか? 企業にとってのGOODを追求することでそのヒントが見えてきます。(横石 崇)
オフィス回帰の流れのなかで、いち早く「オフィス・セントリック」を掲げたSansanの新拠点へ
第11回は、営業DXサービス「Sansan」やインボイス管理サービス「Bill One」など、働き方を変えるDXサービスを提供するSansan株式会社へ。
2024年9月、同社は渋谷に本社を移転。近未来感が漂うオフィスエントランスのエスカレーターを上ると、Sansanの「S」をかたどった大きなオブジェが出迎えてくれます。
「Nature」をコンセプトに掲げた新オフィスのエントランスを兼ねるのが、「Park」と名付けられた開放的なコミュニケーションエリアです。
そこかしこに配された大小さまざまなグリーンや趣きのあるオブジェが、空間に温かみを添えています。環境に配慮したリノリウムの床材は8色を巧みに使い分け、広がりのある空間にリズムを生み出しています。
「Park」には、仕事にも雑談にも使えるフレキシブルな巨大ベンチやソファが配置され、来客の受付もこのエリアで行なわれます。渋谷の街並みを一望できる窓際には、集中して作業ができるデスクスペースを確保。
奥には「ヨリアイ」という社内交流制度で利用できる専用冷蔵庫があり、お酒を含むドリンクや軽食を無料で楽しめます。
無人コンビニも設置され、ランチタイムから終業後まで、社員同士の自然な交流を促す仕掛けが随所に散りばめられています。
さらに奥には、採用イベントやセミナーなどを行なう「Garden」エリアが。その奥には「Aurora」「Beach」といった自然をモチーフとした名前を持つ来客用会議室が並びます。
執務フロアは全席フリーアドレス制を採用し、多くの席に外部モニターが設置されています。エレベーターだけでなく、オフィス内に設置された内階段を使って移動できるのも大きな特徴です。
そんなオフィスから見えてきた新しい働き方とは?
どのような想いを込めて新オフィスをデザインされたのか、人事本部 Employee Success部の野村 稔さん、コーポレート本部 オフィス戦略部の加賀谷 洋輔さんに聞きました。
グッドカンパニー研究 Vol.11
【調査するオフィス】
Sansan株式会社/東京都渋谷区
【話を聞いた人】
野村 稔さん/Sansan株式会社 人事本部 Employee Success部 Culture & Onboarding グループ グループマネジャー
加賀谷 洋輔さん/Sansan株式会社 コーポレート本部 オフィス戦略部 マネジャー
コロナ禍の逆風のなかで「オフィス・セントリック」を選択
横石 崇(以下、横石): Sansan株式会社のミッションは「出会いからイノベーションを生み出す」。このオフィスに一歩足を踏み入れた時から、そのミッションが空間設計の軸になっていることが伝わってきました。
以前のオフィスもお邪魔したことがありますが、御社らしいステキな場をつくられていました。今回の渋谷への移転が事業戦略や企業文化にどのような進化をもたらすのかは大変興味深いです。まずは、移転の経緯についてお聞かせいただけますか。
野村 稔さん(以下、野村):2007年の創業以来、当社は営業DXサービス「Sansan」や、インボイス管理サービス「Bill One」など、働き方を変えるDXサービスを提供してきました。
加賀谷 洋輔さん(以下、加賀谷):直近3年間で約700名以上の人員増加があり、移転の最大の理由は事業拡大と採用強化です。
以前の表参道本社も1フロア300坪と広かったのですが、座席も会議室も争奪戦が起きるほど手狭になっていました。今回の移転では、分散していたグループ会社や事業部の拠点も集約しています。
横石:なぜ新たな拠点として渋谷を選ばれたのでしょうか?
加賀谷:このオフィスは駅からのアクセスが良く、また渋谷桜丘という地名自体が、4月、出会いのシーズンを連想させますよね。その象徴性が、私たちのミッションとも響き合っていると感じました。
横石:駅から雨に濡れずにこれるのはポイント高いですよね。Sansanは以前から、働き方改革に力を入れてこられましたが、このオフィスづくりにもその姿勢が表れているのでしょうか。
野村:はい。当社は、リモートワークを併用しつつ、オフィスで働くことを基点とする「オフィス・セントリック」という考え方を大切にしています。
コロナ禍で在宅ワークを取り入れましたが、「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを考えたとき、社員同士が会わない環境で本当にイノベーションは起きるのだろうか、という本質的な問いに直面したんです。
そうした意味で、オフィスにみんなが集まってくるための施策を“実際にやる”ことを、とても大事にしています。
横石:世の中ではDXやデジタルシフトとセットのようにしてリモートワークが語られますが、Sansanの考え方はちょっと違うのですね。
野村:私たちは長年、働き方のDXに携わってきました。
その経験から、人と人との出会いの価値は数値では測れないかもしれませんが、真のイノベーションはそこから生まれると確信しています。当社が提供しているサービスも、元をたどれば人と人の出会いから生まれてきたものです。
横石:「オフィス・セントリック」を打ち出されたのは、具体的にいつ頃からでしょうか?
野村:2021年です。コロナ禍で完全リモートワークを経験して約1年後、あえてこの方針を打ち出しました。
当社のミッションを考えたとき、完全フルリモートではその実現が難しいと考えました。社員同士が出会い、シナジーを生み、その会話からイノベーションが生まれる。その経験が、私たちの事業の原点にもなっています。