赤ワインには寿命を延ばす効能があるとか、目玉焼きは健康に悪いとか、チベットで見つかった野生キノコ(か何か)が魔法のようなスーパーフードだとか、そんなニュースをあなたも毎週のように目にしているでしょう。でも今回の記事ではあえて、こうした研究成果を鵜呑みにして生活しても意味がないことを、例を挙げて解説したいと思います。
こうした研究成果は、文字通り毎週のように出てきます。原文記事が書かれた前日にも、米Lifehackerには筋肉増強サプリが寿命を縮める要因になっているかもしれないというトピックについて、記事が載りました。けれども、食べ物に関して、このように「クロかシロか」という単純化したアプローチをとるのは、まったく健康のためになりません。それどころか、ありがちですが的外れな「寿命の最大化」というゲームに引き込まれるだけです。この言葉を考案した、科学的証拠に基づいたフィットネスを提唱するBryan Chung博士によれば、このゲームのルールは以下のようなものです:
- あるものに「多少でも」あなたを死に至らしめるリスクがあれば(肥満、発がん性、自然発火など、死に至る道筋がどうであれ)、その食べ物を避けなさい。
- ...実はそれ以上のルールはありません。
あとは、ただ時間が経つのを待ち、このゲームに参加したのだから長生きできるのではと期待するだけです。もちろん、昨日のテレビの健康情報番組で話題になっていた、やたらと値段の高いハーブサプリと同様に、本当に効果があったかどうかはまったく確かめようがありません。
しかし、これは非常に危険なゲームです。幸せで充実した人生を送れなくなってしまうだけでなく、長期的に見ると、まさにこれが原因で実際に死んでしまうことすらあり得ます。というのも、健康のためにとるべき最良の選択の中には、ここまで触れてきたような研究成果とは正反対のものもあるからです。
研究結果を元に生活を変えてもムダ?:相関関係は因果関係にあらず
大量のデータを対象とし、そこに含まれる変数の間に関連を見いだそうとする研究は、疫学的研究と呼ばれます。ここで考察されるのは相関関係、つまり明確な理由付けのできない関連性です。
1人あたりのマーガリンの消費量と、ある州における離婚率の相関関係や1人あたりのサワークリーム消費量と、バイク事故死亡者数との相関関係など、バカげた例をいくつか挙げるだけでもわかるように、相関関係から因果関係が導き出せるとは限りません。
ただしこれは、相関関係に意味が「まったく」ないということではありません。相関関係について確実に言えるのはただ1つ、因果関係をさらに検証する追跡調査が必要だ、という点だけです。
例えば、果物や野菜を多く食べれば寿命が延びるという話を耳にしたとしましょう。これは、人口の一部について行った観察研究に基づいて導き出された結果です。事実、果物や野菜には何種類もの重要なビタミンやミネラルが含まれていて健康に良いのですが、ここにはほかの要素も絡んでいます。
果物や野菜をきちんと摂取しようと積極的に努力する人は、おそらく全般的に健康に気をつけている可能性が高いはずです。運動し、よく眠り、お酒を控える、といった行為が、いずれも長生きにつながっているのかもしれません。また、社会の中でも金銭的に余裕のある人のほうが、無理なく健康的な食生活を送りやすいでしょう。そういう人は、教育や医療、仕事や住む場所に関しても、よりよい条件を手に入れやすいはずです。そしてこうした要素も、人間の寿命を決定する上で大きな役割りを担っています。
こうした研究の話題は、よく大々的に取り上げられます。視聴率を上げるためにメディアが意図的にセンセーショナルな取り上げ方をしているのか、あるいはいわゆるエセ科学のたぐいなのかはわかりませんが、相関関係と因果関係の違いをちゃんと理解せずに、こうした報道を鵜呑みにしてしまう人は多いのです。
このような研究結果に振り回された末に、食べ物を「スーパーフード」と「ガンの原因となって命を縮めるもの」の2つに分けないと気が済まない、不安に駆られた消費者たちが生まれているのです。
人のカラダは複雑系
疫学的研究や動物実験は、人間の知見を広げるための足がかりにすぎず、行動の指針にして良いものだとは限りません。けれども残念ながら、こうした研究の成果を耳にした一般の人々は、これを健康に関する意思決定プロセスに取り込んでしまいます。
例えば、ある人が健康に関して問題を抱えていて、主治医からその問題の第一の原因は体重だと指摘されたとしましょう。筆者自身、以下のような内容の会話を、これまでに患者さんと何度となく繰り広げてきました:
筆者:炭酸飲料はどのくらい飲んでいますか? 患者:1日に5本は飲みます。炭酸飲料は私の大好物なんです。 筆者:ダイエット飲料に切り替えられませんか? それなら1日あたり600カロリーの減少になるので、1週間で1ポンド(約453グラム)は痩せられますよ。 患者:あまり気が進まないですね...。アスパルテームとか、ダイエット飲料全般は、健康に悪い影響を及ぼすんじゃないかと、すごく心配で。
この患者さんは、減量しなければ死んでしまう恐れすらあります。単に飲む物を変えるだけで人生が変わるような結果を出せるのに、こうした人は信ぴょう性が怪しく、疑いの声も多い甘味料の影響が心配なあまり、こちらの提案に耳を傾けてくれません。2次的な問題ばかりに気を取られ、真っ先に取り組むべき問題に目が向かないのです。
同様に、読者のみなさんの中には、乳製品は好きだけれど、今は極力摂らないようにしている、という人もいるでしょう。残念ながら、どこかで「牛の乳を飲むのは不自然だ」という話を耳にしたのですね。けれども、牛乳には重要な栄養素やミネラルが豊富に含まれていますし、チョコレートミルクを1パック飲み干した時に得られる、心理的満足感も格別です。確かに、気の利いた広告キャンペーンが、特定の食品が健康に良い、あるいは悪いと、一面的な見方を示すかもしれません。でもそんなことは決してないのです。
「寿命の最大化」ゲームにはまりこむと、小さなことを積み重ねていけば長生きできるという、危険かつ間違った考え方に陥ります。問題は、こうした細かい決断をする時、人はとかく、その結果として起きる事柄はほかに影響を及ぼさないと考えがちな点です。
しかし、健康はそんな仕組みにはなっていません。人のカラダは複雑系であり、あらゆる決断がそのほかの決断に影響を与えます。ポケモンとは違って、「健康ポイント」は簡単に集められるものではないのです。このようなことを繰り返していると、個々の健康に関する俗説という「木」に目を奪われてしまい、第一に取り組むべき問題という「森」からの出口が見つけられなくなります。
重要なのは、喫煙などの「実際に存在するリスク」と、アスパルテームのような「潜在的なリスク」を区別して考えることです。もちろん、タバコを吸い続けるよう薦めているわけではありませんよ。けれど、これを食べたら自分は死んでしまうのではないかといちいち気にするのをやめたほうが、より幸せに暮らせるはずです。そうすれば、頭脳というリソースを無数の小さな問題にムダに費やすことなく、数は少ないものの大きな意味を持つ決断に集中できるのですから。
細かい健康に関する豆知識よりも、それぞれの人にとって健康に良いか悪いかは時と場合によって異なり、どのような行動にも、健康に関する投資対効果が存在するという点を学んでください。
疫学的研究であなたの死期を予測することはできない
Bryan Chung博士の書いた「あなたはいずれ死ぬ」という素晴らしい記事があるのでご紹介しましょう。この中で博士は、死亡率に関する各要素の相関関係を長期にわたって調べた研究について、その問題点を指摘しています。
人間が個別に持つ、目標を達成する意志の力には限りがある。そして、私たち人間のカラダはストレスに関して、物理的なものとそうでないものの区別がつかない。さらに、死は避けられないものであり、個々の人の正確な死期は予測できない――この3つの考え方を受け入れるのなら、長期の死亡要因に関する研究は無視するべきとの結論に至るはずです。なぜなら、全死因を含めた死亡率やその増減という概念自体が、その論理構造から言って、意味をなさないからです。
「潜在的」な健康リスクを示唆する研究を無視しろと言われても、最初は直感的に抵抗を覚えるでしょう。でも、これは理にかなっているのです。こうした潜在リスクを気にすることはすなわち、ひょっとしたら単なる幻想かもしれない相関関係に、自らの健康を賭けることを意味します。しかもその相関関係は、あなた自身が本当に必要としている事柄とはまったく関係がないかもしれません。実際、「常に死を避け続ける」生き方を選んだために、自分らしく生き、さらなる健康を手に入れるためにエネルギーを使えなくなってしまうかもしれません。そのあたりの話を、Chung博士はさらにこう説明しています:
特定の食材や介入を完全に排除、あるいは受容するためにエネルギーを費やすたびに、単に死を避けるのではなく、自分らしく生きるために使えたはずのエネルギーが、限りある意志の力のプールから奪われていきます。該当する食材や介入を生活から排除あるいは受容することによって生じるストレスは、「死は避けられるし、コントロールできる(少なくとも予測はできる)」という、誤った論理から生まれたものです。ゆえに、そのストレスもバカげたものです。
もちろん、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の登場人物のように、出てきたと思ったらあっさり殺されてしまうのは誰だってごめんです。健康で長生きしたいというのは万人の願いでしょう。でも、推論でしかないリスクを避けるのためにあなたの大切なエネルギーをすべて費やすのは問題です。充実した人生を送れないだけでなく、健康に関して、個別の小さな問題に気を取られるあまり、大きな問題に目が行かない、という事態を招くだけなのです。
Dick Talens(原文/訳:長谷 睦/ガリレオ)