最近は生産性や効率に関することに注目が集まり、「もっとたくさん、もっと早く」が現代社会の哲学として普及しています。しかし、本当にそんなふうに暮らすべきなのでしょうか。

「多忙中毒」になって幸福感は増すでしょうか。忙しいのは良いことだと言われ続けている今、どうしたら生活を向上させられるでしょうか。

多忙中毒症

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「最近どうしてる?」と誰かに聞かれて、「忙しい」という言葉が入らない返事をした最後はいつだったでしょうか。

私の大学院生仲間の間では、そんなふうに答えることはかなり稀です。忙しいことと生産的であることを結び付けて考えてしまい、生産性の高さは成功と幸福につながると思っているから>です。

過去数年にわたり多くの人がこれに気付き、「多忙信奉」という考え方が人々の意識にのぼり始めました。ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された1995年のバーバラ・エーレンライク氏のアッパーミドルや上昇志向の女性職業人に関する論文や、そこに書かれていることを基に書かれたもっと最近の論文が読まれた結果です。忙しいことは成功や幸福と直結していないかもしれないという考えに多くの人が気付き始めたのです。

スケジュールがパンパンに詰まっていたり、同時にさまざまな作業をこなしていたり、電話会議が6つもあったり、処理いなくてはいけないメールが300通もあると、自分は成功者であるように思いがちです。確かに、たくさんのことをこなしています。求められている人材でもあります。でも、それが成功と結びつくという発想はどこから来ているのでしょうか。

エーレンライク氏は、大成功を収めている人たちを観察すると(恐らく、少なくとも彼女の経験によればですが)、超多忙な人には見えないことに気付きました。成功者の秘密は「人生のとても早い段階でどうしたら忙しくならないようにできるかを学んでいる」し、「そういう人は概して、忙しく腕時計をチラチラ見続けたり細かいToDoリストを作ったりしているような種類の人ではない」というのが同氏の見解です。

あなたが大成功を収めている人たちに大勢会ったことがあるかどうかは別として、何でも並行してできているように見える人ならきっと見たことがあるでしょう。必要なことはきちんとやり遂げ、家族と過ごす時間を取り、友人と出かけ、趣味も持っている、そんな人です。そういう人はこういうことを同時に全部していることでストレスを感じているようには決して見えません。超人的だからでしょうか? 違います。多忙信奉を拒否しているからです。

「忙しい」ってどういうこと?

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ここまでこの記事を読んだ人の多くは、「うーん、僕は忙しいよ。やることが山のようにあって時間が足りないんだから」みたいなことを考えているかもしれません。それはそうかもしれません。しかし、「忙しい」とは正確にはどういうことなのかをはっきりさせておきたいと思います。忙しいとは、することがたくさんあることではありません。忙しいとは心の状態のことなのです。

我々の多くは次にしなければならないことを気にしたり、特定のプロジェクトに従事している間は着手できないことをいろいろ考えたり、仕事のメールを携帯電話でいつもチェックしたりして、心が忙しい状態で人生の大半を過ごしています。忙しいという気分を生み出しているのはいつもスイッチが入っていて注意や集中の対象が目まぐるしく変わるこの状態なのです。

忙しさとは、ある意味で、マインドフルネスの対局です。マインドフルネスの状態にあると、いま取りかかっている作業に集中して、自分の考えを自分でしっかり認識して、心と身体が必要とするものと常につながっていられます。忙しいときは、ひとつのことから次のことに急いで移り、ストレスを感じながらそれを十分にやれたか心配しています。そして一般に仕事にばかり集中しすぎます。

Alice Wignall氏がガーディアン紙に寄稿した記事で完璧にこれをまとめています。

私はしょっちゅう忙しいわけではありません。一生懸命仕事をするときもありますが、それは忙しいのとは別のことです。詩を書いたり実験的な脳の外科手術をしているときは仕事に必死になっていいのですが、それは「忙しい」とは言いません。ベートーヴェンは一日の終わりに「今日はピアノソナタ14番変ハ短調を書くのに恐ろしく忙しかったよ。この音符を全部書いたんだよ!」と言いながら夕食のテーブルにつくことは決してありませんでした。

スローテック・ムーブメントとは何か

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ここ30年で「スロー」ムーブメントがずいぶんいろいろ出てきました。スローフード、スローシティ、スローディベロプメント、スローエデュケーション、スローファッション、スロートラベル、スローエイジングさえあるんです。(英語版のWikipediaでスロームーブメントのリストが見られます)。こうしたムーブメント全部に共通しているのは、生活のペースを落として何でも最速でこなそうとしないことを強調している点です。何でもできるだけゆっくりやるということではなくて、その内容にあったペースでやろうということです。

スローテックはテクノロジーの速度を落とすということではありません。生活の速度を上げるためではなくて、生活を向上させるためにテクノロジーを使うということです。スローテックの根幹となる主義の1つは効率や生産性ではありません。現代のこの2つのゴールドスタンダードの代わりに、楽しくて意味のある暮らしをすることを強調しています。テクノロジーはこの目標に向かって後押ししてくれることもあれば、邪魔になることもあります。

スローテック・ムーブメントの目指すところのほとんどは内省に関することですが、外界とのシンプルな触れ合いもそれに劣らず大切です。いま手掛けているプロジェクトを次のステップに進めるのに必要な返信が来ているかチェックするよりも、家族や友人にはじまりバスの中の見知らぬ人に至るまで、自分の周囲にいる人たちと触れ合う瞬間を大切にすることです。

スローテックは仕事を避けたり、こなす量を減らしたりすることではありません(そうは言っても後者は長い目で見るとテクノロジーとの健全な関係を促進するのに役立ちますが)。テクノロジーをいつどこで使うか、あるいは使わないかという適切な線を引くことです。こうした線を引くのは難しいかもしれませんが、次の章で提案していることを試してみてください。

生活をスローダウンする

テクノロジーとうまく関わることにより生活の質を向上させることは、私たちみんなが是非とも目指したいことです。テクノロジーの使い方と変革の必要がある点は各個人の状況によって違いますが、以下の10の提案を見れば、どこから始めればいいかわかるでしょう。

  1. 夕方5時以降、あるいは仕事が終わった後は仕事のメールはチェックしない。
  2. 少なくとも午前8時から夜9時の間はスクリーンから離れる日を週に1日作る(カメラのスクリーンだけは例外)。
  3. ソーシャル・メディアのアプリを携帯電話から消去して、今までソーシャル・メディアに使っていた時間を実際に人と会って社交するのに使う。
  4. 毎日散歩する時間を作り、新鮮な空気を吸って自分の周りの世界をしっかり見る。目を携帯電話から離し、ToDoリストから心を離したとき目に入ってくるものに驚くかもしれません。
  5. 心を遣ったマインドフルな状態でブラウジングをする。
  6. 楽しむために本を読むこと。少なくともアジャイル・プログラミングや起業についての本ではなく、読んで楽しいか興味を引かれる小説やノンフィクションにすること。
  7. ポモドーロ・タイマーを使って1日のうちに何度か休憩を取りコンピューターやタブレットや携帯電話から目を離す。
  8. メールやソーシャル・メディアの受信通知を解除して、わざわざそういうものを読んだり返信したりする時間にまとめてチェックする。
  9. 自分に合った情報ダイエットをする。
  10. パーティ、バー、夕食会などあらゆる社交の場では緊急の場合を除き、携帯電話を使わないと宣言する。

上記10の習慣を全部実行するのは容易ではありませんが、最初は1つか2つから始めると、生活を変えるのに役立ちます。自分は多忙信奉に洗脳されてはいないと思っていても、ここでご紹介した10個のうちのいくつかは是非挑戦してみてください。スクリーンから解放された日曜日を何週か続けてみると、驚くほど実践する価値のあることだと私は気付きました。携帯電話のメール受信通知を解除したら、メールに隷属する度合いが低くなりました。

「スロームーブメント」に関するTEDトークで、ベストセラー作家のカール・オノレイ氏はスピードこそ命という神話の正体を暴きつつ、時間そのものについて考えてみて欲しいと言っています。

マインドフルネスの実践と一緒になったスローテック・ムーブメントは自分の人生の主導権を取り戻させてくれるでしょう。今日駆使しているテクノロジーは生活を良くするために発明されたのであって、人間がテクノロジーの奴隷になるためではありません。この先の1週間のうちで、いくらか時間を取って自分とテクノロジーの関係をどうやって改善していくか考えてみましょう。友人や子どもやパートナーと話して一緒に目標を決めましょう。それは間違いなく、時間を使うに値することです。

Join the Slow Tech Movement to Cure Your Hectic Life|makeuseof

Dann Albright(訳:春野ユリ)

Photo by Shutterstock.