はじめまして。私は2015年4月からオランダのデンハーグに移住し、現地ビジネスの立ち上げに取り組んでいる神戸真理(かんべ・まり)です。
私は日本で生まれ育って25年。海外旅行経験と度胸だけはありますが、帰国子女でもなければ、海外暮らし歴もなし、起業したこともないし、英語力も日常会話レベル。そんな私が今、オランダに住み、オランダ起業を実現しています。
私が現在展開しているビジネスは、オランダ生活に必須の施設や暮らしのコツをお伝えする生活スタートツアーや、居住許可の代行取得、起業支援、オランダで暮らす人々の生き方に関するマガジン作成など、これからオランダで生活する方や移住を考えている日本人をサポートするというもの。今後はヨーロッパの玄関口とも言われるオランダを拠点に、日本文化を海外により広めるための文化交流ワークショップやマーケットでのイベント企画にも事業を進める予定です。
1912年に締結された日蘭通商航海条約(The Treaty of Trade and Navigation between the Netherlands and Japan)により、日本国籍を持っている人ならオランダで起業・滞在する際に特権が認められています。海外移住でネックになることが多いVISAの問題ですが、私の場合、この条約を活用することで居住許可を得ました。
今回の記事では、そんな私の経験を元に、私がオランダに興味を持ったきっかけや、オランダ移住に必要な具体的な準備、現地での生活環境について詳しくご紹介します。
オランダ移住までのプロセス
1. 大学で知った「オランダ起業のハードルの低さ」
幼いころから海外に興味を持っていた私は「いつか海外に住んで自分の知らない世界を見てみたい」と思っていました。祖父が起業家だったこともあり、起業にも興味を持ち、大学で商学部に進みました。そこで、大学時代の恩師を通して知ったのが「オランダ起業の条件」でした。歴史的に深いつながりを持つ日蘭関係により、日本はオランダで最優遇されている国の1つ。また、オランダ国民の約8人に1人は個人事業主であるため、スモールビジネスに有利な税制などがあり優遇されています。私にとって、これは絶好のチャンスだと思えました。
2. オランダについて情報収集+人脈作り
オランダに興味を持った私は、オランダについてもっと詳しく知るため、オランダとの深いつながりを持つ長崎出島やハウステンボス訪問の他、外国人留学生との異文化交流イベント等に参加しました。フレンドリーでオープンなオランダ人の国民性や、人との違いを個性として認める寛容さ、母国語でないにも関わらず英語を流暢に話せるという点は、オランダ人に見られる共通点でした。
中でも一番印象深かったことは、仕事に対する考え方の違いです。一般的なオランダ人にとって、仕事はあくまで「人生」のほんの一部に過ぎないのです。仕事を優先しがちな日本人とは対称的ですが、オランダ人は家庭やプライベートを最優先します。
英Economist誌(※1)によると、パートタイム(1週間の労働時間が36時間以下)で働く人の割合は、オランダ労働人口の半数を超えます。こうした労働環境の柔軟さにより家庭の時間を大切にする親が多く、父親も子供の育児には協力的です。実際、自転車で子供を学校へ送り迎えしたり、ベビーカーを押して買い物する父親の姿なども日常的に見かけます。
親と一緒に過ごせる時間が増えると子供の幸福度も増すことから、ユニセフによって6年毎に行われる「子供たちの幸福度調査(※2)」では2007年・2013年にオランダが第1位を獲得しています。
さて、ここからは移住する際に必要な書類や手続きについて、私の経験を通してご紹介します(この情報は2015年9月現在の情報です。今後オランダ移民局の意向によって変更になる可能性がありますので、オランダ移民局の最新の情報を参考にしてください)。
日本出発前に準備すること
まず、アポスティーユ(外務省による認証印)付きの戸籍謄本を取得します。法律上、オランダではアポスティーユ取得は不必要と定められていますが、近年オランダで移民が増えている関係で書類チェックが厳しくなっているため、アポスティーユ印を取得しておく方が安全です。
オランダにて一時滞在許可証の取得
日本大使館にて戸籍謄本の英訳書類(戸籍証明と結婚証明)を準備し、それに対してリーガリゼーション(オランダ外務省からの認証印)を取得します。その後、移民局にて個人営業申請書への記入を済ませ、日蘭条約に基づいて起業をする予定である旨を伝え、一時滞在許可証(6カ月間有効)を発行してもらいます。
私の場合は、オランダにて移民弁護士等を介さず個人で申請手続きを進めました。その際、滞在可能日数(90日)に余裕があっても上記の一時滞在許可証を必ず取得しないと次の手続きに進めないことを知りませんでした(移民局係員からの案内やHPへの記載無し)。そのため、移民局からは「すべての書類を揃えてから来て」、商工会議所からは「市役所で住民登録をしてから来て」、市役所からは「一時許可証がないと住民登録ができない」と言われ、各機関を右往左往する状態でした。移民局係員はすべてのケースを把握しているわけではなく、係員によっても案内にばらつきが多少あります。起業準備中であることを目で確認できる書類(ビジネスプラン等)を手元に用意し、手続きの過程で一時滞在許可証が必要である旨を筋立てて説明する必要があるかもしれません。
住民登録
一時滞在許可証を取得後、上記のリーガリゼーション付き英訳書類や居住予定先を証明する住まい契約書を用意し、市役所にて住民登録を行います。2週間後、市役所からBSNナンバー(オランダの市民登録番号)の通知書が送られてきます。
日蘭条約に基づく、居住許可の申請準備
1年間で5000~10000ユーロ(2015年9月時点のレートで約68〜136万円)以上の利益が出るよう計画を立てたビジネスプランを作成します。必須ではないですが、あらかじめ用意しておくと商工会議所との面談時にスムーズな話し合いができます。そして商工会議所にて個人営業申請書とビジネスプランを提出し、担当係員との簡単な質疑応答チェックを受けた後、会社登録手続きに入ります。登録後、その場で会社登録証明書を取得。上記の会社登録証明書をもとに現地銀行のビジネス用口座を開設し、投資資金4500ユーロ(約60万円)を入金します。この資金が確実に存在することを証明する為、BECONナンバー(税務署が与える公認番号)を持つオランダの公認会計士にバランスシート作成を依頼します。
居住許可取得
移民局に再度赴き、会社登録証明書とバランスシートを提出。係員と共にすべての書類が準備できているかを最終チェックし、申請完了です。申請から約1カ月後、居住許可が無事に取得できたことを知らせる通知が移民局から送付され、2年間の居住許可カードを取得できます。
ここまでの準備に必要だった金額は、約6000ユーロ(80万円)程度。その中に、事業の資本金4500ユーロを含みます。居住許可の申請料1279ユーロに関しては、日蘭条約に基づく支払い金額(53ユーロ)との相違に気付いた弁護士のもと移民局に訴訟を起こしている段階です。
移住後の実際の生活について
治安
これまでアジア・ヨーロッパ・南米など16カ国を旅した経験がありますが、オランダは比較的治安が良く、ヨーロッパ他国と比べてもより安全な国であると感じます。外出する時間帯や置き引き・スリ防止など、海外旅行での基本的な注意点に気をつけ自己管理をしていれば問題ないです。人が多く集まる場所では常に警察が警備し、電車やトラム内でも車掌が巡回しているため、日常生活の中で喧嘩騒ぎや窃盗被害などの事件を見かけることは滅多にありません。
ただし、移民による事件頻度の多い危険地域等があるので、家探しの際には現地に詳しい知り合いや信頼できる不動産会社を通して住まい探しをすることをお勧めします。
生活環境
オランダは日本のように四季があり、1年を通して過ごしやすい気候です。特に、夏至を過ぎた6月~8月は昼間が長く、夜22時頃まで外が明るいのでとても気持ちがいいです。言語に関しては、オランダ国民ほとんど(80~90%以上)が英語を話せるため、基本的な日常英会話ができれば生活の上で困ることはほとんど無いです。日本人が多く住む街(Amstelveen)や日本食品店、日本人会なども充実しているので、心の頼りになる場所があり現地ネットワークを広げやすいのも良い点です。
また、オランダには自転車道が存在し、車・人・自転車それぞれの道路環境が整っているので交通事故も少なく安全です。
物価
ヨーロッパは物価が高いイメージがありますが、実はオランダはそんなに高くないです。外食費は日本に比べて割高ですが、自炊に関しては食料品がとても安くて便利です。スーパーやマーケットでは、ミニトマト30粒で1ユーロ、イチゴ1パック1.5ユーロ、ムール貝1kgで2ユーロなど、新鮮で美味しい食材を格安で手に入れることができます。日本の百貨店で買うととても高いオランダ産チーズも、半額以下で購入できます。
また、ビールやワインなどのアルコール類も格安で味が良く、種類豊富です。オランダ名物のハイネケンビールだけでなく、隣国のドイツビールやベルギービールまでも1瓶1ユーロで手に入るのはオランダ生活の贅沢な特権です。
日本の生活との違い
オランダ人は基本的に夕方17時になると仕事や学校から一斉に帰宅し家族で夕食を囲みます。そのため、オランダに住み始めてからは外食が減り自炊中心の生活に変わりました。また地域にもよりますが、スーパーなどは平日18時閉店や日曜定休日の店舗もあり、食料品の買い出しは店舗時間に合わせて行うため、無駄な買い物が減り、倹約的な生活を送っています。
また、日本の挨拶はお辞儀や握手ですが、オランダでは頬を三度合わせる挨拶、ハグ、握手など相手や場面によって挨拶の種類を使い分けます。特に、握手の際に手を握る力が弱いとやる気がないと思われ相手を不快にさせてしまうので、しっかりと相手の手を握って挨拶するという事実も現地生活の中で実際に学びました。
現地で出会うオランダ人について
電車内でも知らない相手同士で自然と会話し始めるなど、気さくでオープンな性格の人が多い上、好奇心旺盛で他国の文化についても物知りです。また、食べ物の好き嫌いや物事に対する考え方について、自分の意見やYES・NOをはっきりと明確に伝える表現を好む傾向があります。
助け合い精神が強く、公共の場にて荷物の多い人や子連れ親子の手伝いを積極的にする人々をよく見かけます。また、オランダ人は誕生日をとても大切にしており、家族や友人の誕生日には必ずメッセージやカードを贈り祝います。パーティーやイベントでは子供からお年寄りまで世代差関係なくみんなで集まり陽気に楽しむ姿が印象的です。
海外暮らしはもちろんオランダ旅行歴すらなかった私は、万が一のことがあればすぐ帰国できるよう往復航空券を購入していたほど最初は不安で一杯でした。そんな私がこうして海外起業できるのは、日蘭条約を使って年齢に関係なく自分のビジネスを立ち上げチャレンジできる環境がオランダにあるからです。
もし海外移住や起業に少しでも興味があるのであれば、オランダを選択肢の1つに入れてみてはいかがでしょう?
【著者プロフィール】
神戸真理(かんべ・まり)
オランダ・デンハーグ在住の個人事業主。明治大学商学部卒業後、日本の航空会社にて約3年勤務。その後、2015年4月からは生活と仕事の拠点をオランダに移し、現在はオランダ移住予定者の新生活サポートを手掛ける「Orange Life」の事業を展開。今後は日本各地の文化を海外により広めるための文化交流ワークショップやマーケットでのイベントを企画予定。個人ブログ「Mariholland」ではオランダ移住後の実生活の様子や在住者目線の穴場スポットなど、現地生活に役立つ情報を発信中。
※1 Economist誌「Why so many Dutch people work part time」