昔からピッキングに興味があったのですが、ついに先日、ピッキングトレーニングセットを入手しました。さぞかし難しいだろうと思いながらやってみたところ、あまりにも簡単で驚愕しました。その経験から、錠前を越えたマイホームのセキュリティについて考えるようになったのです。

誤解しないでください。この記事はピッキングを推奨するものではありません。それは過去にEvil Weekシリーズでやりました。それよりも、仕組みを知ることで錠の安全の保ち方を知ってほしいです。それに、ピッキング対策とマイホームのセキュリティ確保は同義ではありません。

ピッキングは驚くほど簡単

トレーニングセットは、リングに留められた鍵の束が錠にロックされた状態で届きました。あたかも、「この鍵の束がほしければ、ピッキングしてごらん」という挑戦状のよう。さっそく挑戦したところ、自分でも驚くことに、5分もかからずに解錠に成功したのです。いえ、確かにそれは、トレーニング用の透明な錠でした。ですから、実際のドアについた通常の錠だったらこんなに簡単にはいかなかったでしょう(実際にやってみたら最初はかなり時間がかかりました)。でも、かかった時間というよりも、そのシンプルさに驚いたのです。ちょっと練習したら、ピックをほんのひとさしする数秒間で開けられるようになりました。ゲーム『Fallout 4』で解錠するほうが、よっぽど時間がかかります。

「ってことは、これで我が家が守られてるの?」

そう思った私は、トレ―ニング用の錠と、我が家の玄関についている錠の違いをリサーチしてみることに。その結果、違いはあまりありませんでした。もちろん、もっとピッキング対策を施した錠もあります。たとえばMedeco製の錠を開けるには、ピンを持ち上げる方向の動きだけでなく、ひねりも必要です。でも、ピッキング対策と言ってもその程度でしかありません。ピッキングを難しくすることはできても、不可能にすることはできないのです。それに、通常のドア錠には、そのような機能すらありません。

そんなことを言われると、自宅のドアが心配になりますよね。チェックするには、ANSIの評価システムが便利です。これは、錠業界が使用している、自己評価による評価システムです。グレード3がもっとも弱く、住戸の安全を守る最低限のランクです。反対に、グレード1がもっとも強い錠です。

我が家のドア錠のセキュリティが気になったので、ちょっと調べてみることにしました。我が家の錠は、Yale製のダブルシリンダーデッドボルト式。これまでに住んだ家のうちでも、最高級の見た目です。でも、ANSIグレードは2でした。つまり、平均的な錠よりはグレードが高いものの、ベストではないようです。グレード1の錠には、ピッキング対策が施され、タフな素材と強化された受座が使われています。でも以前も書いたように、錠が上等であるほど、家の中にはさぞかしいい物があるのだろうと泥棒に期待させてしまいます。グレード1のデッドボルトを使う場合でも、通常と見た目が変わらないものを選んだほうがよさそうです。

ピッキング以外の方法もたくさん

ピッキングを学び始めてから、それ専用のフォーラムに参加するようになりました。調べるうちに、ピッキングは楽しい趣味ではあるものの、必ずしも解錠のための最良の手段ではないことがわかってきました。現代のピンタンブラー錠はすでに何百年もの歴史があるため、それを破るための手段も数多く存在しているのです。いくつか例を示しましょう。

バンプキー

見た目は通常の鍵と変わりませんが、どんな錠のピンにも合うようにスロットが作られています。衝撃を与えるだけで、錠内部のすべてのピンがそろいます。あまりにも簡単すぎて、恐怖を感じるほど。当然、鍵の種類が合っていないと解錠はできませんが、そもそも家庭用の錠前はほんの数種類の形に該当することがほとんどです。つまり、泥棒はバンプキーを何本か持っているだけで、ほとんどの家に忍び込めます。しかも、堂々とそれをやっていても、まったく忍び込んでいるように見えません。ちょっと固くなった錠前をいじっているようにしか見えないでしょう。

バンプキーは、お店で売っている通常のブランクキーから作れます。あるいは、オンラインでレディメイドのバンプキーを買うこともできるし、やりたければ3Dプリンターでも作れてしまいます。

ロックスナッピング

ドライバーとハンマーを使ってほんのちょっとの力を加える(ロックスナッピング)だけで分解できてしまうタイプの錠があります。英国に多く、大問題になっています。あまりにも一般的で、プロの泥棒はわざわざピッキングなんかしません。現在使われている錠はほぼ大丈夫ですが、この欠陥が発見される前は、非常に多くの家に使われていました。

クレジットカード

なぜデッドボルトが必要なのかと疑問に思ったことはありませんか? その理由が、クレジットカードです。傾斜つきのエッジを持つ錠(鍵をかけたあとでもドアを閉められる)なら、クレジットカードのように小さくて薄いプラスチックの板をドアとフレームの間に滑り込ませるだけで、ドアを開けることができてしまいます。映画やテレビで見たことがある方法かもしれませんが、実際に使われているのです。デッドボルトは傾斜したエッジを持たないため、鍵を使って施錠する必要があり、クレジットカードでは開けられません。

これらの方法は、2つの小さな金属を持ってドアの前にひざまずき、目に見えないピンを動かすような方法よりもずっと簡単です。つまり、泥棒にとってピッキングとは、最後の手段でしかないのです。

泥棒のほとんどは、そもそも錠を破らずに侵入する

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ピッキングや錠を破る手段の簡単さを知ると、その対策に時間をかけてしまいがちです。これだけ簡単だったら、正気な泥棒はすぐにスキルを身につけてしまうのではないかと思いますよね。でも、実際はそうではないようです。『Washington Post』によると、住居侵入窃盗の犯人は、数km圏内に住む10代男子が大半を占めているとのこと。つまり、プロではなく、悪ガキの仕業がほとんどなのです。

衝動的な犯罪者は、ちまちまピッキングなんかせずに、もっと乱暴な方法で侵入します。ドアを蹴り開けたり(強化受座はこの対策です)、窓を割ったり、うっかり鍵をかけ忘れた勝手口から入ったり。FBIの統計によると、2010年の住居侵入窃盗犯の60.5%は、ドアや窓の破壊、あるいは在宅中の人を脅すなど力ずくで侵入しています。

だからといって、錠前が無用なわけではありません。どうしても侵入したい理由があれば、泥棒は何らかの方法を見つけるでしょう。しかし、窓を割ったりドアを蹴り開けたりすれば、必ず誰かに見つかります。中の人を脅迫すれば、捕まったときの罪が重くなるだけです。それしか方法がない場合、泥棒はあなたの家をあきらめて、マットの下に鍵を隠しているような家を狙うことになるでしょう。

セキュリティとは、泥棒との知恵比べである

映画やゲームの影響で、熟練の泥棒は必ずピッキングをするものだと思っていました。その姿はスマートで、カッコよくさえ見えます。正直な話、ピッキングの練習はとても楽しかったです。おかげで、自宅の鍵をなくしても、歩道に座ってガールフレンドが来るのを泣きながら待つ以外の方法を知ることができました。

けれど、泥棒を防ぐ方法はわかりませんでした。その代わり、彼らの手口に詳しくなりました。部屋に忍び込む方法を知るほどに、彼らがどのようにして問題に立ち向かうかがわかったのです。その結果、得られたことを以下にまとめておきます。

家を魅力的に見せないことが最大の防御

泥棒に入りたいと思われたら、もはや錠前では止められません。ですから、入りたいと思わせないことが肝心です。高価なガジェットを一緒くたにした大きな箱を、ゴミ箱の横に置かないこと。ブラインドは閉めておくこと。ピッキングがいかに簡単かを知った以上、高価でスマートな錠を自宅のドアにつけないこと。それは、「この中に高価なものがあるのでお入りください」と言っているようなものです。

家の周りを隠れにくくする

ピッキングには時間がかかるので、泥棒にとってあまり魅力的な方法ではありません。外にいる時間が長いほど、見つかる可能性が高いからです。つまり、自動モーションライトなどを設置して泥棒が見つかりやすい環境を作れば、あなたの家に入ろうと思わなくなるかもしれません。玄関近くには、植え込みなどの隠れやすい場所はなるべく作らないようにしましょう。玄関が見えないと、泥棒が忍び込みやすくなります。

家の中でも貴重品は隠す

ホームセキュリティを玄関で終わりにしないでください。泥棒は、入りたいと思えば入れるのです。だから、非常に重要な貴重品は隠すこと。あるいは、見つかりやすいところに、おとりとしていくらかの現金を置いておくのもいいかもしれません。それを見つけた泥棒は、本当の貴重品が別の場所にあるとは思わず、それ以上は部屋をあさらずに去っていくでしょう。

ピッキングの練習はとても楽しく、物理的セキュリティの仕組みを知る機会になりました。そして何より、本当に大事なことを知ることができました。自分の家を守るために、砦を築く必要はありません。侵入しようとしている泥棒に、知恵で勝てばいいのです。標的としての魅力を下げる、入られたときの損害を最小限にするなど、方法はたくさんあります。泥棒の気持ちになって考えることが、最大の防御につながるのです。

Eric Ravenscraft(原文/訳:堀込泰三)