決定力!:正解を導く4つのプロセス』(チップ・ハース&ダン・ハース著、千葉敏生訳、早川書房)は、ベストセラー『アイデアのちから』『スイッチ!』を生んだハース兄弟による新刊。物事を決定する際に重要な意味を持つという、4つの「WRAP」プロセスについて説いた書籍です。

しかし、その「WRAP」プロセスとはなんなのでしょうか? 第1章「意思決定の四つの罠」から要点を引き出してみましょう。

WRAP プロセスとは

著者によれば、意思決定に際しての「4つの致命的な罠」は「視野の狭窄」「確証バイアス」「一時的な感情」「自信過剰」だそうです。しかし、それら4つの罠の性質を見れば、その罠を打ち破る戦略が見えてくるのだとか。

  1. 選択に直面した際には、「視野の狭窄」によって選択肢を見逃してしまいがち。よって、選択肢を広げる(Widen Your Options
  2. 選択肢を分析すると、「確証バイアス」によって都合のよい情報ばかり集めてしまうもの。よって、仮説の現実性を確かめる(Reality-Test Your Assumptions
  3. 選択するときには、「一時的な感情」によって間違った選択をしがち。よって、決断の前に距離を置く(Attain Distance Before Deciding
  4. 選択の結果を受け入れる際には、未来の出来事について「自信過剰」に陥りやすい。よって、誤りに備える(Prepare To Be Wrong

という流れです。(36ページより)

そんなWRAPプロセスの貴重なところは、見落しがちな選択肢、目をそらしがちな情報、無視しがちな備えに着目させてくれる点だといいます。

ここではその一例として、70年代半ばから80年代にかけてロック・バンド、ヴァン・ヘイレンのヴォーカリストを務めていた(先ごろ復帰しましたね)デイヴィッド・リー・ロスのエピソードが紹介されています。

ヴァン・ヘイレンの要求

ヴァン・ヘイレンは大規模なステージ・プロダクションでファンを魅了する反面、過度な悪ふざけでも知られた存在。80年代の全盛期には、ホテルの窓からテレビを投げ捨てるなど、やんちゃっぷりも際立っていました。そしてそんな彼らは、ステージに関する契約の付帯条項に、「楽屋に茶色抜きのM&Mチョコレートをボウル一杯分用意すること。これに違反した場合は、ショーをキャンセルのうえ、全額の保証を求めるものとする」と記載していたのだそうです。ロスがチェックし、一個でも茶色のM&Mを見つけると、大騒ぎして更衣室をめちゃくちゃに荒らしたこともあるのだとか。

いかにも悪ふざけが好きなロック・スターらしい話ですが、実はこの「M&M条項」には明確な目的があったのだといいます。

ロスは新しい会場に着くと、楽屋に直行し、M&M入りのボウルを確認した。茶色のM&Mが一粒でもあると、設備全体の総点検を要求した。「間違いなく技術的なミスが見つかる。契約書を読んでいないからだ。もう少しでショー全体がめちゃくちゃになりそうなこともあった」と彼は話す。(44ページより)

つまりデイヴィッド・リー・ロスはやんちゃなナルシストだったわけではなく、会場の舞台係が慎重に作業しているかどうか、契約書の一字一句を丁寧に読んでいるかどうかを素早く確かめるために「茶色のM&Mアラーム」を利用していたわけです。

興味深い話ですが、著者に言わせればこれも、意思決定が必要なことに気づかせてくれる「WRAP」プロセスならではのメリットなのだとか。

他にも「スピード社の高速水着を生み出したデザイナーがとった意外なアプローチ」「採用時の面接がほとんど役に立たない理由」などのユニークな話を織り交ぜながら、「WRAP」の重要性が解説されています。

帯に記されているように「4つの『WRAP』プロセスを使えば、あなたの仕事も人生もきっとうまくいく!」かどうかはわかりませんが、少なくとも読んでみて損はないと思います。

(印南敦史)