第0回 「本屋フリペの楽しみ方」
このたび、版元ドットコムで、新刊書店が発行している無料紙誌(以下「本屋フリペ」)に関する連載を担当することになりました空犬太郎です。版元ドットコムには「本屋のフリペ」というコーナーがあり、数種の本屋フリペが閲覧・ダウンロードできるようになっています。このコーナー開設にあたり、本屋フリペの情報を提供するなど協力させていただいたことから、連載のかたちで全国のいろいろな本屋フリペを紹介する機会をいただくことになりました。
ひとくちに本屋フリペといっても、そのサイズ、発行頻度、内容、造りなどは見事にばらばらです。本屋フリペというのはこういうもの、という決まった定義があるわけではなく、バラエティに富んだ、奥の深い世界になっています。この連載では、主として新刊を扱う書店で無料で発行されている紙誌類を「本屋フリペ」として取り上げます。紀伊國屋書店の『scripta』、丸善・ジュンク堂書店の『書標』、有隣堂の『有隣』など、会社で発行しているPR誌のような本格的なものはのぞき、担当者の思いが伝わってくるような、手作り感のあるものを取り上げたいと思います。継続的に発行されているものを中心としますが、特定のフェアのためにつくられたもののなかにも本屋フリペと呼べるものがありますので、そうした1回かぎりのものも機会があればご紹介したいと思います。
東京在住ですので、実際にお店に足を運んで直接チェックできるのは関東、それも東京の本屋さんが中心になります。いくら本屋フリペが好きだといっても、全国の本屋さんを対象にして網羅的に収集しているわけではありませんので、取り上げる本屋フリペの発行店はどうしても地理的に偏ってしまうことになりますが、出張や旅先で出会ったり、知り合いの出版営業マンが届けてくれたり、お店の方が直接現物やデータを送ってくださったりした本屋フリペも取り上げたいと思っています。
なお、お客さんの視点を大事にしたいので、基本的に、発行店の担当の方には取材をせずに、あくまで、お店でそのフリペを手にした客・読者にどんなふうに見えるか、という視点でご紹介するつもりです。ただ、紹介予定の本屋フリペのなかには、個人的に親しくしている書店員さんや、フリペをテーマにしたトークイベントに出演歴のある書店員さんもいますので、例外的に、作り手の声を交えて紹介することもあるかもしれません。
次回から、読んでいて思わず頬がゆるむのんびりした癒やし系フリペから、とても素人の手になるとは思えないような完成度の高いアート系フリペまで、たくさんの本屋フリペを紹介します。本屋フリペは、サイズも形態もばらばらです。折りや綴じに工夫を凝らしているものもあれば、刷る紙の色や質感にこだわっているものもあります。専用のボックスやウォールポケットを用意するなど(なかには自作も)、配布の仕方や場所を工夫している店もあれば、フリペの内容と連動した棚やコーナーを作っているお店もあります。
文章やダウンロードデータだけでは、各フリーペーパーのモノとしての魅力や、売り場との関係性はどうしても伝えきれません。興味をひかれたものがありましたら、Webでの閲覧やダウンロードで済ませず、ぜひ発行店・配布店を訪ねて、現物をあたってみてください。発行店が遠方で行けないという場合はしかたありませんが、もしお店が足をのばせる距離にある場合は、ぜひ店頭で現物を手にし、フリペ片手に店内散策を楽しんでください。本屋巡りの楽しみが増すこと請け合いです。
ちなみに、紹介した本屋フリペの発行店が近くになくても入手できる場合があります。数年前から、店頭を活性化するアイディアの1つとして、書店横断のコラボ企画で、よその店・チェーンのフリペを自店の店頭に置く店が出てきています。なかには、何種類もの本屋フリペを並べ、一大フリペコーナーが展開されている店もあるほどです。
本屋フリペを入り口に、みなさんがすてきな本に出会ったり、それまで知らなかった本屋さんを発見したり——この連載が、そのようなきっかけになればいいなあと思います。
本屋フリペの世界へようこそ。
編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。