iPhone 6がダダもれだった一方、情報が守られたApple Watch。
今週、iPhone 6とiPhone 6 Plusが発表されましたが、発表前からその詳細はもうみんなほぼ把握していました。でもApple Watchの情報は、最後まで謎のままでした。アップルはどうやって秘密を守ったのでしょうか? 実は彼らの魔法の一部を犠牲にし、リスクをとったことでそれは可能になったのです。
以前我々は、アップルイヴェントの成功要因についての記事を書きました。それは、「見せてすぐ売る」力です。彼らのイヴェントでは、謎のコンセプトだけとか、できてはいるけど全然期待はずれなものとか、古くなったものとかは発表されません。「ステージで見たものが、ほぼすぐに店頭で買える」という明確な保証がありました。「欲しい」と「買った」の間のギャップは、事実上存在しなかったのです。
彼らはそれをずっと繰り返してきました。iPadでもそうですし、iPhone 4Sは見た目こそiPhone 4みたいでしたが、それでも意外な展開でした。リーク情報はほとんどないか間違いで、それはアップルの厳しい取り締まりのたまものでした。サプライチェーンから情報を流す作業者や、工場に忍び込むスマートフォンカメラも少なかったのです。
でもここ最近ずっと、同じことはできなくなっていました。あまりに多くの部品が工場を抜け出し、あまりに多くの人がそれらの部品を組み立てて実物にほぼ近い複製を作ってきました。新製品が製造段階に入ると、その正体を覆い隠せるだけの強固な情報統制が事実上不可能になってしまったんです。
そんな今、どうすればいいのでしょうか? 「見せてすぐ売る」をやめればいいんです。見せて、待つんです。
見せて、待つ
Apple Watchがサプライズたりえたのは、Apple Watchがまだ意味のある形では存在しないからです。もちろんサプライズといっても存在はみんな知っていましたが、外見や機能はわからないままでした。まだ買うこともできないし、使うこともできません。発表イヴェントに出席していれば、手首に着けることはできましたが、ディスプレイは機能していませんでした。つまりユーザーにとって、Apple Watchはまだフェアリー・テールなのです。そして来年のいつになるかわからない発売日まで、その状態は続くのです。
賢いですよね。そのおかげでアップルは久々の「One more thing」ができたし、誰も予想だにしなかった「デジタルクラウン」という新たな入力方式をお披露目することもできたんです。それはいかにもアップル的瞬間で、彼らにしかないエネルギーを感じさせられました。そんなエネルギーは本当に、もう長いこと感じられませんでした。
とはいえ、そんな瞬間が最近まったくなかったわけでもありません。Apple Watchの前には、Mac Proで予行演習されていました。その円筒型の筐体の存在自体がサプライズでした。アップルがMac Proを刷新しつつあること自体、もっとリーク情報があってもよかったですし、ゴミ箱みたいな形についてももっと噂されてしかるべきでした。でもMac Proは、発表時点でできてなかったから、情報ももれなかったんです。発表から発売までに、4ヵ月の時間がありました。
つまりこれが、アップルの新しい戦術のようです。サプライズに値するくらい重要で、差別的で、秘密にしたい製品に関しては、発表時点ではプロトタイプだけ見せるということです。サプライチェーンの心配はそのあとでいいんです。Mac Proではこの戦術がうまくいきました。ただApple Watchに関しては、もっと難しいかもしれません。
難関はここから
Mac Proの発表後、アップルが応えるべき期待はただひとつ、円筒形パッケージにすべてのパーツを収めたデスクトップコンピュータを大量生産することでした。でもApple Watchに関しては、時代を定義する製品への期待に応えなくてはなりません。
Apple Watch発売までにアップルがやり切るべきことを考えてみましょう。新しいスマートウォッチのインターフェース開発。誰もまだ作ろうとすらしていない機能を載せた、スマートウォッチOS開発。ホテルの部屋の鍵から銀行のアカウントまで、あらゆるものを操作するパートナーと、安全かつシームレスに連動する機能。3種類のスマートウォッチを、それぞれ2サイズ作り出すこと。ユーザーの手首をトントンとたたく、Taptic Engine。心拍数の共有機能。動的なホームスクリーン。フィットネストラッキング。バッテリライフ。バッテリライフ。バッテリライフ。
もちろん、ここに挙げたものがまだ全然できていないとわけじゃなく、デモはたくさんありました。また、アップルにはこれらを実現できないだろうという意味でもありません。Apple Watchのヴィジョンははっきりしていて、実現可能でもあります。が、未完成であることもはっきりしています。もし完成しているなら、今週iPhoneと一緒に購入予約できたはずです。
これはアップルにとって不慣れな状況でしょう。彼らはサプライズを実現するため、あえて今までと違うやり方をとったのです。でも一番難しい魔法は、サプライズを起こすことではなく、サプライズで持たせた期待をその通り実現することなのかもしれません。
Brian Barrett - Gizmodo US[原文]
(miho)