第17回 「本おや通信」
本連載では、主に新刊書店で発行されているフリーペーパーを紹介していますが、古書店にもフリペを発行しているお店はあります。書店情報がぎっしりのムック『本屋へ行こう!!』(洋泉社、2015)に「書店員がつくるフリーペーパーがおもしろい!」という記事が掲載されています。同記事で、当方は、本連載で紹介済みのものを含むおもしろフリペを新刊書店発行のものからいくつかセレクトしていますが、南陀楼綾繁さんは、神戸のトンカ書店他の古書店のフリペもセレクトしています。
古書店の場合、フリペをつくるにあたって、新刊書店に比べると難しい点もあります。基本的に一点ものの古本を扱う古書店では、本屋フリペではおなじみの新刊・近刊情報や売上ランキングなどは、フリペのネタとしては使えません。本を紹介する場合も、その本を常に在庫しておけるとはかぎりませんので、セレクトやタイミングに工夫が要ります。
ただ、定番のネタが使えないからといって、古書店発行の本屋フリペが情報的に劣ったりおもしろくなかったりするわけではなく、むしろ逆で、読み物を中心にした、作り手の個性的が存分に発揮されたおもしろフリペがいくつもあります。今回紹介する「本おや通信」も、そうしたユニークな古書店発のユニークな本屋フリペです。
利用者には「本おや」の略称で親しまれている「本は人生のおやつです!!」。店の名前には見えないかもしれませんが、「!!」も含めて正式名称です。大阪・堂島(本好きには、ジュンク堂書店大阪本店のある街ですね)にある書籍と雑貨を扱う小さなお店で、書籍は新刊・古書両方の扱いがありますが、メインは古本。雑貨は、複合型のセレクトショップでよく見かけるようなおしゃれ文房具ではなく、一筆箋、ポチ袋など紙ものが多めで、オリジナルのものも扱っています。
同店発行の本屋フリペ「本おや通信」はA4判、(毎回そうなのかはわかりませんが)両面ともカラーで、厚手のしっかりした紙が使われています。紙面は新聞調の3段組で読みやすいレイアウト。店主坂上さんがFacebookに寄せた説明によれば、《さまざまな職業・年齢の方々に、「自分の人生を豊かにしてくれた本」についてお話してもらい、たまーに作っては店内にてお配りして》いるもの。基本的には1枚に1人の方がフィーチャーされたものになっていて、最後にお店の案内が小さく載っているのを除き、他の記事はありません。
過去には、『「本屋」は死なない』(新潮社)の石橋毅史さんや、店主のお友だちだという芥川賞作家の藤野可織さんも登場。現時点で最新号となる2016年3月発行の第27号には、本好きにはブログ「神保町系オタオタ日記」でおなじみの「神保町のオタさん」が登場し、「自分の人生を豊かにしてくれた本」について語っています。
最新号が1年以上前の発行と少し時間が経っていますが、休刊になってしまったわけではありません。店舗営業、古書展出店、自店イベント開催などの合間をぬっての作成なので、なかなか発行できないようですが、しばらく前に店主さんにお会いしたときに「本おや通信」についてうかがったところ、今年じゅうに出したい!と言っていましたから、まもなく最新号を読めるかもしれませんね。
「公開☆本おや通信!」という名称で、「本おや通信」の「公開バージョン!」という位置付けのトークイベントも不定期で開催されています。書店でのトークイベント自体はめずらしいものではありませんが、同店は、お店のサイズと店主の人柄もあって、お客さんとの距離がものすごく近いので、トークイベントも、独特のアットホームさに包まれた、参加者全員が知り合い(笑)とでもいった感じの、居心地のいい空間と時間とになっています。
「本おや通信」は、同店で無料配布されていますが、現在は最新号27号を含め、過去の号の在庫もないようでした。同店のサイト他でのファイル公開もしていませんので、最新号が発行されたときに店頭で入手するようにしてください。
お店自体、とてもすてきなところで、本好きの店主とおしゃべりをするだけでも、本好きならば幸せな時間を過ごせますから、フリペの有無に関係なく、お店を訪ねるのもいいと思いますよ。
発行店:本は人生のおやつです!!
頻度:不定期刊
●Googleマップ 「本屋フリペの楽しみ方」掲載書店
編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。