『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『ミルク』でアカデミー監督賞にノミネートされたガス・ヴァン・サント監督による最新作『追憶の森』。アカデミー俳優マシュー・マコノヒーを主演に、日本が誇る国際的俳優・渡辺謙と、美しき演技派ナオミ・ワッツの3人のキャストが共演を果たす本作は、思いもよらぬラストが待ち受ける感動のミステリードラマに仕上がっている。シネマカフェでは、本作が描く“夫婦の物語”に注目します。
無精髭を生やしたひとりの男が空港に向かっている。駐車券は車に置いたまま、昨晩予約した片道チケットでチェックインを済ます。手荷物はなし。くたびれたように見える男が向かう先は日本、富士山麓に広がる青木ヶ原=通称・樹海だったーー。
『エレファント』など社会派監督としての顔と、『永遠の僕たち』といった繊細なタッチの人間ドラマの描き手としての顔を持つガス・ヴァン・サント監督が新たに描くのは、 “自殺の名所”として知られる青木ヶ原樹海だ。
人生の終着点を求め青木ヶ原樹海を訪れたアメリカ人男性アーサー(マシュー・マコノヒー)と、アーサーが樹海で出会う謎の男タクミ(渡辺謙)。物語は出口を求めて彷徨う2人を描きながら、アーサーと妻ジョーン(ナオミ・ワッツ)との追憶の日々が、美しい映像とともに語られていく。ともすれば樹海を舞台にした自殺を描いた映画だと思われかねない本作だが、物語が導き出すのは、観る者を静かな感動で包み込む思いもよらぬラストだ。樹海の中でアーサーが追憶する、妻ジョーンと過ごしたかけがえのない日々。大切な誰かのことを思わずにはいられない夫婦のドラマが、暖かな涙を誘う。
樹海の中を彷徨うアーサーとタクミを描く“樹海パート”と、追憶の中でのアーサーと妻ジョーンを描いた“追憶パート”からなる本作。物語のメインとなる登場人物は、アーサー、タクミ、ジョーンのほぼ3人のみだ。ハリウッドきっての3人の名優たちは、大胆かつ繊細な演技で、登場人物たちの複雑な心情と緻密なストーリーの綾を織りなしている。
2005年に「People」誌が選ぶ「最もセクシーな男性」に輝き、2007年には「最もセクシーな独身男性」に選ばれたマシュー・マコノヒー。そのマッチョな肉体とからっとした笑顔が多く女性を魅了しているのはもちろんだが、過酷な減量に臨み挑んだ『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞受賞歴もある彼は、映画ファンや批評家たちからも演技派として一目置かれる存在だ。 本作で彼が演じるのは、妻を失い、自ら命を絶つ場所として樹海へと訪れるアーサー・ブレナン。樹海で出会ったタクミを放っておけず、自らの命を絶つという当初の目的よりも、彼のために必死に出口を探すアーサーは、幾度となく困難に見舞われてしまう。そして、同時に描かれていくアーサーと妻ジョーンとの追憶の日々。ある出来事によって妻の信頼を失ってしまったアーサーが、ぎくしゃくとした日々にやり場のない思いを抱く姿が描かれている。マシュー・マコノヒーは、樹海での極限状態における体当たりの演技と、複雑な心情を表す繊細な演技で、多くのひとびとが思わず共感してしまう“普通の人間”を見事に体現している。
『ラストサムライ』以降、流暢な英語と確かな存在感でハリウッド大作へと続々と出演を果たしている渡辺謙が演じるのは、アーサーが樹海で出会う、物語のキーとも言える謎の人物。ビジネスマン風の身なりで、妻や娘の存在が明かされるが、一体彼がどういった出自を持つのかは謎に包まれたまま。物語がもつ謎を一身に背負うタクミを、渡辺謙は独自のミステリアスな存在感で演じている。彼が話す言葉の数々や、アーサーとのやりとりは、次第に物語を思いもよらぬラストへと導いていく。
そしてもうひとりのメインキャストは、『21グラム』『インポッシブル』でアカデミー賞にノミネートされたナオミ・ワッツ。その美貌と確かな演技力で、数多くの名作へ出演してきた彼女が本作で演じるのは、夫への不満ややり場のない思いをアルコールで紛らわす妻、ジョーン・ブレナン。彼女が抱くいらだちや怒り、悲しみ、そしてやがて彼女を待ち受ける運命を、ナオミ・ワッツはエモーショナルかつ繊細な演技で表現している。彼女が流す涙や激情は、観るものの心を切なさで締め付け、涙を禁じ得ない。
いくつもの謎を秘めた美しいミステリーであり、愛と再生の物語である『追憶の森』を鑑賞後、30代から50代の女性読者6名に、大いに語り合ってもらいました。ライフスタイルも年代も違う女性たちが、自らの経験と重ねながら『追憶の森』の魅力を紐解きます。
科学者であるアーサーと、社会的に成功している妻ジョーンが愛し合いながらも、すれ違っていく姿には、みなさん共感した様子。パートナーと生きていくことの大切さ、困難さは、大人の女性には特に響く部分があるようです。
「夫のアーサーが優しくしてくれてるのをジョーンはすごくわかっているから、あんな言い合いをしても二人は離れないでいるんでしょうね。『こんなにきついこと言わなきゃいいのに』って、たぶん自分でもわかってるはずなのについつい言ってしまう。あのシーンはすごくリアルでした」(Tさん・50代)
「仕事と子育てとで多忙すぎて、夫婦お互いに『ありがとう』など、言わなくなってしまいますね。身近過ぎて、相手の本質を見えていない部分も。妻の好きな色も知らなかった、というアーサーの言葉はよくわかります」(Nさん・40代)。
アーサーは怪我をしたタクミを助けるため、出口を求めて樹海をさまようことに。タクミは、家族にどうしても会いたいのだと訴えます。死に場所を求めていたはずのアーサーと、生き直したいタクミ。2人はお互いの気持ちをぶつけあっていきます。美しい森の中での2人の会話には「ジブリの映画を思い出しました」「大人の童話という感じも」という声も聞かれました。
一方、ジョーンは病に冒され、アーサーは初めて夫婦でいることの意味を見直します。死というものを意識すると、人生の大切さ、家族の大切さを痛感するという声もありました。
「夫が生死をさまよう経験をして以来、日常の幸せを実感しています。喧嘩をしても、根本のところで信頼しあっているということがわかっているので、あとを引きません。もし今死んでも、悔いがないと思っています」(Yさん・30代)
「昨年、母が入院から亡くなるまで、濃密な時間を過ごしたことを思い出しました。若い頃にどんなデートをしたか、など知らない話をたくさん出来ました。この映画は、そういう経験をした世代はもちろん、時間が膨大にあると思っている、若い人にこそ観てほしいです」(Jさん)。
「人と人の縁は有限なんだ、と感じます」(Kさん・40代)
『追憶の森』では、夫婦愛、パートナーシップが描かれていますが、みなさんが考えるパートナーとの理想の関係とは、どんなものなのでしょうか?
『追憶の森』を観ながら、うまく行かなかった恋愛を思い出し涙ぐんでしまったMさんは、「一緒に波を乗り越えられる人が、理想のパートナーですね。すべてを認め合える関係を目指したい」と語ってくれました。
「合わない人とは早く別れたほうが良い場合もあるけど、すぐに結論を出さず、時間をかけるということは大切。結婚生活15年を経て、ようやくわかることもあります。苦楽を共にしていくうちに、本当のパートナーになれるのでは?」(Kさん)
「お互いに自立することが大切。絶好調なときばかりではないので」(Nさん)
「もしもの時のことを、託せる関係が理想」(Mさん)
「親子というタッグの強さも感じています」(Tさん)
「辛いときに、そばにいるだけで元気にさせてくれる人」(Jさん)、という言葉も聞かれました。
夫婦、友人、家族、どんな関係であれ、かけがえのない人がいることの素晴らしさ、存在を失っても残る愛というものを、『追憶の森』を通して考えた時間でした。
富士山の北西に広がる、青木ヶ原の樹海を人生の終着点にしようと決めて日本にやって来たアメリカ人アーサー(マシュー・マコノヒー)。原生林が鬱蒼と生い茂る森の中で出会ったのは、樹海の出口を求めて彷徨う日本人タクミ(渡辺謙)だった。怪我を負い、寒さに震えているタクミをアーサーは放っておくことができず、一緒に出口を探して歩き始めるが、まるでその魔力に囚われてしまったかのように、2人は森を脱出することができずにいた。ともに森を彷徨い歩くうちに、アーサーは樹海への旅を決意させたある出来事を語り始める…。
STAFF:
監督: ガス・ヴァン・サント
脚本:クリス・スパーリング
製作:クリス・スパーリング、ケン・カオ、ギル・ネッター、ケヴィン・ハロラン、F・ゲイリー・グレイ、E・ブライアン・ドビンズ、アレン・フィッシャー
配給:東宝東和
CAST:マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ
4月29日(金・祝)より全国にて公開
オフィシャルサイト: www.tsuiokunomori.jp
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