動画共有サイト「Vine」とBeastie BoysやNotorious BIGなどのラッパーに共通する点は何でしょうか? 実はあなたが思う以上にいっぱいあります。
Vine上でユーザーは自分で撮ったビデオはもちろん、ネットで見つけてきた動画を編集して、上限である6秒以内に収めてアップしています。他人が作った動画をコレクト(収集)して、自分のオリジナルビデオなどとあわせてエディット(編集)する、「サンプリングカルチャー」を生み出しています。この様は10年近く前にラッパー達が自身の作品に過去の音楽をサンプリングしていた話と非常に近いものです。Vineは6秒のループ動画をソーシャルメディアや、Webサイト上にアップできるサービスです。2013年1月にTwitterが提供し始めた同サービスはすでにトライベッカ映画祭やアメリカの上院など、様々なマーケティングキャンペーンに利用されています。
新しいカルチャー:ビデオマッシュアップ
Vineが人気な理由にはスマートフォンの普及もあげられますが、もともと音楽など他のフォーマットで存在していたマッシュアップカルチャーにカチッとはまったというのも大きいのではないでしょうか。特に1980年代のヒップホップ黎明期のトラックが、ジャンルを問わず無数の音源からサンプリングを行なっていたのを彷彿とさせます。
既存の音楽をエディットするヒップホップのカルチャーは音楽の歴史上での一つのターニングポイントでもありました。しかし2000年代に入ると「著作権」を理由にたくさんのラッパーが訴えられはじめます。
「カルチャー」と「著作権泥棒」の境界線を引くのはとてもむずかしいものでしたが、結果ヒップホップというカルチャーは認められるようになりました。しかしそのプロセスで傷ついた人も多かったでしょう。2013年4月に起きたVine上での争いをみると、歴史は繰り返されるなという印象を受けました。今回はフォーマットが「動画」となっていますが、その内容は著作権をめぐってヒッピホップという音楽で繰り広げられたものとほとんど同じです。
この争いはなんとミュージシャンのPrinceが絡んでいます。彼はDMCAという法律をもとに、Vineから自分のコンサートを録画した6秒間の動画を取下げようとしたのです。
幸いファンは動画の取り下げに応じたので、Vineをめぐる著作権関連の判例はまだできていません。しかし、もしこのまま裁判までいっていればヒップホップの事例と同じ事になっていたでしょう。
ヒップホップ、著作権、そして6秒間のサンプル
1990年台になるとラッパーたちは自分たちの音楽制作上の行為を「サンプリング」と呼んで一つの方法として捉え始めました。
しかし著作権の所有者たちは、その行為をただ「泥棒」と呼び、訴訟を起こしました。度重なる裁判により、音楽というフォーマット上でのサンプリングをめぐる判例がたくさん生まれます。これらの大元にある考え方は今日のVineにそのままあてはめることができます。
破壊的イノベーションを守る集団「The Disco Project」による興味深い考察によるとPrinceによる今回の騒動は、Beastie BoysやNotorious BIGが関わった尺の短い音源のサンプリングについてのケースに非常に近いものだそうです。
Notorious BIGのケースではテネシー州裁判所がアルバム『Ready to Die』の店頭販売とラジオでの放送を差し止めました。また、賠償金は当時400万USドルに及びました。ほんのちょっとホーンのサンプルを使っただけなのにです。
法学教授のTim Wu氏は当時、このことに関して著作権所有者が音楽家ではなく企業であることから、このように常軌を逸した結果になったのだと言っています。
Beastie Boysのケースはまだ良心的です。カルフォルニアの下級裁判所は6秒間以下のサンプルは著作権侵害にならないというルールを作り(そう、Vineの動画の長さ上限と一緒です!)、『Pass the Mic』に使われているフルートのサンプルは著作権侵害にあたらないとしたのです。
カルフォルニアでそういう判例が出たものの、実際は今でも「何秒以上」のサンプルが著作権侵害にあたるかという明確な線引はできていません。Vineの動画が著作権上にある「fair use」という例外にあたるのか、Twitterはコメントを控えています。ただ、同社に近いソースからの情報によると、Vineが「6秒間」という時間を設定したのはただの偶然ではなかったようです。
新しいビデオカルチャーを楽しもう
Princeが動画の取り下げ要求は、他の動画までは波及しませんでした。しかし、Vineであってもそうでなくても、ビデオを使ったフォーマットである限り、ヒップホップと同じような運命を辿る可能性があります。
1989年にBeastie Boysがサンプル満載の『Paul's Boutique』をリリースした時には、まだ法規制がしっかりされておらず、グレーゾーンということで彼らを訴える人はいませんでした。それに対し、著作権に関しての知見が広まった今では、サンプル一つひとつにかかるコストを考えると誰もPaul's Boutiqueのような作品を作ることはできないでしょう。
Princeによる今回の争いは、危険信号であることは間違いありません。現状、誰もがVineの動画を楽しんでいます。面白いビデオを見つけてはシェアを繰り返していることでしょう。
しかし、もし法律家たちが著作権という名のグレネード弾を投げ始めたら、生まれたばかりのビデオカルチャーと、そこから生まれるであろうクリエイティビティがすべて破壊されてしまいます。
ではVineのビデオはクリーンに使われているかと聞かれると、それには正直「Yes」といいかねるところもあります。「かなり」自由に自分の作品を制作している個人ユーザーもいますし、著作権などを大事にする大企業がVineを使ったマーケティングを行うこともあります。遅くとも、早くとも解決しなくてはいけない問題であることは間違いありません。
とりあえず今できることは、著作権に抵触せずにビデオカルチャーを楽しむということです。アメリカの著作権に関する法律は見直しをされるよう。今後、法律的な面でも、新しいカルチャーを壊さずに、むしろ成長させるものになればよいものですね。
最後にサンプリングカルチャーを作ってきた先駆者たちに感謝の気持ちを込めてVineにあがっていた以下のビデオを紹介します。
Vine, hip-hop and the future of video sharing: old rap songs and new copyright rules | GIGAOM
Jeff John Roberts(原文/訳:五十嵐弘彦)
Photo by Cindy Bokeh (Flickr)