第11回 蔦屋書店熊本三年坂「SF大作戦」
旅先で寄った本屋さんで、知らなかったフリーペーパーに出会えるとそれだけでうれしくなってしまう本屋&本屋フリペ好きの空犬です。今回紹介する「SF大作戦」は、昨年(2016年)の秋に訪れた熊本の本屋さん、蔦屋書店熊本三年坂で出会ったものです。
熊本市の中心街にある蔦屋書店熊本三年坂は、熊本に行く機会があると必ず訪問するお店の1つです。もともと昨年4月末に予定されていたリニューアルオープンが震災でいったん延期になりましたが、無事に6月10日にリニューアルオープン。お店がどんなふうに変わったのか、訪問前から楽しみにしていました。
前回訪問時とは様子の変わった店内の棚配置を確認がてら、端から棚を眺めていると、文芸の棚の上に、見慣れないフリペが並んでいるのが目に入りました。「SF大作戦」。創刊号から訪問時の最新号8号までが、ずらりと並んでいたのです。
タイトルに「SF大作戦」とある通り、本屋フリペとしてはめずらしい、SFに特化した専門フリペです。本屋さんの売り場や棚はジャンルごとに分かれていて、お店のスタッフもジャンルごとに担当が分かれているのがふつうです。それを思えば、各ジャンル担当が、自分の担当ジャンルに特化しつくったフリペがもっとあってもおかしくなさそうですが、実際には、ジャンル限定のフリペはあまり多くはありません。ジャンルを限定してしまうと、つくる側にも読む側にも、いろいろと難しいことも出てくるからです。
ジャンルを特定しないフリペなら、お店で扱う本はどんなものでも取り上げることができますし、特集なども組みやすくなりますが、ジャンルを限定してしまうと取り上げることのできる本自体の幅も狭まります。また、当然のことながらお客さんも選ぶことになり、本来、多くの人に手にとってもらうのが目的の無料配布物なのに、数が出にくくなってしまうという問題もあります。
過去に紹介しました通り、児童書に限定したものや、コミックに限定したものなど、ジャンル特化型のフリペがないわけではありませんが、数として少ないのは、やはりそのような事情もあるのだろうと思います。
「SF大作戦」(このタイトルにぴんときた人は、それぞれの号の副題にもご注目を)の話に戻ります。A4判用紙を四つ折りにした8ページ(初期のものには片面4ページも)に手書きでぎっしりとSFの関連情報が詰まっています。本の紹介はもちろんですが、SF本のタイトルをめぐるコラムなど読み物も充実しています。紹介されている本の洋邦・新旧のバランスもいいし、映画など隣接ジャンルへの目配りもきいています。全編にこんなにもSF愛があふれているのに、マニア向けの独りよがりな内容にはまったくなっていなくて、とても読みやすい。これは、いいフリペだなあ、おもしろいなあ、と、入手したその晩に旅先の宿で8枚を一気読みしてしまいましたよ。
SF好きのみなさんは、同店を訪問する機会がありましたら、文芸の棚周辺のチェックをお忘れなく。
このSF情報満載のフリペを手がけているのは、同店のスタッフで「SF部長」を名乗る三瀬さん。ツイッター(@3nen-sf)でも熱心に情報発信ををされているようなので、フリペを手にするチャンスがない遠方の方は、まずはそちらをのぞいてみるのもいいかもしれません。
発行店:蔦屋書店熊本三年坂
頻度:?
●Googleマップ 「本屋フリペの楽しみ方」掲載書店
編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。