以前説得しやすい「話し方」について紹介しました。言葉そのものにも、同様に、説得のしやすいものがあるのでしょうか。また、そもそも脳が言語を処理するとき、実際に脳の中では何が起こっているのでしょう。ソーシャルメディア共有アプリ『Buffer』の共同創業者であるLeo Widrich氏は、同アプリの公式ブログに次のように綴っています。英語でのコミュニケーションの話ですが、日本語にも応用できるかと思うのでぜひ参考にしてみてください。

Bufferの新規登録ユーザに送信する「ウェルカムメール」など、Bufferのキャッチコピーをつくるときに僕が一番やきもきするのは、ごくシンプルな言葉選びです。「Hi(こんにちは)」なのか、「Hey(やあ)」なのか。「cheers(どうも)」か、「thanks(ありがとう)」か。「but(でも)」でつなぐべきか、「and(そして)」を選ぶべきか。

皆さんも、このようなことに取り憑かれた経験をお持ちでしょう。たった一行のために、僕と相棒のJoelは膝をつきあわせ、しっくりくるまで何度でも修正することがあります。これはクリック率の向上のためのみならず、感情を生み出すためのもの。「この言葉によって、ヒトはどう感じるだろう?」というのが、自問自答すべき重要なポイントです。

この問いは一見当たり前のように思えます。ただ、「どんなメッセージを送りたいか?」とか「この告知の中身をどうするか?」とは別物です。たった一行の文にでも、「ヒトはこのメッセージをどう感じるか?」常に気を配ることで、リアクションの量はすぐに向上します。

では、ヒトの脳の働きについて掘り下げ、英語で最も説得しやすい「言葉」を明らかにしていきましょう。

言葉を聞いているとき、ヒトの脳はどのように働いているか?

脳の言語処理プロセスについて、従来の考え方が近年多く覆されてきました。最新の研究ではとりわけ僕が最も関心を持ったのは、「ヒトは言葉と抑揚を分けることができる」という英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究結果です。これによると、言葉を聞くとき、脳の中では「声の抑揚は、音楽に刺激を受けやすい脳の右側に伝えられる一方、言葉は脳の左側頭葉に入って、処理されている」そうです。

言葉の雰囲気と真の意味をそれぞれ特定するために、脳は2つの異なる場所を使っているわけです。ただ、「他の音から『言語』を区別するプロセス」は、まだよくわからないよう。

UCLの研究チームは、この疑問を明らかにしようと取り組みました。話し声と、よく似ているが話し声でない音を再生し、脳の働きを測定。「話し声は、特別な処理をするために聴覚情報の処理を担う『一次聴覚野』の近くで他の音から選び取られていた」という驚くべき結果が明らかになったとか。

つまり、ヒトの脳は他の音から言語を選び出し、これに意味を与えるため、脳の右側に送ることができるのです。

ヒトの脳がどのように言語を処理しているか

「ボディーランゲージ55%、声のトーン38%、実際の言葉7%」という俗説

コミュニケーションの際、相手を説得する中身は「ボディーランゲージ55%、声のトーン38%、実際の言葉7%」という法則をよく耳にします。言葉の重要性が低めですね。ただ、ここ数年で、この研究の中身が見直されてきました。この研究は1967年にさかのぼるものですが、そもそもの目的は別にあり、ヒトの言語処理プロセスを定義しようというものではなかったそう。

実際の研究では、次のようなことが起こったようです。

「被験者に、『maybe(たぶんね)』という女性の話し声を、好意的なトーン、中立のトーン、敵意のあるトーンで聴かせ、これらと同じ3つの感情を伝える女性の顔の写真を見せました。そして、話し声、写真の表情、話し声と表情の両方という3パターンから、女性の感情を当てるよう指示されたとか。すると、被験者は、表情からのほうが、話し声よりも50%多く、女性の感情を正しく言い当てたそうです。」

これで、コミュニケーションのほとんどがボディーランゲージで決まるというのはおかしいでしょう。有名作家Philip Yaffe氏が主張するとおり、言葉はもっと大きな影響力を持っているようです。

コミュニケーションの3つのコツ

では、コミュニケーションの上で肝となるのは何なのでしょうか。以下3つが参考になるとそうです。

1.笑顔

話し方には、考慮すべき要素がたくさんあります。ただ、ヒトの顔の表情も研究者Andrew Newberg氏が著書『Words Can Change Your Brain』で明らかにした最も重要なポイントのひとつ。Newberg氏は、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」が最も知られる絵画のひとつになった理由について「笑顔が非常に強力な仕草であることは知られています。様々な象徴を検証する研究をしてきましたが、最もポジティブな感情を表すものと評価されたのが、笑顔でした。とりわけ、モナリザの絵は、平穏な表情を示す事例です」と説明しています。

2.会話は30秒にとどめる

言語処理プロセスにおける重要な要素として処理すべき言葉の数もあげられます。「ヒトの脳が一度に保持できるのは4つだけ。ゆえに、5~10分しゃべり続けると、聞き手はほんの些細な部分しか、覚えていないでしょう」

言いたいことを伝えるためなら、話す長さは30秒が最適。ニューバーグ氏は「簡潔に話しましょう。文は1つ、もしくは2つとし、全体で30秒程度にまとめること。これくらいが、ヒトの脳が取り入れられる量です。」と述べています。

3.話し言葉・書き言葉で形容詞を避ける

僕は、形容詞を使うのを止めようとしています。これこそ、話し言葉における最悪の要素であり、聞き手や読み手の信頼すら損なうものです。作家のKim Peres氏は、「動きとモノを表現する言葉を使えば、意識に素早く届く」と述べています。

たとえば、飲み物にストローを「挿す(stab)」よりも、「速く押し出す(pokes swiftly)」のほうがわかりづらいですし、「ぶらぶら歩く(meander)」のほうが「ゆっくり歩く(walking slowly)」よりも正確です。ヒトの足は「hoof」のほうが、「gnarled toes and sole(凸凹したかかととつま先)」よりも、ずっと真をとらえる言葉です。

Peres氏の説明によると「不必要な言葉が多すぎると読み飛ばしを誘いかねない」とか。形容詞が読み飛ばしの原因になりうるかもしれません。相手を説得したい気持ちが先走ると、多くの言葉を重ねがちですが、むしろ「できるだけ少ない言葉が相手の信頼を生み出す」ということを肝に銘じるべきでしょう。それほど意味をもたらさない言葉は、読者やリスナーの関心を削いでしまいます。

以上、「言葉」に関わるものが2つも入っていますね。

言語を使うとき、肝に銘じるべき3つのアイデア

1.質問は「5W1H」を心がける

最も優秀なジャーナリストの一人で現在起業家のEvan Ratliff氏は、「有用な言葉を引き出すための質問力こそ、有効である」と述べています。Ratliff氏によると、「who(誰)」「what(何)」、「where(どこで)」「when(いつ)」「how(どうやって)」、「why(なぜ)」といった、いわゆる5W1Hではじまる質問は、いい返答を得やすく、より意味のある会話につながるそう。一方、「would」「should」、「is」、「are」「do you think」は避けるべきワード。相手からの返答を制限してしまう可能性があるからです。

  • 良い: "What would you do?"(あなただったら、どうしますか?)
  • 悪い: "Would you do X?"(あなただったら、〜しますか?)
  • 悪すぎ: "Would you do X or Y or Z or Q or M or W or ... ?"(あなただったら、〜しますか?それとも...ですか?それともXXX?)

2.「is」は使わない

一般意味論を構築した学者のAlfred Korzybski氏によると、「I am(私は〜である)」「he is(彼は〜である)」「they are(彼らは〜である)」「we are(私たちは〜である)」のような、状態を断定する「to be」動詞は望ましくないそう。

なぜなら、物事は他のものと全く同等ではありえないからです。Douglas Cartwright氏は、この点についてさらに説明しています。「この『XイコールY』のような言葉は、様々な精神的苦痛を生み出す全く必要のないもの。なぜなら、誰しも、ひとつの概念に自らを無理強いすることはできないからです。この表現よりも、実際はもっと複雑だと思う人だっているでしょう。しかし、無意識にこのような言葉を受け入れてしまうと、多かれ少なかれ自分を特定する考えとして動いていることを、信じづらくなってしまいます。」

次の事例のを読めば、その違いにすぐ気づくはずです。

「彼はバカだ」

「私の目には、彼はバカのように振る舞っているように見えた」

「彼女は落ち込んでいる」

「僕には彼女が落ち込んでいるように見えた」

「自分は敗者だ」

「自分はこのタスクを失敗したと思っている」

「自分は〜と確信している」

「自分には〜と思える」

最も説得力のある英語ワード5選

Gregory Ciotti氏は説得力のある英語ワードのトップ5を調査しました。

You(あなた)/あなたの「名前」:すばらしいコミュニケーションのために重要な言葉です。

Free(無料):Ciotti氏は、行動経済学者Dan Ariely氏の「損失回避」の法則について述べています。私たちはみな、当然ながら、最も安いものを好み、無料という言葉はこれの最たるものです。

無料

Because(なぜなら):「Because(なぜなら)」には危険性と有用性の両面があります。因果関係が構築できれば、強い説得力をもたらします。また、「たとえ弱い理由であっても、何も理由を示さないよりは説得力が増す」そうです。

Instantly(瞬時に):Ciotti氏によると、すぐに何かを起こすことができれば、ヒトの脳は、サメのごとく、これに乗りかかります。「instant(瞬時)」、「immediately(すぐに)」、「fast(速く)」といった言葉が、中脳の働きにおけるスイッチ切り替えのきっかけになるとか。

おまけ

ネガティブな言葉を1つ使ったら、ポジティブな言葉を3つは出すこと。これはNewberg氏が提唱する法則です。彼の研究によると、ネガティブな表現は非常に有害な効果を脳に及ぼすとか。過去記事でも、これに類似する結果が示されています。

これを機に説得力のある話し方を追求してみましょう!

The psychology of language: Which words matter the most when we talk|Buffer

Leo Widrich(原文/訳: 松岡由希子)