シャチの「サメ狩り」がエグすぎる

  • author Kenji P. Miyajima
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
シャチの「サメ狩り」がエグすぎる
Image: Image: woravit thongpolyos / Shutterstock

シャチにだけは狙われたくない。

船を襲いヨットを転覆させ、イルカを狩り、1頭でホホジロザメを2分で仕留めるシャチ。世界中でその比類なき強さを見せつけてきたシャチが、今度は世界最大の魚、ジンベエザメを集団で狩る全容が捉えられました。

若くて小柄なジンベエザメを狙いうち

春になると、メキシコ沖のカリフォルニア湾にまだ若いジンベエザメがプランクトンを求めてやってきます。ところが、それをジンベエザメ狩りに特化したシャチたちが待ち構えているんです。

シャチが集団でジンベエザメを狩る方法は、学術誌Frontiers in Marine Science に掲載された研究結果で詳しく報告されています。

ジンベエザメは、カリフォルニア湾の特定の海域でエサを捕る傾向があるらしいのですが、体長5~10mのまだ若くて比較的小さい(大人は最大20m)個体もいるため、シャチにとって格好の獲物になってしまうようです。といっても、研究者は大きさが5mを超えると、捕食できるのはシャチしかいないといいます。

これまでにもシャチがジンベエザメを捕食しているらしいという断片的な情報はありましたが、今回の研究結果では、2019年から2024年の間に、同じシャチの集団が4度ジンベエザメを捕食する様子が詳細に伝えられています。主に狩りを率いるのは、地元の人たちがMoctezumaと呼ぶオスのシャチで、4度のうち3度の捕食活動に参加していました。

世界的にみると、同じ海域に生息していたとしても、ジンベエザメを襲うシャチはほぼまったく報告がないらしく、カリフォルニア湾の特定のポッド(個体群)だけがジンベエザメに特化した狩りの方法を習得しているのかもしれないと考えられています。目撃されにくいだけで、実際には他の群れもジンベエザメの捕食を行なっている可能性もあるにはありますけど。

海面に向かうようにしつこくアタック

Attacking technique in the ocean
Image: Kelsey Williamson

一連の流れとしては、上の画像のように、海中のジンベエザメの頭部と腹部に、複数のシャチが交代で体当たりして、海面に向かわせます。海面近くまで浮上させると、1頭のシャチがジンベエザメの骨盤あたりをかみ、海面で息継ぎをして戻り、とどめの一撃を加えたそうです。こうして平衡感覚を失ったジンベエザメをシャチたちがあおむけにして、海面に浮かび上がらせます。

Image: Popular Science / YouTube

そして、これは別の日に目撃された捕食活動ですが、シャチはジンベエザメをあおむけで海面に浮かせて、腹びれをかみちぎってジンベエザメを失血死させたとのこと。あおむけにするのは、その姿勢になるとジンベエザメは身動きをとれなくなるからだそう。巧妙というか残酷というか…。

また、腹部を執拗(しつよう)に攻撃するのは、ジンベエザメの体でもっとも攻撃に弱く(背中の皮膚はかなり厚い)、また、シャチが好んで食べる内臓や血管へのアクセスがかんたんだからといいます。

逃げる方法はあっても逃げ道がない

ジンベエザメは、名前にサメとついてはいても、性格はおとなしく、反撃しようにもシャチのような鋭い刃を持っていません。身を守る方法もあるにはあるのですが、捕食者に皮膚が厚い背中を向けて丸まったとしても、複数のシャチに攻撃されるとひとたまりもありません。

また、ジンベエザメは深い場所まで急降下して捕食を回避することもあるそうです。実際、ジンベエザメは水深2,000mまで潜れるといいます。しかし、シャチは息継ぎをしながら集団で体当たりしてジンベエザメを潜らせないようにするので、簡単には逃げられないんです。本当に賢くて残酷。

研究チームは、絶滅危惧種に指定されているジンベエザメは、気候変動によってメキシコ沖のジンベエザメの個体数も今後さらに減ると考えています。そうなると、ジンベエザメの狩りに特化したシャチの集団もまた、生き残るのが大変になりそうです。

それにしても、いくら人を襲わないとしても(ヨットや船は襲うけど)、シャチの狩りを潜って撮影する勇気はないな…。

Source: Pancaldi et al. 2024 / Frontiers in Marine Science

Reference: Dive Magazine, Popular Science / YouTube, Popular Science, National Geographic, IUCN Red List