「スーパーコンピュータは人間脳の1000万倍の電力を消費する」
と1990年にどんぴしゃ予言したのは、カリフォルニア工科大学のカーバー・ミード名誉教授でした。この差を縮めるため氏が開発したのが、脳ベースの超小型電子回路。氏は80年代後半に初のシリコン網膜を開発し、神経形態学的チップの分野を開拓した人物でもあります。そんな大きなもん、体に埋め込めませんからね。
さて、このミード教授の博士課程に1990年に弟子入りしたのが、ガーナ出身のKwabena Boahen現スタンフォード大学バイオエンジニアリング助教授です。
表題の命題に戻ると、同助教授の試算では人間脳なら20ワットもあればこなせる計算が、人間脳並みに賢いプロセッサだと、なんと10メガワットも電力がかかるんだそうですよ? 20ワットは電球1個照らせる電力、10メガワットは小さな水力発電所が生む電力。すんごい差! ですよね?
これは人間のような隙だらけじゃなく、何万、何十万分の一のミスも逃さないところに膨大な電力を使っているため。
で、Boahen助教授率いるチームが新開発した「Neurogrid」というチップデザインは、人間脳の処理効率の悪い部分をそのまま活かして、人間脳みたいな省電力のスパコンを実現しようという試みです。人間脳ベースのスパコン実現の鍵は、この非効率性を活かすところにある、というわけですねー。面白いですね。
馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないが、本当の話だ。科学者たちの研究では、脳が持つ1000億個のニューロン(神経細胞)が驚くほど頼りないことが分かっている。シナプスは30~90%の確率で発火に失敗する。ところがどうしたわけか脳はそれでちゃんと動いているではないか。一部科学者からは、神経ノイズこそが人間のクリエイティビティに繋がる鍵だと見る意見も出ているほどだ。
Boahen氏と世界中の科学者の小グループでは、脳のノイジーな計算処理をコピーして、エネルギー効率の良いインテリジェント・コンピューティングの新時代を切り開こうとしている。「Neurogrid」は、このアプローチの成否を占うテストだ。
現代のスーパーコンピュータはどれも冷蔵庫ぐらい大きく、年間10万~100万ドルもの電気代を貪る。Boahen氏の「Neurogrid」なら、ブリーフケースに収まり、Dバッテリー数個ぐらいの電力で動くし、そのくせ、万事うまく運べば、こういったゴリアテ(巨大スパコン)に負けない働きをするものになる。
今年になるまで、神経マシンが搭載できるシリコンニューロンは多くて4万5000個でした。それがBoahen助教授の新スパコン「Neurogrid」には100万個も搭載されてます。大躍進ですよね! 助教授は2011年までには6400万個を搭載して駆動し、マウスの脳程度のプロジェクトに発展させたいと考えています。
信頼性と処理効率を後回しにしてオーガナイズされたカオスを優先するという、Boahen助教授のアプローチは、世のエンジニアの指向と真っ向対立するものですが、確かに納得なところもあります。ムーアの法則を今後続ける鍵は、電力消費を減らすことにあるんですよね。
いや~、それにしても、この開発でAIロボの将来像も様変わりしますね。自分で考える冷たくてロジカルなマシンじゃなく、僕らと同じぐらい馬鹿で欠点だらけのロボが出るんでしょうか...(そういう研究じゃないけど)。そのうちプラスチックのライトセーバでコンビニ強盗未遂後、シャツも着ないで茂みを走り抜けるロボがTVシリーズ『Cops』に出るんでしょうかね...考えてもみてくださいよ。
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Sean Fallon(原文/satomi)