先日、国内外のイノベーションを様々な切り口で紹介するウェブメディア『Mugendai(無限大)』が、「将来、日本を産油国に変えるかもしれない再生可能エネルギー資源の研究が進んでいる」と紹介した記事を取り上げました。水中で生育する2種類の「藻類」で石油の代替燃料を作り出す方法です。
実用レベルになると、「日本の休耕田のわずか5%、琵琶湖の3分の1の広さがあれば、日本の年間エネルギー輸入量を賄うことができる」という目測もあるだけに期待が高まります。
『Mugendai(無限大)』では日本の藻類研究の第一人者であり、この藻類バイオ燃料プロジェクトのリーダーである筑波大学生命環境系・渡邉信教授にインタビューをしています。そこから見えてきたのは、藻類バイオ燃料を日本で実用化するには超えなければならない壁があるという実態でした。大きく2つの壁があるようです。
1.価格を下げるための政策が日本にはない
藻類バイオ燃料にとって最大のテーマは「価格を下げられるか」。現在、レギュラー・ガソリンが1リットル160円前後するのに対し、すでに実用化初期段階にきている米国でさえ、藻類バイオ燃料1リットルで500円以上します。これではなかなか手が出ません。
そこで肝心なのは研究開発。アメリカの国防総省は、「空軍が自国内で使う燃料のうち、半分を2016年までにバイオ燃料へ置き換える」という目標を設定。海軍や陸軍でも同様に具体的目標があるそう。また、ヨーロッパでも、「2020年までに、EUの空港を利用する航空機は、燃料の10%をバイオ燃料にしなくてはならない」という施策を進めており、資金も投じられているのだとか。
しかし一方で、日本には藻類バイオ燃料に関する施策は現状ないようです。渡邉教授は以下のように話しています。
2013年9月、渡邉教授が発起人の一人となって開催した「藻類バイオマス国際シンポジウム」では、参加した日本政府の"悠長さぶり"が露呈されたという。
「まだ今後の流れがどうなるか分からないから、日本は今は基礎レベルで研究をやっていればいい、将来的に商業化されるのは2030年ごろだろう、という見方でしたから、欧米政府の動きとのあまりの乖離に、参加した皆から危機感を感じる声が続出しました」
2.法制度などがあって農地を使えない
前回の記事にも「日本の休耕田のわずか5%があれば」とありましたが、実際はその休耕田を使用することそのものが難しいようです。
価格面の次に立ちはだかるのが、法制度などの行政面での壁である。
「仙台の実証試験場の周囲には、津波の塩害で使えなくなった30ヘクタールの農地があります。そこをボトリオコッカスの培養に使おうしたのですが、農地法の壁があってかないません」。農地法では、農地は「耕作の目的に供される土地」とされ、農地の用途に制限があるのだ。
渡邉教授も、「藻類バイオ燃料生成におけるイノベーションを国民に示し、規制があることを疑問視する世論を形成していかなければならない」と話しています。
下記リンクでは渡邉教授のインタビュー全文が読めます。超えなければならない壁があったとしても、藻類バイオ燃料にかかる期待は変わりません。日本企業の中には独自に藻類バイオ燃料生産の事業化を打ち出したところもあるそうです。未来を語る1つのキーワードとして、目を通してみてはいかがでしょうか。
藻類が日本を産油国にする――2種の藻をハイブリッド高速増殖させ、エネルギー自給ができる日がやってくる(後編) | Mugendai(無限大)
(ライフハッカー[日本版]編集部)