健康を保つのは簡単です。「食べすぎず、身体を動かす」を実践するだけの話です。言うのは簡単ですが、健康やフィットネスの話で特に重要なのは、「それは実践可能か」ということです。このようなアドバイスは一般論にすぎず、実践の役にはほとんど立ちません。もっと具体的な話をしましょう。例えば「食事制限と運動では、どっちが大事?」みたいに。
誰だってできるだけ健康的な食事をするべきだし、毎日運動をしたほうが良いに決まっています。より健康でいるためにできることなら、それこそ星の数ほどあります。例えば、座っている時間を減らす、野菜を多く摂る、加工食品はできるだけ避ける、アルコールを控えるなど...。ですが、こうした健康法はどれも、現実の生活を踏まえたものではありません。時間、エネルギー、意思の力、お金など、あらゆるリソースには限りがあり、私たちはその縛りを受けているのです。こうした現実を考慮していないアドバイスを真に受けるのは問題です。実践が続かず、「自分はフィットネスや健康の目標達成に失敗した」という気分にさせられてしまう(英文記事)からです。
「実践できるかどうか」がどれほど大切かを示すために、学術誌『Journal of the American Medical Association』に発表された最近のメタ研究(複数の研究成果を統合する研究)をご紹介しましょう。これは、過去に行われた59の研究結果を比べて、「どの食事制限が一番効果的か」を探ったものです。対象となった研究は、それぞれ異なる食事法を推奨しており、低脂肪の食事を勧めるものや、炭水化物を控えるよう呼びかけるものなどがありました。では、その中で究極のアドバイスはどれだったでしょうか? 実は、どれでもありません。どの食事制限にも、大きな違いはありませんでした。減量の成功の鍵を握っていたのは、「被験者がその食事制限をどれだけ忠実に守れるか」でした。ということは、成功の秘訣は実践できるかどうかにかかっていると言えます。
この研究はさまざまな食事法の中で優劣を競うものでしたが、熱心なフィットネス信者は「食事制限と運動ではどちらが重要か」を気にするようです。そこで、この問題についても、「実践できるかどうか」を念頭に置きながら、さまざまな研究結果を見ていきましょう。
カロリー入門
生理学的見地からすると、体重の増減は主にカロリーの摂取量と消費量に応じて起こります(注)。そのため、カロリーの基本を理解することが大切です。早い話が、食事による摂取カロリーを、消費したぶんより少なくすれば、体重は減ります。逆に、消費したぶんより多くのカロリーを摂取すれば、体重は増えます。1ポンド(約454g)の脂肪を減らすには、カロリーの消費量が摂取量を3500カロリー上回るようにしなくてはいけませんが、これは運動と食事制限のいずれを通じても達成できます。
(注)余談になりますが、体重の増減を裏で操る真犯人は炭水化物とインスリンであるという説が出回っていることにも触れておきましょう。これは「肥満のインスリン仮説」と呼ばれています。病気などのために炭水化物とインスリンの量のコントロールが必要な人がいるのは事実ですが、この仮説が誤りであることはすでに証明されています。
話を戻して、例えば、体重200ポンド(約91kg)の男性が1週間で1ポンド(約454g)減量したいとしましょう。この男性が運動だけで減量するつもりで、食事を変えないと仮定すると、毎日3.5マイル(約5.6km)走る必要があります。1週間ではのべ24.5マイル(約39.4km)走った計算です。逆に、食事制限だけをして、運動量は一切変えないとすると、摂取カロリーを1日当たり500カロリー減らす必要があります。これはだいたい、スターバックスのフラペチーノ2杯分に相当します。理論上は、どちらの方法でも同じ結果にいたるはずです。
ただ、フィットネスの世界では、理論と現実は一致しません。なぜなら、理論は「どれだけ続けられるか」を考慮していないからです。私たちが理想的な生活を送れるとは限りません。自宅のすぐ近くにジムや自然食品の販売店があり、栄養士やトレーナーが個別に管理してくれる、という人ばかりではないのです。現実には、私たちは毎日、自堕落な生活を送っています。そうなれば、結果は目に見えていますね。
研究結果からわかること
ためになる健康ブログを運営しているJohn Briffa医師は、食事制限なしで運動だけ続けた場合の体重の減り方についての研究を紹介し、次のように分析しています。
この研究では、標準体重から肥満体重までの閉経後の女性320人を対象とし、それまでの生活習慣に運動を追加するグループと、追加しないグループ(制御グループ)とに、無作為に分けました。運動を行うグループの被験者らは、中程度から激しい有酸素運動を、1回45分、週に5回の割合で1年間続けるよう指導されました。運動を追加したグループと制御グループのどちらも、食生活は変えないようにと指示されました。
1年後、運動グループは制御グループと比べて、平均で2kgの脂肪を減らしたことが確認されました。私たちの多くは、脂肪が2kg減ればうれしいと思います。ですが今回は、これだけの減量のために、彼女たちがどれほど努力しなくてはならなかったかに注目したいと思います。
運動グループは、45分間の運動を週5回行うよう指示されていましたが、実際の運動頻度は平均すると週に3.6日でした。1週間当たりの運動時間の合計は、平均すると178.5分でした。これを52倍すると1年間の運動時間(単位は分)の合計が出ます。それを60で割ると、単位を時間に直せます。そうすると、運動時間の合計は、155時間をわずかに下回るくらいでした。つまり、脂肪を1kg減らすために、約77時間もの運動をした計算になるのです。
多くの人は、77時間も運動をして、減らせる脂肪はわずか1kgだと聞いたら、しり込みするのではないでしょうか。
では、定期的に運動しながら、同時に食事の摂取量にも気をつけるようにすれば、どうなるでしょうか?
学術誌『International Journal of Obesity and Related Metabolic Disorders』に発表されたある研究では、日ごろから鍛えている被験者らに対して、エネルギー消費量と、食事の摂取量を記録するよう指示しました。被験者らによる記録の上では、摂取カロリーが消費カロリーを下回る傾向がずっと続いていました。ところが、研究チームが実際の変化を確認すると、実際には体重は減っていませんでした。どうしたわけかというと、被験者たちはカロリーの摂取量を過小評価する一方で、消費量を過大評価して記録をつけていたのです。
上に挙げた研究とは正反対になりますが、栄養学の教授がみずから被験者になった面白い実験も紹介しておきましょう。Mark Haub氏は、トゥインキーなどのジャンクなお菓子ばかり口にしながら、総摂取カロリーを低く保つことで、10週間で27ポンド(約12kg)の減量に成功しました。「トゥインキー・ダイエット」として報じられましたが、良い子は真似をしないように。
運動メインの減量プラグラムだと、いまいち効果が出ない理由
ここまでの情報で困惑しているかもしれませんが、心配ご無用です。これまでの話の裏には、実にシンプルな真相が隠されているのです。ここからはそれを、2つに分けて説明しましょう。
理由1:運動による消費カロリーは、全体の中で見れば比較的小さい運動をメインにした減量プログラムだと、いまいち効果が出ない理由を知るためには、毎日の消費カロリーの内訳を理解することが大事です。
私たちは、カロリーのほとんどを「生きていくため」だけに使っています。このために使われるカロリーは、「安静時代謝率(RMR)」として知られています。この数値を割り出す計算法の中でも特に正確なのが、体脂肪の割合を考慮した「Katch-McArdle計算法」です。その計算式は次のようになります。
9.81 x 除脂肪体重(ポンド) + 370(カロリー/日)
例えば、体重が200ポンド(約90.7kg)で、体脂肪率が30%の男性の場合を考えてみましょう。9.81 * 200 x (1-0.30) + 370というわけで、ただ生きているだけの場合でも、1日当たり1743カロリーを消費していることになります。
実際にはこれに加えて、あと約10%ほど消費しています。これは「食物の産生熱量(TEF)」として知られる、食べ物の消化と吸収に使われるカロリー量です。
さらに、「非運動性熱産生(NEAT)」と呼ばれる代謝のプロセスによって、もう10%消費します。これは、日常のちょっとした動作で消費されるカロリー量です。残念なことに、この値は個人差が非常に大きくなります。
つまり、ベッドから起き出しもせずに1日を過ごしたとしても、この男性はすでに2100カロリーを消費しているのです。
さて、ベッドから起きて日々の作業をこなせば、さらに10%のカロリー消費が見込めます。ここまでで2300カロリーを燃やしていることになります。
上記の計算式に、運動によるカロリー消費を加えたところで、総消費カロリーに対して、それほど大きな違いは生じません。ほとんどのカロリー消費は、運動靴を履く前に終わっているのです。もちろん、だからといって、運動をすべきでないと言ってるわけではありません。それでも、カロリー消費の大半を占めているものが何なのかを知っておくのは重要です。例えば、もし年収が10万ドル(約1200万円)あるのなら、家計の足しに新聞配達を始めようとは思わないですよね?
理由2:カロリーの摂取量、消費量の見積もりが甘すぎる学術誌『The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness』に発表された別の研究報告を見てみましょう。この研究では、被験者に運動をさせ、消費したカロリーを見積もってもらい、そのあとでビュッフェスタイルの食事に連れて行きました。被験者らは、自分で消費したと思うカロリーの分だけ食事を摂るように指示されました(こんな実験なら、被験者になりたいです)。
その結果、被験者らは、実際に消費したカロリーの2倍から3倍の量を食べてしまいました。
これらの研究すべてから言えることは、カロリー消費量はあまり参考にならないし、私たちはカロリーの摂取量と消費量のいずれについても、正しく推測できないということです。
食事制限と運動をうまく組み合わせるには
食事制限と運動をうまく組み合わせるために、筆者は友人で肥満の専門家でもある、カナダのオタワ大学医学博士Yoni Freedhoff氏に話を聞きました。Freedhoff氏は、カナダで最大級の肥満クリニックを運営しており、健康およびフィットネスの面から、多くの人の減量を助けてきました。Freedhoff氏は次のように説明しています。
私が見てきた人たちの多くは、ジムにいる時よりもキッチンにいる時の方が、ずっとストレスを感じています。ジムに行ったり、散歩したり、いつもより少し遠くに車を停めて歩いたり、できるだけ階段を使うようにしたりするために、1日に30分かそこら時間を工面してみましょう、という助言には進んで従う人でも、お弁当の支度や自炊や食べたものの記録のために時間を割くとなると、乗り気でないことが多いのです。私はある意味、それは世の中がそう思い込んでいるからだと思います。米NBCのダイエット・リアリティ番組「The Biggest Loser」などは、間違いなくこの思い込みを助長しています。食品業界が巨額を投じて、「エネルギー摂取と消費のバランスをとりましょう」と宣伝しているのも一因です。でもそれだけではなく、野菜を切ったり保存容器を洗ったりしたところで幸福ホルモンが得られないことも、理由のひとつだと思います。
Freedhoff氏は、さらに詳細に語ってくれました。
ほとんどの人は体重を減らし、かつ健康状態を改善したいと思っています。そのためには、ジムとキッチンのどちらも必要です。ですが、減量のほうに力を入れたい場合でも、私なら「運動の時間を工面するためにキッチンをサボる」ような真似はしません。むしろ、ジムで過ごしたいと思う時間の少なくとも3分の1は、キッチンで使います。
どのくらいの時間を過ごすのが最適かという話ですが、あるライフスタイルを続けていくためには、それを好きにならないと始まりません。ある人にとって最適な長さは、他の人にとっては少なすぎるかもしれないし、長すぎるかもしれません。最適かどうかを見分ける一番シンプルな方法は、「こんな感じで永遠にやっていけるだろうか」と自問することです。もし答えが「いいえ」なら、何かを変える必要があるのでしょう。
Freedhoff氏は極めて多数の患者の減量を成功させてきた実績があるので、患者たちの共通点についても聞いてみました。
もっとも成功するのは、一貫性と不完全性を持ち合わせている人たちです。ここでは、体重管理や健康的なライフスタイルを始める時のことを、武道を習い始める場合と重ねて考えてみましょう。誰も、最初から黒帯をもらえるとは夢にも思わないですよね。その代わり、まずは何度も何度も何度も基本動作の反復練習をします。数え切れないほどの失敗を繰り返すでしょうが、それは失望ではなく期待につながっています。そして少しずつ、しかし確実に、上達していくのです。同じことは、どのようなスキルを習得する場合にも当てはまります。健康な生活を送るというスキルについても同様です。
また、道場に通い始めた時点では、頭の中で華麗な「飛び後ろ回し蹴り」をイメージできたとしても、とても実演はできないでしょう。健康な生活についても、やはりこれと同じことが当てはまります。ひとたび健康なライフスタイルを身につけたらどうなるかをイメージするのは、さほど難しくありません。でも、そこにたどり着くまでには、ゆっくりコツコツと進んでいかなくてはいけません。いくつもの失敗を経ることになるでしょう。
彼はほかにも、いくつかのすばらしいアドバイスをくれました。
誰かがおごってくれるのでない限り、ランチを外食で済ませるのはやめましょう。わずかな運動でも一貫して続けることは、気が向いた時だけたくさん運動をするよりずっとましです。毎日2、3分かけて食事日記をつけるだけで、1日30分をジムで過ごすよりもずっと大きな影響が体重に現れるでしょう。
ではどうすれば良いのか
さて、これまで見てきた多くの情報からわかることは、運動は減量の単独の手段としては比較的効率が悪いし、場合によっては逆効果にもなるということです。そこでここからは、減量を確実に成功させるために、どんなステップを取れば良いか紹介しましょう。
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自分の1日当たりの消費カロリーを知ります。エクササイズ支援サイト『ExRx』の計算機を使うと便利です。精度を上げるためには、4つ目の入力欄は身長ではなく、プルダウンメニューから「%Body Fat(体脂肪率)」を選択すると良いでしょう。自分の現在の体脂肪率がわからない場合は、Leigh Peele氏の記事が目安になります。
- 摂取カロリーを減らします。目安は、身体を維持するのに必要なカロリーの20%ぶんです。摂取カロリーを減らす場合でも、タンパク質の摂取量を増やすと、満足感を得やすいはずです。なお、タンパク質は、三大栄養素の中でもっとも「食物の産生熱量」が高いため、炭水化物や脂肪と比べて、消化のためにより多くのエネルギーを消費します。
カロリー不足を補うために、どのくらいのタンパク質を摂取すべきでしょうか? 栄養士のAlan Aragon氏は、自分の目標とする体重を定め(単位はポンド)、その数値と同じグラム数のタンパク質を摂るよう勧めています。例えば、体重200ポンド(約90.7kg)の女性が120ポンド(約54.4kg)まで落としたいなら、1日当たり少なくとも120gのタンパク質を摂取しなければなりません。
- カロリー計算に慣れてきたら、カロリーよりも三大栄養素それぞれの摂取量を計算するのも良いですよ。多くの人は(筆者も含め)、運動と食事を同じ「カロリー」という単位で捉えてしまいがちですが、カロリーではなく三大栄養素に注目することで、この先入観から抜け出せます。いわば一種の「ハッキング」術です。三大栄養素の計算方法の基礎知識のすべては、ここで学べます。
上で紹介した減量法では、運動にまったく触れていないことにお気づきでしょう。カロリーの消費量や摂取量を考える際に、運動という要素を計算に組み込むのはお勧めしません。それでも、可能な限り実践可能な範囲で、運動を取り入れるべきです。
「減量の舞台がキッチンなのは、間違いありません」とFreedhoff氏は述べています。「それでも、健康はジムで得られるものです」。
Dick Talens(原文/訳:風見隆、江藤千夏/ガリレオ)
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