一日を乗り切り、頭を正常に保つために、みんな何か小さな「儀式」とも呼べる習慣を持っています。たとえば、運動のために時間を作ったり、カップ1杯のコーヒーで自分だけの時間を楽しんだりするのは、私たちの精神あるいは身体の健康に役立つことです。

幸い、誰にでも「儀式」の時間は作れますし、まだ持っていなくても生み出すのは簡単です。ストレスに対処するための「儀式の作り方」や、その実践方法を考えていきましょう。

「自分だけの儀式」ってどういうこと?

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私は毎日、だいたい午後に、デスクでささやかな「お茶の儀式」をやります。ティープレスを用意し、やかんでお湯を沸かし、茶葉を丁寧にティープレスに入れ、ティーカップ、蜂蜜、そしてスプーンと一緒に、デスクにぴったり収まる竹製のお盆に乗せます。お湯が沸いたら、温度を計って茶葉にかけ、携帯電話のタイマーをセット。茶葉をかきまぜ、お盆ごとデスクに運びます。お茶が出るまでの時間はリラックスして、そこから出ている蒸気を見つめています。タイマーが鳴ったら、茶葉をプレスし、1杯目のお茶を入れ、仕事に戻ります。とても入念な儀式ではありますが、仕事から気を紛らわせるのに役立ちます。午後を乗り切るための瞑想的な儀式です。

私たちはそれぞれ、一日と向き合うために役立つ「日常の儀式」をわずかながらでも持っています。私のお茶の儀式のように、意識して時間をとるものもあれば、無意識にストレスを解消している儀式もあります。自分たちを助けてくれるこういった儀式や対処の方法なくしては、一日のプレッシャーを削ぎ落すのは大変です。

必要なのはあくまでも「健康的な儀式」

「自分はどのようにしてストレスと対処しているだろうか」と自分の胸に聞いてみてください。体を動かすことや家族と過ごす時間、自分を気にかけてくれる人と会話をするのがその答えなのかもしれません。これらはすべて「健康的な儀式」です。

一方で、「買い物セラピー」をしたり、お酒を数杯飲んだりするのは「不健康な儀式」で、それ自体が問題となる可能性もあります。大切なのは、どのようにして自分がストレスと対処しているかです。自分が頼りにする儀式はきちんと自分で選んだものであり、ストレスを増やすのではなく、ストレスを減らしてくれるものであるようにしましょう。

健康的な儀式が大事な理由

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ストレスの正しい対処メカニズムをとらないと、精神や身体の健康に深刻な影響が出ます。健康的な習慣がないと、「ガス抜き」をする方法がなくなるだけでなく、不健康な習慣が根付くのを許してしまいます。

結婚・家族セラピーが専門で、メンタルヘルスの臨床医であるロジャー・ジル(Roger Gil)氏は、人の中にストレスが積み重なっていく様子を、比喩を用いて説明しています。

私たちの感情は、水の動きにたとえられます。水の波は、自然な、穏やかな状態に戻るために運動エネルギーを放出しなくてはいけません。同じように、セルフケアのための活動を何かしないと、「感情の波」の「運動エネルギー」が、自分の内側にこもってしまうことになります。それが、誰もが経験したことのある「ストレスが溜まっている」、いらいらした気分につながります。一部の人はこのような状態がひどくなると不安を感じたり、ネガティブな感情の状態に陥ったりしてしまいます。最終的には、ストレスを管理しないと単純な作業を行う能力にさえ影響してきます。

意図してセルフケアを行うのは、ネガティブな感情にあふれた状態が悪化する可能性を減らし、不健康で一時対処的な儀式(飲酒や薬物乱用など)につながるのを防ぎます。感情面のケアは、仕事の効率や気持ちの安定など、全体的な身体の健康状態を向上させてくれます。セルフケアのための行動を明確にすれば、日々の習慣の中にそれらを取り入れることができます。それは無駄な時間としてではなく、楽しみにできる健康的なごほうびとして見られるようになります。

すでにお伝えしたように、みなさんも長い一日のあとに気分を落ち着かせたり、仕事での濃密な会話の後に気分をリセットしたりするための儀式をお持ちかもしれません。何であろうと、それが自分の精神的/身体的健康にとってどれだけ重要かを、過少評価してはいけません。

自分だけの儀式をつくり、そのための時間を作る方法

「自分だけの儀式」とは何か、その重要性は何かがわかったところで、どのようにしてそれをつくっていけばよいのでしょうか? 難しくはないのですが、自分にとって効果があり、そのための時間を見つけるのが可能なものでなくてはいけません。

ステップ1:自分の気分を監視し、ストレスの源を特定しよう

「仕事はストレスが溜まる!」と言うのは簡単ですが、まずは何が自分を悩ませるのかを特定することからです。まずは、自分の気分について記録をつけることから始めましょう。数日かかるかもしれませんが、最初は「昨日は嫌な一日だった」という記録が、「毎週水曜のプロジェクトミーティングは自分にストレスを与える」といったようにわかり始めます。先のロジャー氏はこう説明します。

自分のストレスや感情的ストレスのきっかけが何かを特定することは、セルフケアの活動をどの頻度で(毎日、毎週など)行うべきかを理解するのに役立ちます。私はよく患者に、感情のベースラインを知ってもらい、ストレスが溜まる瞬間を特定してもらうために、感情の記録を1~2週間つけてもらいます。

スマートフォン用の「気分監視」アプリは沢山あります(これらはレポートを出してくれて、傾向を特定してくれるので私は好きです)。一日の中でいつ、何時に記録をつければよいかのリマインダーを設定することもできます。テクノロジーを使うのがあまり好きでなければ、小さなメモ帳を持ち歩き、記録する時間、気分の状態、身体的状態の短い説明(吐き気、筋肉のこわばりなど)を記録するシステムを自分で作ればよいのです。

また、食事時に記録するようにも勧めています。みんな一日の中で、おおよそ同じ時間帯に食事をするので、記録するのが忘れにくくなります。

私たちも、記録をつけ始めるのに良いアプリとして『Mindbloom Juice』や『Moodpanda』などを以前に紹介しました。ロジャー氏が言うように、ノートも記録するのを忘れなければ良い手段ですし、『Narrato』や『Day One』というアプリも役に立ちます。

感情を管理できるようになると、ストレスの源(また、何をして、ストレスにぶつかった時に何を感じたか)を特定するのが簡単になります。記録を見返して、ストレスを感じた時、落ち込んだ時、悲しかった時、または単にとても腹が立った時に、何が起きていたかについて考えてみましょう。おそらく共通のテーマや、普段から自分の気分を落とすものに気付くかもしれません。そうなれば、今がそれを整理する時間です。

「ストレスの引き金リスト」ができたら、そのストレスへの反応を感情、肉体、態度のどれに関わるかを分類しましょう。感情的/肉体的ストレスの引き金に焦点を当てることで、より強制的に自分の意識を高めることができます。ストレスと不安の影響を弾くために不可欠なことです。

リストに書き出すのは大事なステップです。次は、そのリスト内にあるものに遭遇した時、自分の神経を鎮めるためのアクティビティについて考えてみましょう。

ステップ2:「介入手段」か「儀式」を決めよう

「介入手段」とはこの場合、ストレスが溜まっている時にとる具体的な行動です。いつでも実行できる行動であると良いでしょう。習慣の一部にしてしまうか、一日の中で決まった時間にやれることが望ましいです(私のお茶の儀式のように)。ストレスの源を特定し、そのたびにリラックスできるような「介入手段」を探す。これをセットにします。

「介入手段」の例を挙げると、「数分間瞑想する」「お手洗いで顔を洗う」などです。この2つはロジャー氏が提案していて、ストレス下では役立つと私も断言できます。

不安を感じる、いっぱいいっぱいの気持ちになる、落ち込むといった感情は、ストレスへのよくある反応ですので、自分を責めてはいけません。代わりに、自分の「儀式」や「介入手段」に頼りましょう。それが習慣になれば、なお良いです。

昼食後、オフィスに戻ってからサッと行う瞑想には、大きな効果があります。もし、他にいくつか「介入手段」を追加したければ「認知再構成エクササイズ」が役立つかもしれません。他にも、運動や笑いなどのストレスを吹き飛ばすものも効果があります。1分間の「YouTube休憩」をとって、自分の気分を向上させてくれる映像を流しましょう。オフィス内を歩き回るか、5分間外出しましょう。ストレスを感じるたびに立ち上がってお水を1杯グラスにつぐか、意識して決まった時間にペットボトルに水を注ぎましょう。

ストレスの溜まった状況を和らげるのには数分しかかからず、大変な一日を少し楽にしてくれる規則的な儀式も、数分しかかかりません。

ステップ3:習慣にしてしまおう

最後に、儀式を習慣へ変えていきます。ストレスを感じるたびに、怒りや苛立ちを覚える自分を許し、それに対処する方法があることを知っておきましょう。また少しハードルを上げて、ストレスが溜まっていなくても儀式をするといいです。日常の中に居場所をしっかりと作ることができ、儀式の効果が強くなります。

ロジャー氏は以下のように説明しています。

頻繁に感情的ストレスを抱くと、私たちは必然的に他のストレスの源にもネガティブな反応を引き起こします。影響と戦うためには積極的にセルフケアの習慣を組み立て、ネガティブな感情がない時でも、ポジティブな感情を呼び起こしてくれる儀式を行うことで、気分を向上すると良いです。私の多くの患者は、自分がすでに習慣としていることに、セルフケアのための「介入手段」を付け加えることで、ストレスを予防する習慣をつくっています。

たとば、以前担当していた患者で、自己不信から来る激しい不安で苦しんでいた人がいました。その人に、歯磨きの時間に、自分が誇りに思うこと付箋に書き、洗面所の鏡に貼り付けるようにしてもらいました。すると患者は、毎朝歯を磨く時にその付箋に書かれたメモを目にし、以前のようにネガティブな思いに自動的に流されてしまうのではなく、自己効力感へ思いを向けられるようになりました。

他にもあるストレスの予防的習慣として、一日の中で「自分時間」をスケジュールに入れるというのがあります。5~10分間、瞑想したり、お茶を用意したり、猫の写真を見たりするのは一日にポジティブな感情を足してくれます。これは、感情的危機に陥る前にセルフケアを行うという考えです。実際、ストレスが溜まるまで儀式を行うのを待つというのは、儀式をストレスと関連づけてしまう可能性があります。

つまり、「ポジティブな感情貯金」をリラックスできる行動でいっぱいに貯めていくと、ストレスによる「支払い」が求められる時に、「感情的な残高不足」に陥らなくて済むのです。

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儀式を定期的に行うと、ストレスから逃れられない時でも、ストレスとうまく対処できるようになります。仕事が忙しい時に、上司に「強制残業」を命令されたら、瞑想する時間はなくなり、ひたすら仕事をしなくてはいけません。こういう時は、ストレスが消えている状態の、お茶でゆっくりできる時や、ジムに行ける時のことを考えましょう。「これもいつかは過ぎる」という意識を持ち、過ぎた時に楽しめる何かを用意しましょう。そうすると自分にストレスを与える状況も、少し楽に扱えるようになります。

ロジャー氏は、こういった儀式のための時間をつくることは、ストレスに抵抗できる「ポジティブな感情的空間」をつくることに役立つと言います。怒りや落ち込み、感情的に疲れきった時にもストレスを管理できるそうです。

自分のために時間をとることは、全体的に気分を向上させるので、決してストレスを感じる時や、気分を害した時にのみ行うべきことではありません。たとえ、あなたが毎日自分の好きなことをしていたり、いまの仕事が大好きだったり、学校で学んでいる身であったり、何か他のことに時間を費やしていたりするとしても、セルフケアのための時間をとることは大切です。

最終的に、自分のことを見てあげられるのは自分だけなのですから。

Alan Henry(原文/訳:山縣美礼)