この5年間、ジャーナリストとして仕事をする中で学んだことがあるとすれば、「誰かと出会って最初の2秒で、成功するかどうか決まってしまう場合もある」ということです。第一印象は、キャリアを広げもすれば、つぶしもするのです。重要な面談なのに、最初から「何だかうまくいかない感じ」がして、実際に最悪の結果になったことが何度かありました。これはイライラが溜まります。自分にはどうしようもないのですから、こちらがどんなにがんばったところで、第一印象で相手に悪く思われてしまうと、その評価を覆す方法はまずありません。

もちろん、第一印象が肝心なのは、ジャーナリストだけではありません。その他の職業も、プライベートでの幸福や成功もすべて、周囲とうまくやっていけるかどうかにかかっています。では、私たちが知り合った相手に対して、わずかな時間でどんな印象を持つか(そして相手があなたにどんな印象を持つか)を決定づけているのは何でしょうか。

最初の2秒の「瞬間的認知」

経営学の授業や各種のセミナーでは、意思決定についてあれこれ教わるかもしれません。でも、すべての選択が理詰めで行われるわけではありません。

私たちは遺伝的に、すばやく意思決定するようにプログラミングされています。相手を魅力的だと感じるか、相手を信頼できそうか。そうした判断はすべて、わずか数秒のうちの出来事なのです。自分では「ただ直感に従っているだけ」のつもりかもしれません。でも、この最初の数秒での判断は、脳を介さない脊髄反射のようなものばかりではありません。

こうした場面で、私たちは無意識に思考しており、これを「瞬間的認知」(rapid cognition)と呼びます。マルコム・グラッドウェル氏は著書『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』の中で、この瞬間的認知について、「私たちにとってなじみ深い、慎重な意思決定という思考スタイルに比べると、もう少し動きが速く、はたらきに未解明の点が多い」と説明しています。

ストレスのかかる状況では、直感的に戦うか逃げるかを一瞬で決める「闘争・逃走反応」(fight or flight response)が起こります。ただし、瞬間的認知はこれとも違います。ごく短時間の経験をもとに、深く掘り下げて核心の部分をつかむ能力を指すのです。

人生の一瞬を「輪切り」にする

瞬間的認知は、私たちの日々の生活の中で、重要な役割を担っています。

優れたバスケットボール選手を評して「コートセンスがある」と言ったり、軍事指導者については「戦略眼(coup d'oeil)がある」(このフランス語は、もともとは「一目で多くを見通す力」くらいの意味です)と言ったりしますね。

こうした人たちは、手に入る限りの膨大な情報を瞬間的に切り分けて、もっとも重要なものが何かを決める能力に長けているのです。ゆっくり時間をかけて、理詰めで考える必要がないのです。しかもこの人たちは、それを無意識のうちに行っています。

このように、一瞬の情報から本質を捉えることを、心理学の世界では「輪切り」にたとえます。さまざまな研究によると、私たちがほんの数秒で知覚していることを、もし理詰めの思考のみで処理するならば、何カ月も(時には何年も)の分析が必要になるのだとか。

「輪切り」は、限られた人だけが持つ才能ではありません。これはむしろ、「人が人であるとはどういうことか」の根幹をなす部分です。私たちは、新しく人と出会ったり、何かの意味をすばやく理解する必要に迫られたり、予期しない状況に陥ったりする度に、「輪切り」を実行しています。「輪切り」にするのは、そうする必要があり、その能力に頼るようになったからですが、それというのも、多くの状況では、ほんの1、2秒足らずの短時間で得られる、ごく薄い「輪切り」の情報であっても、細部まで注意を向ければ、非常にたくさんのことがわかるからです。

──マルコム・グラッドウェル『Blink』

出会いとは不思議なもの

では、私たちの無意識は、誰かと初めて出会った時に、どんな風に「輪切り」を行うのでしょうか。そしてそれは、相手に対して抱く印象に、どのように影響しているのでしょうか。

実を言うと、まだ完全には解明されていません。とはいえ、初対面の相手に対して、あとあとまで尾を引く印象を形成してしまうほど無意識の力が強いことは、これまでに科学的に確認されています。

1990年代に、ハーバード大学出身の研究者であるNalini Ambady氏とRobert Rosenthal氏のチームが行った一連の実験の中に、こんなものがありました。学生が学期末に教授に対して下した評価と、同じ教授に対して、実際の講義は受けていない学生たちが、10秒の無音のビデオクリップを3種類見ただけで下した評価とを比較したのです。

その結果わかったのは、どちらのグループの学生の評価も、その教授の良し悪しについては、おおむね同じだったということです。学生たちの評価を見る限りでは、10秒の無音のビデオクリップから得られる第一印象は、まるまる1学期かけてやりとりをしたあとの印象と、大差がなかったのです。

つまり私たちは、意識的でも理詰めでもない方法で人を判断しているようなのです。それでは、相手を一目で好きになったり嫌いになったりするのには、どんな仕組みが働いているのでしょうか。

ノーベル経済学賞の受賞者で著作も多い、心理学者のダニエル・カーネマン氏は、その答えは「ヒューリスティック」にある、と主張しています。ヒューリスティックとは、私たちが意思決定の際に頼っている「思考の近道」のようなものです。

カーネマン氏によると、特に強力な思考の近道のひとつは、「自分の見たものがすべてだ」(What You See Is All There Is: WYSIATI)と同氏が名づけた考え方です。これは意思決定の際に、「すでにわかっていることがわかっている事柄」だけに注目し、決定をますます複雑にしてしまいそうな事実のほとんどを無視してしまう方法です。

問題は、私たちが人と知り合った時、相手について限られた情報しか知らなければ、私たちの思考はその知識を確認する方向にはたらいて、その他の複雑な要素は無視してしまう、ということです。

つまり、相手のことを、「その人について私が知っているいくつかの事実」を体現した存在として見てしまうのです。だからこそ「で、お仕事は何を?」というのは、初対面の相手に聞くべきでない最悪の愚問なのです。

こうした無意識のバイアスに引っかかってしまうと、相手との関係にあとあとまで影響をおよぼしかねません。あとから相手について詳しい情報が入ってきても、大抵の場合、初対面の時のバイアスのかかった判断を強化する方向に作用してしまいます

最初に見たものを信じてしまうのは、そうするのがもっとも簡単だからです。たとえそれが結果的に間違っていたとしても、です。

モノを言うのは「見えている部分」だけ

私たちが無意識のバイアスを持っていて、新しく知り合った人に対して抱く印象にも、それが影響している、というところまではわかりましたね。もっと不思議なことがあります。外見によって、相手が自分をどう思うかが一瞬で決まってしまう場合がある、ということです。

英ヨーク大学の最近の研究によって、私たちが顔立ちのある種の特徴を、その人の性格と結びつけて考えていることがわかりました。

女性的な顔立ちや、生まれつき楽しそうに見える顔立ちの人は、より「信頼できる」と常に評価されます。また、「有能である」「支配したがる」「フレンドリーである」といった評価も、いつも特定の顔立ちと結びついているのです。

この研究ではさらに、新しい被験者に見せた場合に、特定の第一印象を抱かせるだろうと考えられるさまざまな顔を、マンガタッチで作成するといったことも行っています。

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親しみやすい(上段)、若く魅力的である(中段)、支配したがる(下段)

良い第一印象を持ってもらうには

こうした無意識のバイアスのお眼鏡にかなうのは、(整形手術でも受けない限り)不可能に思えるかもしれません。それでも、自分を受け入れてもらいやすくするには、いくつか方法があります。

初対面の人に会う際に鍵を握るのは、事前の準備です。さらに、ある種の行動をとれば、相手にすぐに気に入ってもらえる確率が高くなります。

殻から抜け出す

数多くの研究によって、いきいきと表情豊かにコミュニケーションをとる人は、何を考えているか読みづらい人に比べて、好かれやすい傾向があることが裏づけられています。

心理学の世界では、これを表出性ハロー効果」(Expressivity Halo)と呼びます。考えていることを外から読みとりやすい人と一緒にいる時のほうが、私たちは安心できるのです。このことはまた、「話してみるまではあの人のことが嫌いだった」という現象がなぜ起こるかの説明にもなるでしょう。

誰かに感情面で拒絶されたと感じると、私たちはそれを、相手が自己中心的なせいだと思い込んでしまいます。でもそれは単に、相手が警戒しているとか、ちょっと人見知りだというだけのことかもしれません。

共通点を探す

類似性と魅力の仮説」(Similarity Attraction Hypothesis)によると、私たちは自分と共通点のある相手に、より強くひきつけられるのだそうです。

そこで、影響力の大きな人物に初めて会いに行く時は、その人の趣味や、好きな本や映画を調べておきましょう。このレベルでの結びつきは、第一印象を確固たるものにするのに役立ちます。

またこの方法は、相手に良い第一印象を与えるのに失敗した場合のリカバリー策としても使えます。相手と自分に何か共通点があるとわかったら、私たちは相手のはたらきかけに対して、理詰めではなく反射的に反応してしまうからです。

相手は「理詰めで考えたらこの人のことは好きになれない」と思っているかもしれませんが、それでも共通点のある人には、どうしても親しみを感じてしまうものです。うまくいけば、相手の抱いた第一印象を覆せるかもしれません。

聞き上手になる

ここまでくれば常識かもしれませんが、聞き上手であることも、相手に初対面で気に入ってもらうのに有効です。

趣味や好みが共通しているのと同じで、相手の話を気にかけているというサインを送れば、その相手に良い印象を与え、その印象を長続きさせることができます。

映画化もされたチャック・パラニュークの『ファイト・クラブ』から、筆者の好きな一節を引用しましょう。

これだから自助グループに行くのが好きだった。相手がもうすぐ死ぬと思ったら、みんな全力で注目を注いでくれる。(中略)自分のしゃべる番になるのを待ち構えたりせずに、相手に耳を傾けてくれる。

相手が死にかけの重病人でなくても、話を聞いてあげましょう。もしあなたが、そんな相手でもなければまともに話を聞かないタイプだったら、たぶん、あまり人からは好かれないでしょうね。

私たちは大昔から、無意識のうちに人を判断するように作られているのかもしれませんが、だからといって、第一印象を良くする方法がないわけでもありません。こうした脳の無意識の奇妙な働きを理解することは、相手が誰であれ、関係のスタートでつまずかないために役立ちます。そこからあとは、まあ、あなた次第ですけどね!

The weird science behind first impressions|Crew Blog

Jory Mackay(訳:江藤千夏/ガリレオ)

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