(ニューヨーク) - 「タイ政府は、拘束中のロヒンギャ庇護希望者211人が難民に該当するかどうかをUNHCRが審査できるよう、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に211人のロヒンギャへの完全なアクセスを直ちに認めるべきだ。」ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。
ビルマを出国したロヒンギャの一行158人は1月22日~23日にかけて、おんぼろで定員超過の小型船での危険な船旅を経てタイに到着したところ、2009年から収容されている53人と共にタイの入管施設に強制収容された。タイ政府は国連難民高等弁務官(UNHCR)がこれらの被収容者にアクセスすることを拒否し続けている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは「ビルマでのロヒンギャに対する迫害はすさまじい。しかし、タイ政府は、ロヒンギャが一般の非正規移民と何の違いもないという主張を変えようとしない」と述べる。「タイ政府は方針を転換し、UNHCRに対して、庇護希望者を調べるため収容中のロヒンギャ全員への聞き取り調査を許可するべきだ。」
タイ政府のロヒンギャへの対応はマレーシアときわめて対照的だ。マレーシアでは、2010年3月、乗っていた船が押収され、身柄を拘束されていたロヒンギャ93人に対し、政府当局がUNHCRに面会と難民審査の実施を許可した。UNHCRは全員が難民に該当するとの結論を下し、マレーシア当局はかれらを入管施設から釈放した。
「タイは、国連人権理事会理事国に新たに選出された。それを踏まえ、タイ政府は難民に対し、収容ではなく保護を行うアジア地域の取り組みの先頭に立つべきだ」とアダムズは指摘。「マレーシア政府が難民庇護の国際基準に則ることができるのだから、タイ政府にも同じことができるはずだ。」
ビルマ政府は30年以上にわたり、主にアラカン(ラカイン)州西部に住むムスリム少数者のロヒンギャを組織的に迫害してきた。しかしドナー国(援助国)や東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国の政府はこの問題をほとんど取り上げなかったばかりか、一連の人権侵害を停止させるための措置にはさらに及び腰だったとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。 ロヒンギャへの人権侵害には超法規的処刑、強制労働、宗教迫害、移動制限などがある。こうした侵害行為をさらに深刻なものにしているのが、ロヒンギャを無国籍状態とするビルマの厳格な国籍法の規定だ。
ビルマ政府の暴力的で差別的な処遇により、ロヒンギャは貧困状態に置かれており、30万に上る人びとが隣国のバングラデシュに逃れ、公式ではあるものの仮設状態の難民キャンプで着の身着のままの不衛生な生活を余儀なくされている。バングラデシュ政府は未登録のロヒンギャに対して公的な居住資格も労働許可証も発給しないため、逮捕や長期収容のほか、ビルマに送還される恐れもある。毎年、何千ものロヒンギャ男性(成人と未成年ともに)がブローカーに金銭を払ってビルマやバングラデシュから出国している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タイに上陸した小型船の中には、ロヒンギャとロヒンギャであると自らを偽るバングラデシュ人の両方を乗せていたケースが過去にあったことにも留意した。UNCHRによるしっかりしたスクリーニングが行われれば、タイ政府当局がロヒンギャによる正当な難民性の主張とそれ以外とを区別する上でも有用だ。
「タイ政府は、UNHCRの専門性を利用すべきだ。事実、UNHCRは、ロヒンギャ庇護申請者のスクリーニングに関してタイ政府を支援する用意があることを繰り返し伝えてきている」と前出のアダムズは指摘する。「UNHCRの協力を仰ぐことができれば、国際社会のパートナーたちと共にロヒンギャ問題の長期的かつ持続可能な解決策を探ることができる。ただそうした解決のために、まずは、ビルマ国内におけるロヒンギャの人権が確保されるべきだ。」