地球外生命体の真の姿とは? 科学的に考えてみる

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  • author 福田ミホ
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地球外生命体の真の姿とは? 科学的に考えてみる

SFでは、人間っぽいのとか、動物っぽいのがたくさん出てきますが...。

我々の銀河系だけでも、地球のような惑星が20億個もあると言われていて、地球外生命体が存在する可能性は非常に高いように思われます。地球とはまったく違う環境で生まれたそんな生命体は、どんな姿なのか、SF作家がいろいろ想像してきました。

SFに出て来るエイリアンは、人間や他の動物をちょっとアレンジしたような姿をしています。でも、本当に地球外生命体がいれば、彼らは地球とはまったく異なる環境から発生し、進化しているのです。体を作る物質も、エネルギー摂取の方法も、繁殖の仕方も、地球上の生物とはまったく違うのではないでしょうか。そこで我々は宇宙生物学の専門家へのインタビューや徹底的な調査を行い、真のエイリアンの姿を一から考えてみました。

・体は何でできているの?

炭素系生命体」という言葉を聞かれたことがあるかもしれませんが、それはどういう意味でしょう? 炭素は、酸素や水素、窒素といった他の元素と組み合わされて、地球上の全生命体の基礎となっています。なので多くの人は、他の星にいる地球外生命体も炭素系だろうと何となく思っています。我らがカール・セーガンはこうした思い込みを「炭素排他主義」と名付けています。

炭素は生命の基盤として非常に優れています。炭素を基本骨格として安定した結合ができるのですが、これは他の元素にはできないことです。また、より複雑な分子をその上に構築するための基礎としても非常に適しています。というのは、炭素原子にはペアを持っていない電子が4つあり、他の元素と安定した共有結合を作ることができ、なおかつ結合を解くことも容易にできるためです。古い星では、炭素が窒素や酸素とともに自然に作り出されるので、宇宙には大量に存在すると考えられます。

ただ、この種の話を専門とする科学者の間でも、地球外生命体が炭素系かどうかについては意見が分かれています。NASAの宇宙生物学者のリン・ロスチャイルド氏は「絶対に炭素系だ」と言い切ります。またSETI(Search for Extra-Terrestrial Intelligence、地球外知的生命体探査プロジェクト)の上級宇宙生物学者のセス・ショスタク氏は、炭素は「生物学的に不可欠である可能性が高い」と言います。

さらに、ペンシルバニア州立大学の地球科学者、ジム・ケイスティング博士は言います。

ケイ素は周期表上で炭素のすぐ下にあり、多少の結合を形成できる。でも酸素との結びつきが強すぎて、基本的に岩石のようになってしまう。私が思うに生命とは炭素ベースのものであり、液体状の水またはそれに非常に近いものも必要だと思われる。アンモニアと水の混合でもいいかもしれない。

ケイ素ベースの生命体に異を唱える人は他にもいます。NASAの宇宙生物学者マイケル・ニュー氏は、ケイ素の結びつきは反応しやすいので、長い間安定を保つのが難しいとしています。

でも、コロラド大学の宇宙生物学者、マーク・バロック博士はもっとオープンマインドです。

我々のように、水の星にいる生命体はおそらく炭素系だろう。でも、より高温の惑星は、原則としてケイ素ベースの生命体を持ちうるだろう。そうした生命体はもっと結晶性で岩石っぽい外見で、それでも動きは機敏である必要がある。他にも可能性がいろいろあり、たとえばガスの巨星にいる巨大な風船みたいな生命体や、宇宙を飛び回る知能を持ったプラズマ雲とかが考えられる。

バロック博士は『スタートレック』に出て来る生き物、特にエンタープライズ号が出くわす宇宙アメーバなどを称賛しています。ものとしての出来栄えはともかく、コンセプトとして素晴らしいと言います。

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ケイ素以外では、どんな元素が生命を作れるんでしょう? たとえば、リンはチェーン状の分子をそれ自体で作ることができ、窒素との組み合わせではさらにいろいろな分子を作ることができます。ホウ素の化合物も炭素以上に多様なんですが、ケイ素同様、存在する量が少なすぎるかもしれません。硫黄も長いチェーンの分子を形成できるものの、ケイ素と同じ問題があるのですが、映画『スターゲイト』に登場したガドミーア人は硫黄ベースの生命体でした。また、『スタートレック』では鉱物風のソリア人、『ドクター・フー』ではテルルベースの生命体クロトン、といったキャラクターが見られました。

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もちろん、地球外生命体が何かまったく未知の元素からできていて、DNAやRNA、アミノ酸とはまったく無縁である可能性もあります。

前出のニュー氏は、炭素系生命体の中だけでも幅広い生化学的組成やライフサイクルがありうることを指摘しています。この地球においてさえ、原核生物から菌類原生生物などなどがあり、生命とは非常に多様なものであることを証明しています。かつて2007年、米国研究評議会は「奇妙な生命(Weird life)」という報告書を発表し、炭素系生命体であっても地球上の異なる環境にあれば生物学的に異なってくることを明らかにしています。

・どんな環境で進化したの?

すべての生命は、地球上でも、別の銀河系の惑星でも、環境に応じて進化します。進化した環境への理解なくしては、地球外生命体のありようを想像することはできません。

バロック氏いわく、たとえば生命体が存在する世界の重力を考慮してみましょう。重力が強い世界では、背の低い、ずんぐりした生物が生まれるでしょうし、小さな月では背の高い、ひょろっとした生物が生まれると考えられます。地球のような世界では、ペンタゴンより大きな生命体が生まれるのは考えにくいとショスタク氏は言います。

知能を持つ生物は、宇宙において進化できるでしょうか? ニュー氏は放射線環境のためにおそらく不可能だと言います。ケイスティング氏は、そんな生物が存在できる惑星は、表面が固体か液体で、安定した圧力温度を保てなくては、地表に立つこともできないと言います。「特に宇宙船を作れるような生命体だとしたら、または通信機器を作れるとしたら、地球のような惑星の陸地が必要になるだろう」と。

ニュー氏によれば、大事なのは「生命とそれが住む惑星はともに進化する」ということです。環境が先に完成形で存在し、そこで生命が育まれていくといものではありません。たとえば、地球上の大気中に存在する酸素は生命体が作りだしたもので、バクテリアが光合成で水を酸素と水素に分解するようになるまでは、大気には酸素はほとんどまたはまったく存在しなかったのです。ニュー氏は「突然酸素が増加したことで地球の化学的組成が大きく変わり、酸素のない環境で進化してきた生命体すべてにとって大きな危機をもたらしたことでしょう」と言います。

・どんな風に食べるの?

すべての生命体はエネルギーを必要とします。そしてエネルギーは、生命体が容易に変換できる形で生産される必要があります。地球では、全てのエネルギーの究極の源は太陽です。太陽はエネルギーを光と熱の形で供給し、それが植物によって食料へ、そしてエネルギーへと変換されていくのです。

すべての地球上の生命は、消費の連鎖からエネルギーを得ます。太陽>草食動物>雑食動物>肉食動物といった順です。この連鎖の各ステップで、前段階と比べて約90パーセントのロスがあり、先の段階に行くにつれて生命量のロスがあります。なので植物はキリンより、キリンはライオンよりたくさん存在します。おそらくこれは他の星でも同様と考えるのが安全でしょうから、生産者タイプの生命体であれば、それを食べる肉食動物よりもたくさんいることになるでしょう。同じように、ある種が突然減るとその連鎖の下にいる生物全てに影響してきます。

これはすべてのエネルギーが恒星から与えられなければいけないという意味ではありません。理論上は、熱勾配・圧力勾配から電場化学場までいろいろあります。地球のエネルギー源のように、これらのエネルギー源はそれぞれメリットデメリットがありますが、いずれにしてもまだきわめて理論上のものなのです。

では、エイリアンはどのように「食料」を消費し、エネルギーを作り出すのでしょう? それは生命体のいる世界の生態系に依存する、とニュー氏は言います。生命体のあり方を理解するには、生態系そのものが明らかでなくても、それがどのように機能し、その一部としての生命体がどう機能するかは意識する必要があります。

ケイスティング氏は、ほとんどのエイリアンは地球上の多くの生命体と多かれ少なかれ同じように機能するだろうと考えています。つまり、彼らは液体の水を必要とし、酸素を吸い、呼吸によってエネルギーを得るだろうということです。ほとんどの地球外生命体は炭素系の食物を食べ、ある種の「野菜と肉」を食べるということです。地球上の生物がそんな方法でエネルギーを得るのには理由があります。炭素系の食物を食べると、呼吸で取り込まれる酸素とよく反応するのです。

・どうやって生殖するの?

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生殖は、地球上で見られるように、有性生殖でも無性生殖でもありえ、それは生物のニーズによります。一部の有機体は、環境によって両方可能です。ある種のプランクトンは、たとえば、競争が少ないときは無性生殖を行い、数が十分に増えると有性生殖に切り替えます。これは異形配偶と呼ばれています。また、一部の「ストレスを受け、分散された爬虫類の群れ」は単為生殖も可能だ、とバロック氏は指摘しています。

エイリアンが男女以外の第三、第四の性を持っていることもありえます。ただ、そうするとそれぞれの性同氏で必要な接触をできる確率が下がってくるので、性が多くなる可能性は低そうです。菌類の複数の種では独自の交配型を持っているのですが、それによって個々の菌が間違って自分自身と交配するのを防いでいます。エイリアンが独自の交配型を持っている可能性はあります。

他のすべてと同じように、エイリアンがどう生殖するかはその世界の環境に依存します。でもほとんどの専門家が何らかの有性生殖が地球以外でも共通してあるだろうと考えています。無性生殖の考えを阻む主な理由は、無性生殖だと有性生殖ほど遺伝子的な多様性が作りだされないことにある、とケイスティング氏は言っています。

・どんな外見なの?

まったく新しいエイリアンを想像する際の主な問題は、地球にいる種しか事例がないということです。地球は、現在とその歴史全体において、単核球からヒメアルマジロから巨大クジラまで、様々な植物や動物を育んできました。なので、地球外生命体についても既存の種のパッチワークを想像することが多くなっています。ラブクラフトの小説でも、6~7種類の節足動物とか軟体動物の合いの子がよく描かれていました。

でも、平行進化を考慮したとしても、エイリアンが地球上の生命体と同じような外見であることは考えにくいです。自然淘汰の触媒となるものは偶然であり、その世界の環境によって支配されています。生物自体の変異もランダムにあるので、地球外生命体の姿を予測するのは原理上不可能になります。

地球上の生命の多くは大きさ・形について生体力学からの制限を受けています。エネルギーや体液を移動させるのに必要な物理的特性とエネルギーは、急速に複雑化しました。キリンが水を飲んだ後になぜ死なないのか、科学者が理解するのには時間がかかりました。さらに細胞生物学上、細胞の大きさと形にも制限があり、しかもひとつの細胞には、必要な全ての要素を収める必要があります。

生体力学に加えて、エネルギー源による制約もあります。エネルギーと食糧供給が豊富な有機体は、他の環境要因においてベストなサイズになることができます。もし摂取できるカロリーが少なければ、ある一定の大きさまでにしかなりません。また手や、手のような外肢は道具を使ったり物を動かしたりするのには便利です。銀河をまたいで移動できるような「インテリジェント」な生命体であれば、手のような外肢を持っていると考えられるでしょう。

・どんな感覚があるの?

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全ての有機体には何らかの感覚器があります。でも、我々と同じようなものとは限りません。エイリアンの持っている感覚は少ないかもしれないし、五感よりもっと多いかもしれません。環境によってどの程度必要とされたかによります。

たとえば触覚はおそらくありえますが、聴覚嗅覚は必ずしも必要ないかもしれません。ある種の感覚は、特定の環境ではない方が有利かもしれないし、役に立たないかもしれません(真っ暗な洞窟に住んでいると視覚がなくてもいい、とか)。

生物がテレパシーを使えれば、話すことと聞くことはそれほど重要ではなくなります。エイリアンが目を持っていたとしても、見える波長は我々とはまったく異なるかもしれません。マイクロ波や赤外線が見えるかもしれないし、音波やもっと高いまたは低い波長が聞こえるかも知れません。味覚や嗅覚に関しても同様のことが言えます。

五感以外の感覚もあるかもしれませんが、それはエイリアンの環境の産物であり、その種が生き延びるために有利になるものでしょう。もしかしたら、音が見えて、色が聞こえる共感覚が役に立つ環境もあるのかもしれません。

・もっとすごい可能性

地球上の全生命体は自然の基本的な4つの力のひとつである電磁気力に裏付けられていますが、そうではない、まったく異なる生態を持った生命の形が地球外に存在する可能性もあります。

4つの力の他の3つのうち、ひとつは核力(「強い力」)で、原子核とその構成要素を結びつけています。もうひとつはいわゆる「弱い力」で、放射性崩壊を起こすものです。最後のひとつは重力で、これが4つのうちもっとも弱いものです。理論上は、他の3つの力のうちのひとつが独占する環境において進化する生命体も存在しえます。

・クロモ力学・核力の生命体

これらの生命体は核力のみが支配する環境で進化します。地球上で核力が、原子核を結びつける以上にもっと強くならない理由は、その力が非常に強いにもかかわらず、10~15メートル程度の範囲でしか有効でないためです。この環境は、ある種の天体での環境ではありうるかもしれません。特に中性子星は非常に密度が高く、高温の中性子の海とマントルがあるため、その可能性が高そうです。これらの中性子はある種の生命体にとって一種の「原始のスープ」になるのではないかと理論づけられています。

・弱い生命体

「弱い力」の生命体は想像しにくいです。この力自体ができることは少なく、何かを結びつけているわけではないためです。でも理論上、弱い生命体が環境の操作を通じて生き残る可能性はあります。というのは、その生命体が崩壊やそのプロセスに影響を与えて、結果として起こる不均衡を通じてエネルギーを得ることができれば、ということになります。

・重力生命体

重力はエネルギー源として非常に効率がよく、しかもどこにでもあります。なので、重力ベースの生命体は可能性がもっと高そうです。小さな有機体は我々と同じような方法でエネルギーを収穫できるかもしれず、重力エネルギーを風や滝、水流から変換します。もっと大きな生命体は、ブラックホールや恒星間の衝突の巨大な重力エネルギーを使うかもしれません。

・最低限言えることは

生命は、我々が現在理解している以上にきわめて奇妙で素晴らしいものです。地球と全く異なる環境を持つ惑星を想像すると、異なる重力、大気、食料があれば、地球では決して見られないような、奇妙で美しい生き物を考えることができるでしょう。絶対にありえないのは、別世界からやってきた生き物たちが、我々とまったく同じようなものだということです。NASAのニュー氏が言うように、今我々にできる一番大事なことは、ただ興味深いストーリーを語ることくらいなのかもしれません。

トップ画像: Xenobiology by Abiogenesis on DeviantArt

Charlie Jane Anders and Gordon Jackson(原文/miho)