中東の新しい地政学(前編2):シリア革命の余波、ロシアとイラン「抵抗の枢軸」の地政学的後退

執筆者:滋野井公季 2024年12月28日
エリア: 中東
イスラエルの攻撃で壊滅的な打撃を受けたヒズブッラーにとっても、シリアの拠点は再建に向けた要衝だった[建物に着弾寸前のイスラエルのミサイル=2024年11月22日、レバノン・ベイルート](C)AFP=時事
「前編1」で考察したロシアとイランに比べ、ローカルな組織であるヒズブッラーとハマースが中東の地政学に与える影響は相対的に小さい。ただし、両者が受けるダメージはイランの戦力投射能力が損なわれることを意味している。イスラエルの斬首作戦と空爆により、ヒズブッラーは指導部のほぼ全員と数千基のミサイルを失った。ハマースは小規模なゲリラ戦以上の戦闘は困難な状況に追い込まれている。

 

ヒズブッラー――指導部と組織の壊滅的被害

 国際的な影響力を保持する超大国ロシアと地域大国イランと比べて、ヒズブッラーとハマースは活動範囲が限定されるローカルな組織であることから、地政学的な含意は比較的小さい。特に近年のヒズブッラーに関しては、テヘランの代理勢力としての側面が強く、その弱体化の地政学的な含意は主にイランの戦力投射への影響と、イスラエルの安全保障上の脅威の減少という2点に集約される(前者は上述した通りである)。以下、ヒズブッラーが何を失ったかに絞って簡潔に整理してみたい。

 2024年9月17日、レバノンのシーア派政党・武装組織ヒズブッラー(実態としては政党・軍事組織という以上にレバノンの政治・経済・社会に深く組み込まれている)の構成員が通信用に使用していたポケベルが一斉に爆破された(後にネタニヤフはこの作戦への関与を認めている)。12名が死亡し、2800名近くが負傷したこの爆破事件は、ヒズブッラーの指揮命令系統を混乱させた。

 この前代未聞の作戦は、南レバノンへの侵攻とヒズブッラー幹部の斬首作戦の後に行われた。今年9月27日、イスラエル国防軍は地中貫通弾80発を南ベイルートに撃ち込み、長年ヒズブッラーを率いてきた指導者ハサン・ナスラッラーを暗殺した。その後を継いで満を持して檜舞台にあがった従兄弟のハーシム・サーフィイッディーンも10月4日に空爆によって殺害されている。その他にも、イスラエル国防軍はレバノンでの作戦により主要な幹部を軒並み排除したと発表している。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
滋野井公季(しげのいこうき) 東京大学大学院情報学環・学際情報学府客員研究員 1991年生まれ。専門は国際政治、経済安全保障、イスラーム政治思想。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程満期退学。アルジャジーラ研究所客員研究員、ハマド・ビン・ハリーファ大学人文社会科学研究科客員研究員、外務省専門分析員、コンラート・アデナウアー財団リサーチ・アソシエイト、政策研究大学院大学リサーチ・フェロー、東京大学公共政策大学院共同研究員などを経て現職。
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