リクルートといえば、さまざまな業界で活躍する"卒業生"を生み出している「人材輩出企業」として有名。『「どこでも通用する人」に変わるリクルートの口ぐせ』(リクルート卒業生有志著、KADOKAWA)は、そんなリクルート出身者たちが、同社で飛び交う口ぐせを紹介した書籍です。
実は、すべての口ぐせの根底には、仕事に対するひとつの哲学が流れている。
「自ら機会を創り出し 機会によって自らを変えよ」
これはリクルートの創業者である江副浩正さんが社長だったころの社訓である。リクルートの卒業生の多くが大切にしている言葉だ。(「はじめに」より)
このような考え方を軸に、本書では合計32種におよぶ口ぐせが紹介されています。著者によればそれらには、一人ひとりが成長するために悩み、時に反発しながらも、やがて仕事の楽しさを獲得したストーリーがあるのだとか。
きょうは第2章「『失敗をバネにする人』に変わる口ぐせ」に焦点を当ててみたいと思います。
で、おまえはどうするつもりなの?
失敗しても落ち込む必要はない。
すぐに次の手を考えて前進し続ける
(55ページより)
リクルートで使われていたキャッチフレーズのひとつが、「よい子、悪い子、元気な子」というもの。冗談のようにも思えますが、きわめて大真面目に使われていたのだとか。つまりは「雑草のようなメンタリティーで伸びないと強くなれない」という考え方です。
失敗は誰にでもあるものだけれど、その失敗に引きずられ、次にやるべきことをできなくなってしまうことがいちばんよくない。失敗を恐れず、とにかく前進し続けること。そんなメッセージとともに社員の背中を押したのが、「よい子、悪い子、元気な子」という標語だったのだということ。
つまり「よい子、悪い子、元気な子」になるためには、失敗していつまでも落ち込んでいてはいけない。だから、たとえばなにか失敗をして、そのことを先輩や上司に謝ったとしても、「そんなものはいらん。で、おまえはどうするつもりなの?」と必ず問われるのだそうです。それは、問題に直面したとき、そこから逃げたり落ち込んだりせず、解決策に切り替わっているかどうかの確認。失敗したことよりも、失敗からなにを学び、次にどう生かすかの方が何百倍も大事だという考え方が、現場で徹底されていたわけです。
だからこそ失敗を恐れないメンタリティーが養われていき、果敢に新しいことに挑戦する人材が次々と育っていくことに。リクルートを"卒業"して新しいことをはじめる人が多いのは有名ですが、そのバックグラウンドには、「よい子、悪い子、元気な子」のスピリットが流れているということです。(50ページより)
達成するヤツとしないヤツに大した差はない
目標達成できるか否かは能力の差ではなく
「あと一歩」を詰められたか否かの差
(59ページより)
目標を達成できる人と達成できない人の間には、大きな実力や努力の差があると思われがち。ところがリクルートでは、達成・未達成はほんのわずかな差でしかないと考えるのだといいます。現場では「あと一歩登れば、海が見えたのに」というフレーズが聞こえてくることがあったそうですが、これは、「達成するヤツもしないヤツも、大した差はない」ということ。達成するヤツは、目標ギリギリのときに、最期まで登り切ることをやめなかっただけ。でも多くの人間が、本当はゴールまであと一歩なのに、そこで最後の一歩を登ることをやめてしまう。
そんななか、目標達成にこだわりを持っているため、最後の「あと一歩」をおろそかにしないのがリクルートのスタイル。そこで社員は基本的に、いつも目標から考えるのだといいます。たとえば最初に500万円の目標を設定したとしたら、普通の会社であれば目標はずっと500万円のまま。しかしリクルートは、必ず「残数字」で追いかけるのだそうです。「あと2週間で300万円、残り1週間で100万円」という具合に考えていくわけです。
つまり、あと100万円なら、なんとかなる。そのような「あと一歩」の考え方をする。そして「あと一歩、残り100万円」まできているのに、そこで目標達成を諦める人間は、リクルートにはいないそうです。数字は結果に対して厳しいようなイメージもありますが、個人の目標達成を周囲が支えることもまた、リクルートの文化。あと一歩のところまできていて、目標達成に強い思いがあるメンバーのことは、先輩や同僚、マネジャーも最後まで見捨てないということ。いろんなアドバイスをしたり、資料作成を手伝ったり、みんなが「あと一歩」を後押しするのだそうです。そんな雰囲気が、周囲の人間に「次は自分も達成したい」という気持ちをもたらすのだと著者は説明しています。(56ページより)
フィードバック、フィードバック、フィードバック
フィードバックを行うとチームの結束力が高まり、力が最大限に引き出される
(65ページより)
リクルートにはROD(事前に本人や上司、組織のメンバーに取ったサーベイを基にお互いにフィードバックする活性化研修)に代表される、フィードバックの文化があるのだといいます。「なぜ、あのときあの判断をしたのか」「どこがよくてどこが課題だったのか」ということを全員で話し合うわけです。
普通そのような場合、上の立場の人間が下の立場の人間から感想を聞き、それに対して意見やアドバイスをするもの。しかしリクルートのフィードバックは、そうではないのだといいます。つまり年齢も経験も関係なく、みんなが気づいたことを共有し、戦術にまで落とし込むということ。「反省して終わり」ではなく、「次は具体的にどうするか」まで詰めるというわけです。
たとえば営業所で商談予定を確認し合うときなども、形式的に進めるのではないのだとか。「メンバー個々がなににどうやって取り組むか」、コミットしたことをみんなで共有するというのです。そしてそれに対し、他のメンバーが「こんな提案もできるんじゃない?」というようなことを考えてフィードバックする。本人もそれでやろうということになれば、自分から「この提案でやります!」と表明する。するとメンバーのチェック機能が働いて、「あの提案、ちゃんとやれた?」とフォローし合えるということ。
ときには後輩から先輩に「ちゃんとやってください!」といわれることもあると聞けば、立場の上下も関係ないフィードバックを実現することは難しそうにも思えます。しかし、それくらいフィードバックをし合うことで、お互いの仕事がひとごとではなく「自分ごと」になるという考え方です。さらに個々の仕事も、お互いがフィードバックしあってフォローできるようにすることで、1+1が3にも10にもなるといいます。結果的に、チームとして大きな成果につなげることができるのです。(60ページより)
たたきのたたきをつくれ
企画をつくるときは
最初から完璧なものを目指さなくていい
(79ページより)
普通に考えれば新入社員に「企画をゼロからつくれ」というのは無茶な話ですが、リクルートでは日常的なこと。「たたきのたたきでもいいから出せ」といわれるのだそうです。根底にあるのは、「企画をゼロからつくるのは、そのまま仕事の流れをおぼえることにもつながる」という考え方。
なお、「たたきのたたき」で話や企画を進める方法には、2つの目的があるのだそうです。まずひとつは、新人が物事を進めるとき、自分が考えたたたきのたたきがベースになっていると、先輩や上司から「もっとこうしてみたら?」とアドバイスやアイデアをもらったときに理解しやすいということ。そしてもうひとつは、社内で企画を通すために、たたき台を出すことで最初から自分が持って行きたい方向にセットできる点。いろんな人が自由に発言すると突飛な議論になりがちですが、たたき台があることで議論をコントロールしやすくなるということです。
新人は「たたき台を出せ」といわれるとプレッシャーに感じてしまいがち。しかし、たたかれるものがある方が、「なぜそうしたいんだ?」「他のやり方は?」と問われたとき、論理的な話ができると著者はいいます。結果的にそれは自分のプラスになり、参加している他の人に取っても学びになる。いわば、たたかれるほど強くなるのが、本当の企画だということです。(72ページより)
本書を読んで感じるのは、リクルートの人間関係における先進性です。そのぶん、従来的な企業で応用することはそれほど簡単ではないかもしれません。が、今後の働き方を模索するという意味で、参考にする価値は大いにあると感じます。
(印南敦史)