1970年代に総ガラス張りの建物を建てるのがいかに大変だったか。

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    1970年代に総ガラス張りの建物を建てるのがいかに大変だったか。

    新しい物作るのって大変です。現在は普通のものでも、当時は大変な努力と勇気が必要だっただろうな、と思われることもよくあります。

    その良い例が現在はよく見る全面ガラス張りの超高層タワー。昔はモダニズム建築の夢でした。

    その夢を現実したのが、ボストンにあるジョン・ハンコック・タワーです。

    しかし夢はそう簡単には実現しませんでした。ハンコック・タワーは合計500ポンドの窓が割れて、地面に落下するという事態に落ち入ったのです。

    いったい何が悪かったのでしょう?

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    巨大なガラスビルは現在では、ありきたりなものです。しかし70年代の始めは違ったのです。

    ジョン・ハンコックタワーは超高層ビル界の花形でした。

    60階建てのビルが沢山のガラスで覆われています。正確には10344枚のガラスで。

    独特のくさび型でボストン1の高さのこのビルは、建築学の教授を気取るならば、デザインの勝利と言えます。

    圧倒的で、美しく、そして新しいビルと褒めそやされました。

    ガラスが落ち始めるまでは。

    初めてガラスが割れた時、ジョン・ハンコックタワーは完成すらしていませんでした。1973年の冬、巨大なガラスの一枚がパリッパリッと割れ、歩道に落下しました。

    それから1枚1枚、パリパリと割れて落下して行きました。時には落下する途中で他のガラスを割ったものもあります。

    歩道を歩いている人にとっては大変危険です。

    割れたガラスがビルの周りの至るところで見られるようになり、ビル周辺はロープで立ち入り禁止になりました。

    ある人は風のせいだと言い、ある人は形状のせいだと言いましたが、誰もガラスが割れた正確な原因は分かりませんでした。

    事態は更に悪化します。助っ人として連れてこられたスイスのエンジニアが、問題はガラスの落下だけではなく、ビル全体が倒壊の危機に落ち入っていることを指摘します。

    風に抵抗するためにガラスの端を補強した結果、細く繊細な構造は壊れやすくなってしまい、ガラスと鉄骨が破裂し、ビル全体が内側から壊れかねない状態になっていたのです。

    そこで横揺れ対策として300トンのおもり、2つがビルの中に持ち込まれました。これだけで300万ドルもかかりました。

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    このころ周辺の建物は窓にベニヤ板を打ち付けて、自分の窓を保護していました。ボストンっ子は「ベニヤ板宮殿」と呼んだそうです。

    現在はタワーがきちんと建っています。ボストン・グローブ社の調査によると名建築第3位に選ばれたほどです。

    そのためには大変な費用と長いプロセスの調査を必要としました。

    しかもこれらは極秘で行われました。全ての関係者は、自分の知ったことを秘密にすることをサインさせれました。

    事の詳細は何年も経ってから少しずつ明らかになりましたが、それらは主に建築家間で極秘でやりとりしていたの情報に基づくものでした。

    そこで今回は建築界の権威の所にインタビューに行ってきました。

    インタビューしたのは、シカゴのウィリスタワー(旧シアーズタワー)やドバイのブリュジュ・ハリファ(ブルジュ・ドバイ)を設計した米国最大級の建築設計事務所、スキッドモア・オーウィングス・アンド・メリルのテクニカル・ディレクターであるNicholas Holtです。

    まず、なぜガラス張りの建物をつくりたいのか?ということから説明してくれました。

    ガラス張りの建物は確かに美しいです。

    しかしモダニズム建築家達がガラスを愛した理由は、その美しさだけではなくその機能性にありました。

    現在は省エネの時代です。

    ガラス張りの建物だと、内部に入ってくる太陽光の量が多いため、人工光をあまり使わなくてよく、電気の量を減らすことができます。

    ここで重要なのが、太陽は光だけではなく熱も運んでくるということです。熱対策を行わなければ、オフィスにはビニールハウスのように熱気がこもってしまうでしょう。

    光は取り込み、熱は遮断する。

    ここで使われるのがLow-Eガラスです。これはガラス表面を反射塗料でコーティングすることで熱を反射しています。

    冬は熱が入ってきたほうがいいのでは?と思うかもしれません。

    しかしNicholasが言うには、建物は常に熱量過多なのだそうです。PC、電灯、働いている人々、すべてが熱を発しています。結果、高層ビルでは冬でも廃熱しているそうです。

    光は取り込み、熱は遮断する、これが省エネの鍵です。

    熱を反射するガラスは新しい考え方ではありませんが、ハンコック・タワー建設時はまだ不完全な技術だったのです。そう、あまりにも不完全でした。

    ハンコック・タワーのガラスが割れたのは、風でもモーメント力でも、インディアンの墓地の上に建設したからでもありません。熱を反射させるシステムに問題がありました。

    窓は二重ガラスとなっており、間にはクロム加工された鉛の枠が入っていました。鉛は日中の太陽によって温められ、夜間に冷えることで膨張したり収縮します。これが鉛を変形させ、変形が限界に達した時、ガラスは割れ、地面に落下したのです。

    現在では枠に溝を掘り、シリコンでシーリングします。このようなシーリング材は実験の裏付けに基づく、強力なものだそうです。

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    調査をうけて、ハンコック・タワーのガラスは全て交換されました。費用は700万ドルで、完成予定は5年の遅れがでました。

    割れていなかった5000枚程のガラスは1枚100ドルで売られ、額とかテーブルとかに再利用されたそうです。

    ベニヤ板もボストンにある無人ビルを封鎖するために再利用されたそうです。

    大変な困難を乗り越えて、建てられたジョン・ハンコックタワー。

    何事も1番初めにやるのはすごく大変ですよね。

    でも、こうやって頑張って建ててくれたおかげで現在では当たり前のように全面ガラスのビルを見ることができるんです。

    ありがたいことですね。

    Sam Biddle(原文/mio)

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