ブロガー × オーマイニュース
10分間の休憩を挟んだ後半戦。話題は「実名か匿名か」といった内容に移っていった。
「今は記事内容が偏っているような感じはする。しかし、罵詈雑言ではない編集された記事というかたちで、対立する意見が討論されればそれはおもしろい。ルールを守ったバトルはありえる」と語ったのは山口さん。こういった場を提供できるとすれば、「朝まで生テレビ」などとは違った討論が期待できるかもしれないという。
一方で、実名では書けないものを書くには匿名でなければ仕方ないという意見も出た。内部告発による耐震偽装問題やトヨタなどの大企業批判は匿名の環境であったからこそ可能だったとの意見だ。また、パネリストの中にはブログとオーマイニュースの“併用”が難しいという考え方もあるようだ。
山口さんは「自分の書く場所はある」と語り、オーマイニュースについては「間に合ってます」というのが率直な意見だという。書く必要性が見出せないと言うわけだ。「ペルソナとして、匿名というならば会員として入っても良い」と山口さん。
満席となっていた会場からも質問が次々と寄せられた。
ヒョウドウさんは、準備ブログでは掲載されていた「タブーに挑戦」というキャッチコピーを外した意味を編集部の平野、中台に問いかけた。
中台は「タブーに挑戦」というコピーが取られていたことについて
「私はその『タブーに挑戦』という言葉に共感してオーマイニュースにやってきた」
と入社動機を交えて説明。再び掲げるという選択肢もあるのではないかという考えを示した。
一方の平野は別の意見。このフレーズで「オーマイニュースの一面だけを見られてしまうのではないか」との危惧があるという。常に攻撃的なメディアという色付けをされないようにと配慮したいというのだ。
オーマイニュースは読者のターゲット層をどう考えているか、と問いかけたのはトクリキさんという男性。パネリストのいちるさんは、これまでのオーマイニュースをみる限り読者層を想定していないのではないかと懸念を示した。この他、「オーマイニュースの記事は思い入れが強すぎる」といった声も出され、編集部に対する問いかけや指摘は途切れない。質疑もどんどん内容の濃いものになっていった。
「オーマイニュースにおける記事はファクトとオピニオンの間のようなものが多い。記事の概念として、ファクトと意見どちらに特化した記事にするか、それぞれを分けるほうが良いのではないか」との意見もあった。これに対して磯野さんは「ファクトとオピニオンが混合したものというのをオーマイニュースには期待している。コラムでもストレートニュースでもないものを」と語った。
このほか、ブログとオーマイニュースの連携の問題、市民記者の男女格差の問題、市民記者登録の方法に関する問題、記事内容の軽重、オーマイニュースの立ち位置の問題、朝鮮半島問題をどう報じるか…等々、オーマイニュースの本質や未来に関する意見や質問が続出。予定時間を過ぎようとしても討論は続き、質問者は後を絶たない。会場の関係で4時すぎに閉会となったが、それぞれが場所を移して議論を続けたようで、オーマイニュースにとっては意義深い一日となった。
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【17:00掲載記事】
自分のブログに寄せられるコメントには原則として回答しているという磯野さんは
「しんどいが、1つひとつに答えていくことででき上がるものがある。よほどひどいものでなければ、原則としてアップされるという姿勢はよいと思う」
準備中ブログに掲載された佐々木氏の「右か左か立ち位置を明確にすべき」という意見については否定的で、「1500人という市民記者が書き込むという仕組みなのだから、ゆるやかな編集方針があるぐらいでよいのでは」と話した。
いちるさんは、今のオーマイニュースには、コラムやオピニオン的な記事が多いとして
「何かの情報に対してガチャガチャ言うのは、2ちゃんねるやブログの世界。オーマイニュースにはファクトが載っている短い記事があるといい」
として
「300~500字ぐらいの分量が市民記者にも書きやすくてよいのでは。そういう記事が増えたら、2ちゃんねるやブログ、mixiと違うメディアになる」
との展望を示した。これにあわせ、藤代さんからも「フットサルの会見の記事はよかった。大手メディアが取材しないような小さな会見、小さな組織を取り上げてほしい」と注文がついた。
鳥越編集長は「意見、オピニオン的記事は排除されるものではない。ちゃんと取材して、既存メディアに出ていないファクトが書いてあって、新聞に転電してもらえるような記事も載せたいなあと思う。市民記者とコミュニケーションを取りながら成長していきたい」と抱負を語った。
その後、話題は市民記者をどうとらえるかというテーマに移る。
佐々木氏は
「一次情報は大手マスコミでないと取るのが難しい。市民記者の数で勝負するのかと言っても、じゃあ10万の市民記者がいたらファクトが出るのかというと、心もとない」
と分析。さらに
「ここにいるようなブロガーは、自分のブログが炎上した経験もあり、それに立ち向かってやってきた。田舎のおじいちゃんが思い立って市民記者をやって、いきなりコメントにさらされてもアウェーの戦いとなり、厳しいのでは」
と批評した。
オーマイニュースの平野が
「自分はブログが続かなかった。ブログの人にはブログの人のプライドがあると思うが、ここにいるような方々(パネリスト)はブログのエリートだと思う。毎日続けなければ飽きられるブログはハードルが高い。毎日は書き続けられない、という人でもオーマイニュースというプラットフォームがあれば、回転し続けている場に、たまにでも参加することができる。ブログの登録数が多くても、全員が毎日書けるわけではないのではないか」
と話すと、山口さんは
「ブロガーになれない人でも市民記者になれる、ということでは読み手にとって失礼ではないか。私は、一次情報は市民のオピニオンだと思う。それはたくさん集まれば世論になるものだ。いろんな意見が集まれば価値がある」
と反論した。
一方、「読み手を考えてクオリティを考えるのは職業的記者の考えること。市民記者は気楽に大量に、ユーモアを持ってどんどん記事を出すべきでは」とするのは、いちるさん。「スケールメリットを出すためにも敷居を下げなくてはいけない」と提案した。
藤代さんが「平野さんから『ブログはエリートがやる』という発言がありましたが、みなさんどうですか」と会場に呼びかけると、ウエキさんという男性は「そこの方々がブロガー代表というわけではない。あたかも『ブロガー』という組織があるかのような発言が続いているが、オーマイニュースを教育しているかのようでおかしい。ブロガーは統一したリテラシーはないと思う。『ブログに詳しくない』と発言した鳥越さんに乗っかっている」と批判した。
鳥越編集長は「ブロガーの間でも、こんなに意見が分かれるのかと驚いた。たしかにブログは、バラエティに富んでいてひと言では言えないなあ」と感嘆を漏らし、市民記者への期待をこう述べた。
「市民記者にはオピニオンも書いてほしいが私の本音では、自分の経験、体験を書いてほしい。41年間の取材を通して、『これが真実だ』と思ったことは一度もない。真実なんて本当は分からない。でも、体験することはある。例が適当か分からないが、たとえば市民記者が病院で点滴がうまく入らず、えらいことになったと。それを記事にして、さらに『私もこういうことがあった』と続けば、点滴問題、日本の医療がいまどうなっているんだということを検証できる。そういう経験を書いてもらい、常勤記者もカバーし、経験から始まったことで社会がちょっとでもいい方向に変わればと思っている」
その鳥越編集長に次のひと言が会場から飛んだ。
「ネットに弱い鳥越さんは、思い切って若い者にまかせてはいかがですか」
会場から湧き上がる笑いに鳥越編集長は苦笑しながらも、
「みんなが引退したほうがいいというならば、しがみついている必要はないですから。でも、新しいことへの好奇心がある。やってみて面白かった。今日もこんなに人が集まって、やっぱりこれがインターネットの面白さだなあと。ですから、なかなか簡単には引退できないねえ」
と宣言した。
この後、鳥越編集長は別件の取材のため退席したが、論議はさらに続いた。
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【16:00掲載記事】
「オーマイニュースを1週間見て、もう見る価値がないと思った」
パネリストの挨拶から始まったシンポジウムは、藤代さんのこんな刺激的な発言から始まった。
これに鳥越編集長が「始まって一週間って、人間に例えたらまだ幼稚園児ですよ。よちよち歩きなんですよ。人間は。『幼稚園児だから、お前もうだめだ』なんて言われないでしょう? それだけで見る意味がないなんて言わないでよ」と反論。
佐々木氏が「幼稚園児に小泉批判はできない。創刊当初や準備中ブログの記事はイデオロギッシュでよろしくなかった。格差社会などについての取材をすればよかったのでは」と指摘すると、鳥越編集長が即座に「言うだけじゃなく、やってよ!!」と佐々木氏に注文し、会場に拍手と笑い声が広まった。
会場と意見交換をするシンポジウムの8人のパネラーたち。
会場と意見交換をするシンポジウムの8人のパネラーたち。
撮影者:OhmyNews
自身の2ちゃんねるに対する発言について聞かれた鳥越編集長は
「ごみ溜めと言われれば不愉快に思うでしょう。僕は、実はインタビューのとき、たしか『一部の』と言ったつもりなんだけどね、(記事では)2ちゃんねる全体が全部ごみ溜めみたいになって」
と経緯を語り、真意を説明した。
「現実に僕は2ちゃんねる全体を見たことはないので、全体について言うことはできないわけですよ。僕は一部の書き込みを見ていて、現実にこれはひどいと思った。人間は誰でも恨み、憎しみなどネガティブな感情も持っている。それが匿名でなんでも書けるとなったとたんにパーッと飛び出していく。女子アナのスレッドを見たんですが、ひどいもんだ。ほんとに。ここまで書くかと。これはもう、ごみ溜め以外のなにものでもない。人間の感情のごみを溜めるところだと。僕らは心の中にごみを持っているんです。それを捨てなきゃいけないんだけど、普段は工夫して捨てているんだけど、ネットがあることでそこで捨てちゃう。それが、僕が見て思ったんだけど一部なんですね、全体じゃないんです」
一方、いちるさんからは市民記者の実名制度について
「オーマイニュースが実名の必要はないのでは。自分はこの場で『いちる』と紹介されているように、ネット上のアイデンティティが確立していて問題はない。表示はニックネームで、むしろ書いた記事一覧が出てくる仕組みのほうがいい」
と提案。
また、記事へのコメント欄に関して
「コメントは、罵詈雑言のようなものでも大量なら、初めて見た人に『こわいところ』という印象を与えてしまう。だったら、コメント欄はなくてもいいのでは。YouTubeで人気のレスポンス機能のような、記事のサイト内トラックバック的機能があれば批判がより意味があるものになるかも」
と指摘した。
いちるさんが編集長をつとめる「ギズモード」では「その日のベストコメント」を選んでおり、「そういうことを長く続ければ質が上がるかも」とのアイディアも出された。
【編集部注】当初予定していた生中継は、設備の都合で行われていません。ご了承ください。
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【13:00掲載記事】
ブロガーの方々とオーマイニュースの鳥越俊太郎編集長らが意見交換するシンポジウム「ブロガー×オーマイニュース 『市民メディアの可能性』」が、東京の早稲田大学で9月2日、開催された。
すでに約1000万のブログが存在する日本。情報発信の先達であるブロガーの方々と船出したばかりのオーマイニュースが忌憚なく意見交換し、インターネットとメディアの現状や市民記者制度という枠組みになどについて議論を深めるのが狙い。
会場となった早稲田大の西早稲田キャンパス8号館の教室には70人を超える参加者が集まり、シンポジウムがスタート。パネリストには駒澤大学のグローバル・メディアスタディーズ学部で教鞭を執る山口浩助教授、毎日新聞の読者会員組織「まいまいクラブ」でブログ「竹橋発」をつづる磯野彰彦さん、FPNの2005年アルファブロガーに選ばれた「小鳥ぴよぴよ」のいちるさんのほか、オーマイニュース編集委員の佐々木俊尚氏、鳥越俊太郎編集長、平野日出木編集次長、中台達也記者が並び、「ガ島通信」の藤代裕之さんの司会でディスカッションが始まった。
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このシンポジウムは、ブロガーの有志の方々やIT系の会社員の方々などのほか、早稲田大学や駒澤大学の皆さん、それにブイキューブや大塚製薬、FPNなどの協力で、会場の準備やアンケートの実施、アジェンダ作成に至るまでオンラインで議論を深め、当日も完全なボランティアによって運営されています。
シンポジウムの模様は追ってアップしていきます。