世界最大のオープンソースコミュニティとして知られる「GitHub(ギットハブ)」。全世界のユーザー数は900万人を超えています。同サービスを運営するGitHub社は先日6月4日に記者会見を開催し、日本支社「ギットハブ・ジャパン」の設立を発表しました。今回ライフハッカー[日本版]では、記者会見に合わせて来日したCEOのクリス・ワンストラス氏にインタビューをする機会を得ました。

彼が語ったのは、GitHubの企業文化から、プロダクトを改善するアイデア、全社員の7割を占めるリモートワーカーの存在や、GitHubが社会に与えている影響について。「そもそもGitHubってなに?」という人にとっては、同社について知る良いきっかけとなるでしょう。

GitHubの原点は、2人のプログラマーがスムーズに仕事を進めるためのツール

── 簡単に言うと「GitHub」はどんなサービスですか?

GitHubは、ソフトウェアを構築するためのツールです。作られるものは、iOSのアプリ、ウェブサイト、個人的な創作であったりとさまざまですが、サービスの特徴として大きいのは、数人と共同で作業することができる点です。また、GitHubは世界最大のオープンソースコミュニティでもあります。

── GitHubは、開発者が自身のポートフォリオを表示する場所であり(そういう意味で仕事を見つける場であり)、コードが公開されているのでプログラミングを学習している人にとっての教育の場でもありますよね。このように、ユーザーが「本来とは違う使い方」をするとは当初予想していましたか?

全く予想していませんでした。当初は、単純に2人のプログラマーがスムーズに仕事をするために何ができるか、ということを考えていただけでした。でも、そのプロセスで気づいたのは、2人がコラボレーションできるなら、もっと大人数でもコラボレーションできるということです。現在GitHubは、「プログラマーのソーシャルネットワーク」のような存在になっていますが、このように使われるとは全く予想していませんでした。

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── 社員の生産性を高めるために取り組んでいることはありますか?

社内で自社のツール(GitHub)をできるだけ使うようにしています。例えば、今日もこの後ホテルに戻ったら私がインタビューを受けている間に起こったことをGitHubで確認しますし、何か問題があれば指示を出します。会社として自社の製品を使う努力をすることで、自分たちでツールを改善していく姿勢を持つことができるし、サービスを他の人に広めることができると思っています。

── GitHubを知らない人に、GitHubの企業文化を言葉で説明するとしたら、どう表現しますか?

GitHubには、誰でも生産性と独創性を高めようとする文化があると思います。目の前にある仕事を淡々とこなすのではなく、GitHubをもっと良くするには何ができるか、もっとスムーズにコラボレーションするためには何ができるか、といったアイデアを常に社内で出し合っています。なので、GitHubの企業文化を説明するとすれば、"Ideas can be found anywhere"(社内のどこからでもアイデアが出てくる組織)と言えるのかもしれません。

── 一般的な会社であれば、会社の経営層が社員に向かって「アイデアを出せ」と言うだけでは、一向にアイデアが出てこない、なんてことがありがちです。GitHubの場合、アイデアを出すために具体的にされていることはありますか?

会社として、社員が顧客とできるだけ近い場所で働けるようにしています。今回、GitHub日本法人を立ち上げたのもこのためで、顧客の近くにいて初めてプロダクトの改善点に気づくことも多いのです。具体的には、それぞれの国でGitHubの使い方を教える講習を開いたりしているのですが、そこに社員が出向いてメンターとして使い方を教えることで、顧客が何を望んでいるか、何に不満を持っているかといったことに気づくことができます。顧客との距離を縮めることで、社員のモチベーションを上げることにもつながるのです。

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(左)ギットハブ・ジャパンのジェネラルマネージャー堀江大輔氏。(右)GitHub社CEOのクリス・ワンストラス氏。

リモートワークは、顧客の近くで働くためにある

── Githubの社員は、7割はリモートで働いていると聞きましたが、GitHubでは何人の人が働いていますか? またそれぞれ世界中のさまざまな場所に散らばっているのですか?

約300人くらいの社員がいて、約150人はサンフランシスコに、残りは世界中に散らばっています。

── リモート勤務はトップの考えで導入した制度だったのですか?それとも現場からリモートで働きたいという要望がありそれに答えたのですか?

そもそも、GitHubが設立されて2〜3年はオフィス自体がありませんでした。ほとんどの社員はサンフランシスコにいましたが、毎日会うわけではないですし、週に2〜3回カフェで会ったりしていただけでした。現在のリモート勤務は、ある意味その頃の名残がそのまま引き継がれているという感じです。

── 残りの3割の人は、どのような理由で会社に残っているのですか?

社員がオフィスで仕事がしたいかどうか、というよりも、その社員が社内でどのような仕事についているかによります。リモートで問題なく進められるプロジェクトもあれば、対面で会って進めないといけないプロジェクトもあります。なので、リモートワークをするかどうかは会社が決めることではなく、社員が決めることだと考えています。ただ、社員が世界中に散らばっているということはそれだけ顧客に近い場所で仕事ができて、地域的なサポートができるという意味でもあるので、会社として推奨している面もあります。

── GitHubの功績の1つに、開発者を会社という地理的制約から解放した、ということがあります。例はいくつでもあると思いますが、例えばReddit(米国で人気のソーシャルニュースサイト)の開発者もGitHubを使っていてアラスカに住んでいます。このように、場所を選ばない働き方というのは、今後さらに広がっていくと思いますか?

場所を選ばないで働く人は今後増えるでしょう。会社にとっても社員にとっても、リモートで働くメリットは多いし、技術的にもリモートワークは多くの仕事で実現できます。ただ、コミュニケーションについて考えたとき、やはり対面に勝るコミュニケーションはないとも思います。なので、この両方のバランスを取っていくことが課題になるでしょう。GitHubでは少なくとも1年に2回は世界中の社員が1カ所に集まってミーティングをすることにしています。

GitHubは高校生でも使える

── 世界的に普及したGitHubですが、社会にはどんなインパクトを与えていると思いますか?

例えば、「ファースト・ロボティクス・コンペティション(FIRST Robotics Competition)」という米国で毎年開催されるロボット競技大会があります。全米の高校生がロボットを作って参加するイベントなのですが、このロボットの開発にGitHubが使われています。高校生がGitHubを使いこなして、チームを作ってプログラミングをしているのです。

このイベントの素晴らしいところは、ロボットの開発自体がおもしろいだけではなく、プログラミングを学び、GitHubの使い方を学び、チームワークを学ぶことになるからです。これは、社会に出て働き始めるときにすぐに役立つスキルばかりです。ちなみに、NASAも宇宙開発でロケットを作ったりするのにGitHubを使っているんですよ。

このように、今まで専門家しかできなかったことを一般の人や高校生でも使えるようにした、という点こそ、GitHubが社会に与えているインパクトだと思います。

── 日本のユーザーに何を伝えたいですか?

プログラミングが仕事じゃなくても、プログラミングを学んでください。今、誰でもソフトウェアに囲まれた生活をしています。今後、IT企業はさらに増えて、今以上にソフトウェアに囲まれる生活になるでしょう。今どんな仕事をしているかは関係なく、プログラミングの知識があれば今後必ず役に立ちますよ。

(大嶋拓人)

Photo by Chiaki Oshima