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スマートフォンの歴史


スマートフォンとは

スマートフォン (Smartphone) の定義は厳密ではない。世界的にはスマートフォンとは、無線電話機としての携帯電話と超小型パソコンとしてのPDAを統合したものだといえる。スマートフォンは1990年代後半に始まり、2000年代前半に発展していた。
 ところが、日本では携帯電話(ヒューチャーフォンともいう)が多機能携帯情報機器として独自の発展をしており、既にPDAの機能を多く取り込むようになっていた。それで表面的な見方では、海外でのスマートフォンは、日本の多機能携帯電話と似たようなものだともいえる。
 しかし、日本の携帯電話がNTTドコモやau、ソフトバンクなどのキャリアが独自の仕様やサービスで発展をしてきたのに対して、スマートフォンは、特に2000年代後半には、共通のオープン環境で利用できるようになった。メーカーに限定されない発展、パソコンなど他情報機器との連携などが容易であり、その観点では、多機能携帯電話のオープン化だともいえる。2000年代末には日本でも、携帯電話の多機能化よりもスマートフォン化のほうが将来の発展が期待できることが認識され、携帯電話からスマートフォンへの移行が進んだ。

多機能携帯電話とスマートフォンの違いを列挙する。ここでは、両者の違いを強調するため、あえてスマートフォン普及当初の状況を示す。
 大まかにいえば、携帯電話がキャリアやメーカーに限定されたクローズした機能であるのに対して、スマートフォンはパソコンと同様にメーカーやキャリアに限定されない機能をもっているのが特徴である。
 しかし、携帯電話もスマートフォンも多くのメーカーが多様な機種を発表しており、それぞれ特徴がある。また、携帯電話やスマートフォンの短所を補うための工夫をしている。そのため、これらの違いは絶対的なものではない。

個々の用途では多機能携帯電話のほうが機能や操作性が優れていることもある。しかし、それらはキャリアが限られたクローズな範囲での優秀性であった。その間に、世界の標準は、これとは異なるスマートフォンが主流になってきた。世界を市場とするときには、世界標準に合わせる必要があり、日本企業もスマートフォンに積極的になってきたのである。


2000年代前半:スマートフォンの出現

1990年代末から2000年代前半にかけて、携帯電話やPDAなどの高度化が進み、初期のスマートフォンが誕生した。この頃に主導権をもったのが、SymbianとBlackBerryである。しかし、日本では多機能携帯電話が独自の発展をしており、スマートフォンへの関心は低かった。
 当然、日本企業もSymbianとBlackBerryのOSを搭載したスマートフォンの生産をしていたが、その世界的シェアは低い状態だった。

ノキアとSymbian OS

  • 1996年 ノキア、Nokia 9000 Communicator
    QWERTYキーボードと大型ディスプレイの携帯電話に、PIN機能をもたせたもので、最初のスマートフォンだといわれる。ノキアは世界最大の携帯電話メーカーであり、当時は独占的なシェアをもっていた。
  • 2000年 Symbian OS
    Symbian OSが、英Symbian社が英PSION社のPDA用のOS「EPOC32」を、スマートフォン向けに開発したOS。オープンソースとして提供され、多くのメーカーが採用している。なお、2009年、Symbian社はノキア社に買収された。
  • 2000年 Ericsson社(スウェーデン)、R380
    Symbian OSで稼働する最初のスマートフォン
  • 2001年 Nokia 9210 Communicator
    ノキアがSymbian OSを搭載した最初の機種。Java対応、MMS(Multimedia Messaging Service)対応、MicrosoftのOfficeと互換性のあるワープロや表計算など、多くの業界標準を搭載し、海外では最初のカラー画面を採用、ベストセラーになった。

BlackBerry

  • 1996年 RIM inter@ctive
  • 1998年 RIM 950 Wireless Handheld
  • 1999年 BlackBerry OS
    RIM(Research In Motion)はカナダのモバイル通信技術のベンチャー企業で、ポケベルで双方向に文字を送れるプッシュ型のメール機能を備えた「Inter@ctive」を発表し、1998年には液晶画面とキーボードを備えた「950 Wireless Handheld」を発表した。このソフトウェアは、1999年に「BlackBerry Wireless Solution/Enterprise Server software for Microsoft Exchange」として、BlackBerry OSの原型になった。
  • 2002年 BlackBerry 5810、音声通話に対応
  • 2004年 BlackBerry 7750 3G対応
    BlackBerryは、企業向けの市場でトップシェアを得たが、この頃から個人向けでもヒット製品を提供するようになった。
  • 2006年 NTTドコモ、BlackBerryサービスを開始
  • 2007年 BlackBerry日本語対応版
  • 2009年 NTTドコモ BlackBerry Bold 9000発売、国産初のBlackBerry機
    BlackBerryは、2000年代後半から日本に参入したが、企業向けにはWindows Mobile系、個人向けにはiPhoneに勝てなかった。

RIM inter@ctive (1996)

 RIM 850 Wireless Handheld (1998) (拡大図)

 BlackBerry bold 9000 (2009) (拡大図)
出典: 小山安博「世界第2位のスマートフォンシェアを誇る「BlackBerry」の歴史を振り返る」2010年

Microsoft Windows Mobile

  • 2000年 Pocket PC 2000
  • 2003年 Windows Mobile 2003
  • 2005年 Windows Mobile 5.0
  • 2009年 Windows Mobile 6.5
    マイクロソフトは、Symbian OSやBlackBerryに遅れてスマートフォン市場に参入した。パソコンと同様に、ハードウェアを販売するのではなく、WindowsやOfficeなどのソフトウェアを(主にメーカーにプレインストールのライセンスとして)販売する方式をとっている。
    なお、マイクロソフトは、マイクロソフトOS搭載のスマートフォンのことをWindows phoneといっている。
  • 2005年 HP「iPAQ 6500」
    iPAQは、HPおよび同社と合併前のコンパックが開発、販売しているWindows Mobileを搭載PDAである。これにセルラー方式のハードウェアを追加して携帯電話機能を追加してスマートフォンにした。
  • 2005年 「W-ZERO3」
    ウィルコムとシャープ、マイクロソフトの3社の共同開発によるスマートフォン。ウィルコムのPHS端末機。OSはWindows Mobile 5.0 日本語版。完成レベルのPDAであるとともに、日本でのスマートフォンのさきがけといえる。

2000年代後半 スマートフォン国内市場の始動

2000年代中頃までに、西欧ではノキアのSymbian OS、米国ではRIMのBlackBerryが高いシェアをもっていた。ところが、日本では多機能携帯電話が普及していたため、スマートフォン自体への関心が低く、シェアを問題にするほどではなかった。
 それが、2008年にiPhone 3GSの発表とソフトバンクの積極的なキャンペーンにより関心が高まり、2009年には爆発的な普及が始まった。さらに2010年にはAndroid搭載機が多く発表され、スマートフォンの国内市場が確立した。なお、企業向けでは、Windowsのシステムとの親和性の観点からWindows Mobileへの関心が高い。
 このような動きのなかで、Symbian OSやBlackBerryは振るわず、2008年にはノキアは日本市場から撤退した。

iOS(iPhone OS):Apple

  • 2007年 iPhone
  • 2008年 iPhone 3GS
  • 2010年 iPhone 4
  • 2011年 iPhone 4.s, スティーブ・ジョブズ死去

iPhoneは、Appleの発表したスマートフォンである。そのOSをiPhone OSという。iPhoneは、タッチパネルにボタンが1つだけというシンプル性や、アプリケーションソフトをダウンロードし自分仕様にカスタマイズできることが人気を呼び、日本でのスマートフォンへの関心を高めた。
 第3世代携帯電話に対応したiPhone 3GSから、日本ではソフトバンクモバイルがキャリアになり、積極的なプロモーションを行ったので、国内でのスマートフォン熱が高まった。
 そして、2010年には大幅なモデルチェンジを行ない、OSの名称をiOSと変更した。このOSは、スマートフォンだけでなくデジタルメディアプレーヤーのiPod touch、タブレットコンピュータのiPadに搭載されている。
 2011年に、iPhone 4.sが発表されると同時に、スティーブ・ジョブズが死去した。ジョブスはiPadやiPhpneの開発を指導してAppleの業績を高め、2010年には時価総額がMicrosoftを抜き、2011年には世界トップになった。


初期のiPhone機(Apple,2007) (拡大図)

初期のAndroid機(HTC Dream,2008) (拡大図)
出典: Chris Foresman、(緒方亮/合原弘子訳)「「スマートフォンの進化」ギャラリー」

Android:Google

  • 2008年 Google、「Android」
  • 2008年 HTC(台湾) HTC Dream(米国市場名T-mobile G1)
    最初のAndroidを搭載スマートフォン
  • 2010年 国産Android搭載スマートフォン続出
  • 2010年 Nexus One(Google自社ブランドのスマートフォン初号機)
    日本では2011年から発売

Googleは、アンドロイド社を買収し、スマートフォンOS「Android」をオープンソースソフトウェアとして公開した。カーネルだけでなくライブラリの多くが、無料で利用でき、改変も自由である。Googleも含む多数のキャリアやメーカーが参加した規格団体OHA(Open Handset Alliance)が管理している。
 ヒューマンインタフェースやミドルウエアなどがそろっているだけでなく、OSSなので自由にカスタマイズできること、カーナビや電子ブックなど他の情報機器にも適用しやすいOSであることなどから、急速に採用が広まっている。

Windows Phone 7:Microsoft

2010年、Microsoftは以前のOSであるWindows Mobileシリーズを大幅に変更したWindows Phone 7を発表した。動画や音楽再生の本格サポートやXbox LIVEで配信されているゲームのプレイにも対応するなど、新たな要素が取り込まれた。
 従来のスマートフォンが画面にアプリケーションのアイコンが並んでいるのに対して、7.5では、Windows Phoneはタイル状の大きなボタンで表現した「ライブタイル」によりユーザが画面を階層的にカスタマイズできるの特徴。


2010年前後 スマートフォン市場の激変

日本では、従来の多機能携帯電話(ヒューチャフォン)が普及していたが、次第にスマートフォンに乗り換えるようになった。ヒューチャフォンあるいはスマートフォンを持っている人のうち、スマートフォンを持っている人の割合は、2010年ではわずか5%未満だったのが、2011年では20%を超え、2015年では過半数になり、2021年には90%を超えるようになった。

拡大図

世界でも、iOSとAndroidの出現により、スマートフォン市場に大きな変化が生じた。2009年から2011年の2年間で、下図のようにOSもメーカーも急激なシェア変動があった。


OSシェア(世界) (拡大図)

出典: 櫻吉 清「スマートフォン市場(3Q'11)~Android 50%超え~」(原典:Gartnerの発表資料)

拡大図 拡大図
拡大図 拡大図
出典: 総務省「情報通信白書」 平成24年版 1-2-1 「スマートフォン・エコノミー」(原資料:ガートナー) より加工作図

2009年/2011年、スマートフォンシェアの変化(世界、日本)

スマートフォン世界市場規模は、2009年から2011年の間に1.7億台から4.7億台に増大した。その増加分はほとんど iOS とAndroidであり、この2つののシェアは28%から65%に増大した。
旧型スマートフォンの最大メーカーのノキアは、OSにSymbianを採用しており、2009年では47%のシェアをもっていたが、2011年には18%に激減、その後スマートフォン市場から去ってしまった。

日本でも iOS とAndroid の寡占になった。Android がOSSであるのに対して iOS は Apple の iPhone にしか搭載できない。Apple のPC Mac のシェアは低い。そのため、2009年 では Android が多かった。しかし、iPhone はバージョンのたびに高機能化、多機能化を進め、それが多機能携帯電話に慣れていた日本市場に受けたのだろうか、すぐに iOS が大きなシェアを獲得している。
 メーカーでは、これまで国産メーカーの多機能携帯電話が普及していた。スマートフォン出現はまさに「黒船の到来だったが、当初は国産メーカーが対応し、一時的には90%のシェアを確保した。
 しかし、AppleとSumsong の猛攻に敗れ、2011年には70%近くに下がり、2012年には主なメーカーは、ソニー、シャープ。富士通になり全体でも40%弱になってしまった。


2010年代初頭~現在

スマートフォンOS

現在、世界でも日本でも iOS とAndroid の寡占状態にある。しかし、世界では約3:7で Android が多いのに、日本では約7:3で逆になっている。

世界全体で Android のシェアが大きい理由

世界でAndroidが多いのは、OSSになっており、メーカーが参加しやすく、低機能低価格機種から高機能高価格機種まで提供されているので選択肢が豊富だからである。
 欧米では、旧型のスマートフォンが普及していた。新型に移行するにあたって、高機能を重視する層、低価格を重視する層など利用者ニーズが分散しており、選択肢が豊富な Android が有利だった。

スマートフォンが急速に普及したのは、当時発展途上にあった国・地域であった。そこでは電話網の整備が不十分で固定電話すら使えない状態にあった。スマートフォンなら安価な無線局を設置するだけで電話ができるし、インターネットも利用できる。
 その地域の人にとって、スマートフォンは必要最小限の機能・性能があればよい。当時の韓国や中国は、安価なスマートフォンを開発、無線局などの環境整備支援とセットにして提供した。また、経済発展に伴い、より高機能の機種を求める層が多くなってきた。

このような環境に呼応して、韓国・中国メーカーは多様な価格設定の機種を提供している。それで、世界では、Android が多く、韓国・中国メーカーが高成長したのである。

日本で iOS(iPhone)のシェアが高い理由

日本でも2010年頃は、一時的に Android が多かった。
  メーカー         機種
  HTC(台湾)      Desire
  ソニー・エリクソン(英国)Xperia
  シャープ         GALAPAGOS
  サムソン電子(韓国)   GALAXY
  富士通東芝MC      REGZA Phone
しかし、急速に Apple のシェアが拡大している。
 世界市場の観点からは、日本市場は特異だといえる。その理由を列挙する。

スマートフォンメーカー


世界では Samsung(韓国)を Apple(米国)が急追している。近年は中国メーカー(Huawei、Xiaomi、OPPO)の伸びが顕著である。中国市場は巨大で、中国国内でのシェアが世界シェアに反映するようになっている。
 日本では、2020年頃には国産メーカーが百花繚乱であったが、急速に変化し、2012年にはApple が圧倒的なシェアをのばし過半数のシェアをもつようになった。国産メーカーは、ソニー、シャープ(当時)、富士通の3社になり、その後次第にシェアが低下している。Samsung のシェアは比較的少ないが、近年増加してきた、Google も急速に増加してきた。

留意すべきことは、機種とメーカーは必ずしも一致しないことである。Apple 以外のメーカーは、自社ブランドの Android 機が主力製品だが、iPhone の受託生産もしていることが多い。
 また、メーカーの国籍と実際の生産国も違う(海外生産)。中国メーカーはほとんどが自国生産であるが、 Apple(米国)は、多くの比率で台湾、インドで生産、Samsung(韓国)は韓国だけでなくベトナムでも生産、ソニー(日本)はタイ、楽天モバイルのRakuten Miniは、全量を中国で生産している。

主なメーカー(国籍)ブランド名

国産スマートフォンメーカーの縮小・撤退

2013年 少数メーカーへの移行

2010年頃までは、国内の通信機器メーカーはヒューチャフォンでは大きなプレイヤーであったが、スマートフォンの波には対応できず、個人ユーザ向けスマートフォン市場から撤退してしまった。
 その主な原因は、自社製品販売量の鈍化である。ただし、従来のヒューチャフォンは継続したメーカーが多い。

2020年代前半 大手メーカーの撤退

2013年に生き延びたメーカーも、次第に体力が弱ってきた。その主な原因を列挙する

スマートフォンの大手メーカー、京セラと富士通が事業撤退を表明した。

残る2社はソニーとシャープ

2014年にソニーはモバイル事業が深刻な事態となり、大規模な事業縮小をした経験がある。現在はカメラを軸としたハイエンドモデルに集中、確実な利益を出すことに重点を置いているが、大規模投資には消極的なようで、シェアは次第に低下している。

シャープは、2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったが、シャープの社名は残り、AQUOS ブランドでのスマートフォンは、海外拠点も多いが日本の工場で生産されている。
 部材調達や製造などでの支援を得て、他の国内メーカーと比べれば規模の面で強みがある。京セラやFCNTの撤退の空白を埋めることが予想される。


日本の携帯キャリア


抱え込み規制

上表のように、各キャリアのシェア順位は、参入時期の順位と一致しており、ほぼ安定している。
 これは、各キャリアが乗換えを制限して抱え込みをしているからで、公正な競争を妨げているからだとされ、いくつかの規制が行われてきた。各キャリアもそれに従ってはいるものの、それによるシェア変化への影響は限定的である。


通信回線の世代

拡大図

4Gや5Gなどは、国際通信連合による通信の国際規格(IMT-2020など)の通称。スマートフォンはいずれかの通信規格に準拠しており「4Gスマホ」「5Gスマホ」と呼ばれることもある。

(注)BWA(Broadband Wireless Access)
上図にはBWAがあるが、これは山間部や離島など、有線の高速回線設置が困難な地域に、国や自治体が設置した無線ネットワークである。通信速度は地域により異なり、4G。5Gが混在している。
 本ページでの対象とは直接の関係が低いので省略する。


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