でも…
HDRは、ぎょっとするような、おぞましい「やり過ぎ写真」の温床にもなっているのです。
これを止めて欲しいと思っている、米ギズモードのMichael Hession記者によるHDR写真に対する見解をお届けします。
ここ数年の間で、インターネット上には不自然で派手な雰囲気のHDR写真が散見するようになりました。ほとんどのHDR写真はまるでゲームのような、またはアニメCGのようなレンダリングで、ビカビカに高彩度な色味、過度なテクスチャーエフェクトは一目でそれとわかります。
数週間前のNew York Timesを開くまで、この問題は特に気にしていませんでした。上の写真のNew York Timesでは、一面にひどいHDR写真が掲載されていて、僕はHDRというものがここまで侵食していることにようやく気づいたのでした。
このようなデジタル写真の技術が、フォトジャーナリズムの歴史もあり権威ある出版物に使われるのは違和感を感じました。同時に、この狂気に終わりを告げる時が来たと思うのです。
そもそもHDRってなに?
HDRは、ハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range)の略。写真の明るい部分と暗い部分を同時に捉えられない、従来の写真技法の限界から逸脱するために産まれました。
写真撮影時によくある、白飛びしてしまった(または逆に黒潰れしてしまった)空や、露出不足の人の顔。デジタルカメラで記録できるダイナミックレンジには限界があるため、景色の中のどちらかの明るさを優先してしまうと、どちらかは階調の表現ができずに「飛んで」しまうのです。
この問題を克服するために生まれたのがHDR。1つの風景を異なる露出で写真を撮影し、ソフトウェアを用いて一枚の画像に合成することによって、画像の持つダイナミックレンジの幅を最大限に引き出すことができるようにしたのです。
iPhoneには標準でHDR撮影機能があるので、HDRというものはどこかで聞いたことがある人は多いと思います。このHDR撮影機能を使えば、コントラスト幅のある風景などで、ハイライトが復元されます(そしてなかなか良く出来ている)。Google PlayにあるSnapseedというアプリのHDR-Scapeフィルターはローカルコントラストを増幅させ、超ヴィヴィッドでディテール感を演出します。
どのような作成方法であれ、HDR写真の効果とは目を引くような感じで、カラフルで、魅惑的なんだけど…でも、ほとんどのものは圧倒的にクソだと思う。
HDRは全体のイメージコントラストを犠牲にして、ローカルコントラストを増幅させます。
Henri Cartier-BressonやWalker Evansといった偉大な写真家のような光と闇の遊びのような、シャドウの扱いは基本的に失われているでしょう。
写真の構成バランスをとるための、構図には目を引くようなものは残っていません。残っているのは、誇張された色合いとテクスチャーのスクランブルです。
何か作例はありますか?
以下の写真は僕が撮影したもので、上がAdobe Lightroomで普通に露出と色味を調整したもの。下は Snapseedの HDR-Scapeフィルターを利用したものです。
HDR写真は明らかに「ポップ」になっていますが、屋上から人間が見た風景とは、かけ離れてしまっています。オリジナル写真は暖かい春の夕暮れが表現されていますが、下の方は輪郭が誇張されています。
こういうタイプの写真は見た目は悪いですし、さらに良くないのは大体同じに見えること。広角の風景であろうとも、廃れたビルのインテリアだろうとも、HDRの表現方法はどれも似通った感じ。
それでもこれが好きな人はいるんだけどね。
HDRはすでに写真の中の1つのカテゴリーになってしまって、取り憑かれた人たちもいるけれど、それはまあしょうがないのです。 これ以上写真のメインストリームの中に浸透する前に、一部の熱狂的なブームをどうにか退けたいと思うのです。
もっと効果的にするには?
HDRはもっと正しくできるはず。ほとんどのデジタルツールのように、良い所をうまくかけあわせて使えれば素晴らしい効果が得られると思います。HDRの技術を限定的な用途で控えめに使うことができれば、HDRは写真のイメージをより良くするし、ダイナミックレンジの欠点を適切に補ってくれるでしょう。
エフェクトをかけた瞬間に劇的に色のイメージが変わるという一時の興奮に陥らないことが大事です。HDRの魔力はドラッグのようなものです。中毒にならないように。
以下はFlickrユーザー slmullen氏の控えめなHDR写真の作例です。
全体的な風景のイメージを損なうことなく、木々の暗い部分のディテールがきちんと見えるように仕上がっています。ぱっと見HDRっぽくないと思うかもしれませんが、それが良いのです。
僕のHDRに対する不満は、表現方法がみんな均一的なところです。見掛け倒し以上のテーマが無いし、創意工夫や繊細さの余地が無いように感じる。まるで一発屋の芸人みたいです。
HDRが我々にもたらす技術は非常に素晴らしいと思うし、今も進化の途中だと思います。いつか将来的には、カメラのセンサーが風景の明るい部分も暗い部分も、広いダイナミックレンジを捉えられるようになって、写真家は1枚のファイルだけで写真の心臓部分を巧みに扱えるようになるかもしれません。
1世紀以上受け継がれてきた写真の原点に敬意を払いつつ、新しいアプローチを重ねていくのが良いのです。
Michael Hession - Gizmodo REFRAME[原文]
(mayumine)