祝祭から日常へーー「本の産直市」を考える
2024年7月、神奈川県茅ヶ崎市の長谷川書店ネスパ茅ヶ崎店の店頭で「本の産直市」を開催した。
事前に茅ヶ崎駅でチラシ配りなどした甲斐もあり、多くのお客さんが来店された。売り子となった各社スタッフも店頭に立って声をからし、金曜から日曜までの3日間で総額60万円近くを売り上げた。 (さらに…)
2024年7月、神奈川県茅ヶ崎市の長谷川書店ネスパ茅ヶ崎店の店頭で「本の産直市」を開催した。
事前に茅ヶ崎駅でチラシ配りなどした甲斐もあり、多くのお客さんが来店された。売り子となった各社スタッフも店頭に立って声をからし、金曜から日曜までの3日間で総額60万円近くを売り上げた。 (さらに…)
2021年3月末に消費税転嫁対策特別法(以下「特措法」)が失効することで、書籍を含むすべての商品・サービスについて消費税を含む総額表示が義務づけられます。
これによる不合理が容易に想定されるなか、「総額表示を考える出版事業者の会」を立ち上げ、消費税法改正の提言を行いました。
出版事業者(法人または個人事業主)は、下記提言書にご賛同ください。12月中に記者発表ならびに業界団体への要望を行いたいと思います。
本稿で言いたいことは以上ですが、以下に本提言にいたる過程を紹介したいと思います。
出版業界に激震が走ったのは9月14日に業界誌「文化通信」が報じた記事『出版物の総額表示 スリップは「引き続き有効」 財務省主税局が説明』でした。同記事で「2021年3月31日に消費税額を含めた総額表示の義務免除が終了となる際に、出版物も表示義務が課されることがほぼ確定した」と報じられたのが”震源”です。
原因は二つありました。
一つは「総額表示義務を知らなかった」という現実です。消費税法は2004年の改正ですでに総額表示を義務づけていました。しかし、その後に税率を段階的に引き上げることを定めた三党合意などがあり、特措法が2014年に制定されます。ここで、「価格が税込価格(略)であると誤認されないための措置を講じているときに限り、同法第63条の規定にかかわらず、税込価格を表示することを要しない」とされました(第10条)。これによって、書籍も「本体価格+税」との表記が「合法」化されたのです。
どうして税別表示が認められてきたのか法的根拠を知らずに、(酷く言えば)漫然と「本体価格+税」とカバーに表示してきたのです。
そして、激震のもう一つの理由は「時限法だとは知らなかった」という現実です。税別表示を認めてきた特措法が2020年度を限りとする時限立法で、21年4月1日以降に税別表示が「違法」状態となることを、私を含む多くの出版事業者は知りませんでした。
まったくの怠惰であり、ほかになんと言えばいいでしょうか。特措法は7年間の猶予を与えていたにも関わらず、私たちは無為に時間を過ごしたといって過言ではありません。
そんな私たちを叱咤するコラムが文春オンラインに掲載されます。
議員は「本音を言うと騒がないでほしい」と言うが…出版物“総額表示”問題、突然注目を浴びた理由
これは、東京・国分寺で早春書店を営まれているコメカさんによるものです。ここで、総額表示問題と出版の関わりが簡潔にまとめられています。
しかし、私の心を鷲づかみにしたのは、つぎの一文です。
「もちろん以前からこの問題についてきちんと学び、対処のために動いていた方も多くいると思うのだが、それは広い意味での出版業界のなかで共有されたあり方ではなかったように思う。この状況は、問題点や課題を広く共有し、コンセンサスをつくっていこうとする志向が、出版という世界のなかで衰弱していることの象徴であるとは言えないだろうか?」
「どんな立場の人も互いに意見を交わし合い学び合い、合意形成を図ることこそが、社会を護り育てる。出版という世界においても、本というメディアが抱える/遭遇する諸々の問題についてコンセンサスを作り上げるための体力の回復、リハビリテーションが必要な状況なのではないか」
鷲づかみというのはかっこよすぎます。「痛いとこ突かれた!」というのが本音です。
いまこそ、「リハビリテーション」がこの業界には必要ではないか。そう思った私は、鈴木茂さん(アルテスパブリッシング)と工藤秀之さん(トランスビュー)とともに、業界団体などに提言するための「起草メンバー」を呼びかけました。
結果、版元ドットコム会員社を中心に22人が応じてくださり、計25人でほぼ1カ月をかけて冒頭の提言書にまとめることができました。
まず、リモート会議において獲得目標を確認しあい、つぎにメーリングリスト(ML)で意見を出し合い文案を練るという形にしました。
獲得目標はつぎのようなものです。
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1)消費税法改正
2)問題の提起および解決案があることを…
a. 立法府、行政に知らしめる
b. 業界団体に要望する
c. メディアを通じて市民に広める
3)出版界からの声を後世に伝える
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これを基に、呼びかけた3人で文案を提示し、初校、再校と進むなかでさまざまな意見がありました。
提言書の「私たち」とはそもそも誰なのか? 総額表示が問題なのか、それとも公正な消費社会の実現が目的なのか? 文中で「定価表示」としないワケはなにか? 再販制に守られているくせにといった批判を受けないか? 他業界との連携を望むあまり趣旨が不明瞭になっていないか?ーー
一時は「まとまるのか?」と不安になる状況もありました。
が、そのたびにコメカさんの言う「コンセンサスを作り上げるための(略)リハビリテーション」とは、この過程そのものだと信じ進めてきました…と言えればいいのですが、実際には呼びかけ人である鈴木さんに負うところ大でした。
議論百出したMLに、鈴木さんはこう投稿されました。
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提言書案(初校)にいただいた皆さんからのご意見、ご提案は本質を深くついた、建設的なものばかりで、とても嬉しく、頼もしく拝見しました。
こんな素晴らしい方々と同じ世界で仕事ができる幸せを感じたりもしています。
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すると、この世は捨てたものでなく、冒頭に示したnoteを作成くださる方などが現れはじめたのです。
最終的にまとめた提言は、確かに最大公約数的かも知れません。組織によっては、もっとエッジの効いた提言がありえたかも知れません。
しかし、私たち「総額表示を考える出版事業者の会」は、「組織(Organization)」ではなく「集まり(Collective)」だと考えます。だから、コンセンサスを作り上げるという作業がまず重要なのです。
最後に、コメカさんの”檄文”に対する、起草メンバーの一人、白崎一裕さん(那須里山舎)の声を紹介します。
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アマノジャクの私は(笑)、リハビリではなくて、わたしたちが「ハビリテーション」を開始することになるのではないか?などと夢想しております。
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そもそも「リ」と言えるだけのものがあったのか、という痛烈な自己批判です。
こうした議論を経た提言書ですが、こうした部分をすっ飛ばしてでも賛同社を増やしていきたいと思います。
まずは賛同いただき、つぎは賛同社そのものが呼びかけ人となってください。
そして、消費税法改正を実現しましょう!
6月末、日本ジャーナリストクラブ(JCJ)出版部会主催の例会(勉強会)に参加しました。
小社は会員ではありませんが、『出版ニュース』の清田義昭さんが講演されるとのことで参加したしだい。 (さらに…)
「本が原作になる」ーーそう聞くと、その原作は小説やマンガなどのフィクションだと考えるのが一般的だろう。であれば小社にとっては無縁のものだと考えていた。
ところが、この夏、「ころからの本を原作に」という舞台が相次いだ。 (さらに…)
「深刻さ増す出版輸送問題」
「流通改革の必要性強調」
「輸送問題『出口見えない』」
「取次社長が輸送問題語る訳」
——これらは、新年早々の業界紙『新文化』(1月19日号)の1〜2面に並んだ見出しの数々だ。
最初の「深刻さ増す〜」が東京都トラック協会出版取次専門部会の瀧澤賢司会長にインタビューした1 面記事で、瀧澤氏は「発足時(昭和44年)72社いた部会店社は約半世紀を経て現在20店社となりました」として、「このままいくと早晩、出版輸送の崩壊がどんどん進む」と危機感を露わにしている。
つぎの「流通改革の必要性〜」は業界会合で紀伊國屋書店の高井昌史社長が「取次会社による物流体制の維持が困難になっている」と発言したというもの。さらに「〜出口見えない」は日本出版取次協会(取協)の平林彰会長がドライバーの労働環境について「荷主として対応しないといけない」が「出口がまったく見えない」と語ったという。そして、最後の「〜輸送問題語る訳」は同紙の丸島基和社長によるコラムで「運送会社の悲痛な声が内在している」と指摘している。
ひとつの号で、これだけ出版輸送の「危機」が語られることは珍しい。
一方で、丸島社長が指摘するように、これらは昨日今日顕在化したのではなく「約20年にわたり、(略)深刻さを増している」問題だ。 (さらに…)
「秋の大文化祭」の異名をもつ高円寺フェスが第10回を迎えます。
東京・高円寺の古着屋さんたちが中心となって、地元商店会を巻き込み、「お店に背中を向けないお祭り」を目指してこられました(確かに、そう言われると大きな「お祭り」って商店にお尻を向けて鑑賞することが多いですよね)。
そのフェスで「本とアートの産直市」を、今年も開催します。
これまで、新刊版元が中心となって開催してきましたが、今回は、地元の市民グループ「本が育てる街・高円寺」(略称「本街」)と、新刊書店「文禄堂高円寺店」とのコラボで開催することができます。
地元コンシャスなお祭りだけに、心強い味方ができたと言えます。
そこで、今回は、メインプログラムの「本とアートの産直市」だけではなく、本街などとのコラボ企画をご紹介します。
●「本の交換市」を開催
本街とのコラボ企画としては、「本の交換市」と「チャリティー古本市」を開催します。
「本の交換市」は本街が日頃から行っている活動のひとつで、「まちなか本棚」の拡大版です。
「まちのほんだな」では、自転車屋さんや魚屋さんなど、日頃は本と縁のないお店や古書店に本棚を設置し、「自分だけでなく、誰かに読んでもらいたい本」を交換しあうというもの。本が「循環」する様子を可視化しようという野望がこめられた企画です。
そして、高円寺フェスの2日間は、約500冊の古本をならべ、そこに「誰かに読んでもらいたい本」を持ち寄ると、同じ冊数の本と無料で交換できる、というものです。
会場:明石スタジオ前(杉並区高円寺南4-10-6)
日時:10/29・30 12:00〜17:00
●本屋で使えるクーポンをプレゼント
一方、文禄堂高円寺店とのコラボ企画は、「本とアートの産直市」で500円以上の買い物をすると抽選で最大3000円のクーポンが当たる、というものです。
本の産直市は、メーカー(出版社)がユーザー(読者)と直接触れ合う機会を設けることを第一義としています。けっして「中抜き」して、「おれたちで儲けを山分けしようぜ」というものではありません(笑)。
しかし、そのことを具現化するのは、なかなか難しく、これまで試行錯誤してきましたが、今回は購入者にクーポンを提供し地元書店で使ってもらうことで、本を介して人が街を「回遊」するきっかにしようというもの(下世話な話ですが、使用された額を本とアートの産直市から書店に現金で補填します)。
高円寺を本の街にしたい、という本街メンバーの思いを実現する第一歩になればと思っています。
最後に、メインプログラム「本とアートの産直市」についてPRを。
今年は、32の出版社が集い、「産直」の原点にかえって盛り上げます。
産直市のいいところは、作り手が買い手と対面し、言葉を交わし、より深く本を知ってもらうこと。なので、今回は、いつもより多くの作り手が会場内にわさわさと滞在しています。
また、前夜祭「歴史は削除できない」やトークイベント「小さな出版社のつくり方」など各種イベントもあります。
ぜひ、お立ち寄りください。
「本とアートの産直市@高円寺フェス2016」
会場:明石スタジオ(杉並区高円寺南4-10-6)
日時:10/29・30 12:00〜18:00
入場無料
2015年7月16日、安全保障関連法案が衆議院を通過。参議院での審議が始まり、多くの憲法学者がはっきり「違憲」だとする法案を、立法府が認めてしまうのか、注目されています。
そんなタイミングで、小社は1945年に平均年齢18.5歳だった15人の戦争体験者の証言を、同じ数の現代の若者が「同世代」の物語として読み直した本を出しました。 (さらに…)
この2月に雑誌『WiLL』(ワック)の花田紀凱編集長と、「出版業界と『ヘイト本』ブーム」をテーマに公開で対談した。
当初は、花田氏と彼が推薦する識者組に対して、私と『「在日特権」の虚構』(河出書房新社)の著者・野間易通氏が2対2で「対決」するというのがウリだった。
ところが、開催直前に「木瀬さんはともかく、知らない人とは話したくない」という理由にならない理由で野間氏の同席を拒否。自ら推薦する識者も「いない」と言い出した。
そのため、急遽、私と花田氏が1対1で「対決」することになった(野間氏には、第2部として『WiLL』に執筆する古谷経衡氏と対談いただいた)。 (さらに…)
朝日新聞に「売れるから『嫌中憎韓』」という記事が掲載されたのは、今年の2月11日でした。
この中で、都内の三省堂書店神保町本店が 「1階レジ前の最も目立つコーナーに刺激的な帯のついた新書が並ぶ」と紹介されましたが、書店営業されている方には、どの店でも馴染みの光景ではないでしょうか。
実際、アマゾンで「嫌韓」を検索ワードにすると400件以上の本がヒットします。なかには、『ネットと愛国』(安田浩一)や『その「正義」があぶない』(小田嶋隆)といった、嫌韓ムードに異議をとなえる本も含まれますが、ざっと200点以上の嫌韓本や韓国や中国への偏見を増長するようなヘイト本が稼働しているようです。
(さらに…)
みなさん、こんにちは。
私は、今年(2013年)1月に創業した出版社「ころから」でパブリッシャーを務めています(とはいえ、小社では全社員とも肩書きは「パブリッシャー」です)。どうぞ、末永くおつきあいください。
さて、1997年から一貫して右肩下がりの出版業に、どうして新規参入したのかと多くの人から聞かれます。
創業まもなく、大手取次にお伺いして、どのような条件なら取引を開始くださるのかと尋ねましたが、最近は年に一件しか新規取引を交わさないとのこと。しかも「大手出版社を辞めた編集と営業の方が一緒に立ち上げられたケースに限る」という本音を聞いて、思わず「それは、なんていう幻冬舎ですか?」と憎まれ口を叩いてしまったほどです。
(さらに…)