おばさん・おじさん vs. 若者
夕刻の通勤ラッシュ時、電車に乗り込んだ私は運よく、3人掛けシートの真ん中に座ることができました。
ふと見ると、右隣は初老のおじさんが酎ハイを飲みながらピーナツをポリポリ、おかきをぼりぼり。左隣のおばさんは買いものの手提げバックを足元にでんと置き、新聞を読んでいます。これはとんでもない席に座ったかな? と一瞬不安が頭をよぎりました。
発車を待つ間の出来事です。
左隣のおばさんが、向かい側に立つお嬢さんに声をかけました。
「携帯電話は使っちゃだめなのよ!」
きつい調子に周りの乗客も一瞬びっくり。お嬢さんはそそくさと携帯を仕舞いました。
優先席付近での携帯の使用は禁止されているにも関わらず、我がもの顔に使っている人を時々見かけます。そこをすかさず注意するとはさすが、中年のおばさんと内心拍手を送りました。
満員の乗客を乗せ、電車が発車しました。
すると再び、そのおばさんの声が飛びました。斜め向かいに立つ青年が携帯を取り出した瞬間、「あなた!携帯は禁止されているでしょ! 常識がないのね」
その物腰がキツイので、これはまずいことになるかな? と息を呑みました。しかし、青年は無言で携帯をポケットへ納めました。
数分の沈黙が流れ、次の駅に着きました。
すると青年は、「ご指摘ありがとうございました。無意識に携帯を出してしまいました。今後、注意します」。こう言い残すと下車していったのです。
なんと爽やかな青年ではありませんか。非を非と素直に認め、謝罪する姿勢には共感を覚えました。
ところが、ここからが大変でした。
真ん中に座る記者を尻目に両隣の紳士淑女が大声で話し始めたのです。
おばさん 「携帯電話を使っちゃいけいのがわからないのかしら。ほんとに常識がないんだから」
おじさん 「今の若いものはダメだね。いいこと悪いことの区別がつかないんだから」
おばさん 「そうよ、誰かが注意しなきゃわからないんだから、がつんと言ってやるべきよ」
おじさん 「でも、注意したりするとこのご時勢何をされるかわからないからな……」
いい気持ちになったのか、おじさんが合いの手を入れたから、さあ大変です。
おばさん 「しつけ以前の問題よ。親の顔がみたいわ」
おじさん 「そうだ、そうだ。あたりまえだ」
延々と若者批判が続き、聞くに堪えない男女の独演会となりました。
私は2人のあいだにはさまれ、会話を聞かされながら考えました。
(1)おばさんがやっているように、満員電車内で手荷物を足元にでんと置くことは非常に迷惑な行為であり、網棚にあげるか膝の上に置き、スペースを空けるのが常識です。
(2)おじさんがやっているように、夕刻の満員電車で、ピーナツをつまみに晩酌をするというのもいささか非常識に近いものです。
(3)真ん中に人を挟み、大声で会話することは非常識そのものです。
このおばさん・おじさんこそが非常識であり、親の顔が見たいものです。社会経験の長い人ほど自らの言動に責任を持つべきではないでしょうか。
素直に詫びて下車した青年の爽やかさとは対照的な光景でした。