しかも、この映画に登場する母と息子の姿は、変わりゆく親子関係や人生そのものを見つめ直すきっかけをくれる、温かくて優しい示唆にも満ちている。
人生で大切なものは何?
終活や現代の親子像を描き、本国ロシアで大絶賛
主人公は、ロシアの片田舎の村で教職をまっとうし、慎ましく暮らすエレーナ、73歳。グレーのベレー帽に、大きめメガネがトレードマーク。その小さな村では、住民のほとんどが彼女の教え子だ。あるとき、その1人の医師サーシャから、“いつ心臓が止まってもおかしくない”状態との宣告を受けることに。
夫を早くに亡くし、ひとり息子のオレクは都会で成功している様子。5年ぶりに顔を合わせたかと思えば、運転しながら仕事の電話。多忙なオレクには迷惑をかけまいと、エレーナは自分のお葬式の段取りを準備万端に整えることを決める。隣人で親友のリューダから「何でも独りでやる女」と言われるように、これまでだって、たった独りで何でもこなしてきたのだ。
一方、母の病を知ったオレクは施設探しを始める。子どものころは毎日顔を合わせ、食卓を囲んでいたのに、大人になるとなかなかそうはいかないのが世の常。「何か食べてく?」と言われても、“面倒だな”とすら感じてしまうことも…。
そんなすれ違いがちな現代の親子像にも触れた本作は、モスクワ国際映画祭やウラジオストク国際映画祭で上映されると、老若男女の心をつかんで観客賞を獲得。ロシアの映画賞ゴールデン・イーグル賞では助演女優賞に輝くなど、絶賛を受けた。
心憎いのが、劇中を陽気に彩る、日本でも幅広い世代に知られる「ザ・ピーナッツ」の「恋のバカンス」ロシア語カバー・バージョンだ。母の手料理が恋しくなる、声が聞きたくなる、会いに行きたくなる…そんな気持ちにさせる普遍的な物語を、さらに身近なものにする。
こんなふうに年を重ねたい…知的でおしゃれなエレーナ
その“驚き”の終活とは?
本作の“母”エレーナは、文学を愛し、教師という仕事を愛してきた自立した女性だ。たまにしか会えなくても、ひとり息子オレクのことも誇りに思っている。だからこそ、秘密のお葬式計画を心に決めたエレーナは早速、行動開始! 元教え子ワレーラからもらった不思議な鯉に見守られながら出かけていく――。
恩師のためなら教え子がひと肌脱ぎます
まず役所に向かうも、埋葬の手続きのためには“死亡診断書”が必要と窓口の女性につっぱねられる。遺体安置所で働く元教え子の検死医セルゲイの計らいで、エレーナは書類上“自宅で亡くなった”ことに。
棺桶も自ら選びます、運びます
書類(とチョコレート)があれば、役所の女性もエレーナに言われるがまま!? 晴れて埋葬許可証を発行してもらった彼女は、その足で葬儀屋へ。真っ赤な棺を自ら購入し「包んでもらえるかしら?」。棺と乗り込んだバスの中ではパンクな女の子たちに「最高!」といわれながら写真撮影も。
皆をもてなす、ごちそうも用意して
夫の隣に埋葬してもらう手はずを整えたら、次は、元教え子スヴェータが営む食料品店でお葬式のごちそう作りのために大量の買い出し。隣人リューダの孫の悪たれっ子パーシャが、クールなバイクで連れていってくれた。
ところが、棺桶が彼に見つかると、リューダや友人たちが“水くさい”と言わんばかりに駆けつけてくる。みんなで野菜やゆで卵を刻みながら、夫との思い出話に花を咲かせるエレーナ。
その夜、死化粧もバッチリ済ませ、目を閉じてみるが、どうやら“それ”は今日ではないらしい。こんなとき頼りになるのは、遠くの我が子より近くの友!? 口は悪いが、気の置けないリューダとウォッカを飲み交わし夜が更けていく…。
時に頑固なまでの気丈さとバイタリティで、粛々とお葬式準備を整えていくエレーナ。そんな彼女を見守る周囲の情の厚さが、彼女のそれまでの人生を何よりも雄弁に物語る。息子オレクはこの母の思いに気づき、“間に合う”ことができるのか。予想だにしなかった終幕には、温かな涙があふれて止まらない。誰もが不安を抱えて生きるいまの時代、エレーナの人生にあなたは何を思うだろうか。
「ジワジワ心に来る」「人生の全てが詰まっている」共感の声が続々
映画レビューサイト「coco」が行った試写会では「ロシアの映画を初めて見ました」「実は初のロシア映画」という声も聞かれた本作。とはいえ、劇中の年老いた母と息子の親子関係は多くの共感を得ており、「エレーナ先生が私の母親に重なった」「同年代の親を持つ人ならジワジワ心に来るのでは」「実家と同じ時間が流れてる」「人生の悲喜こもごも全てが詰まっている」といったコメントが続々。「『ところで今幸せなの?』て聞くシーンにほろり」とした人、「今週末、母親に会いに行くか」と“母親に会いたくなった”という人も。
また、「予想外な展開にクスッと笑いホロリ涙」「想像の斜め上をいくからビックリ! でも、この驚きは心が豊かになるようなビックリ加減!」「楽しく切なく見て後でいろいろ物思う、いい映画」との声も上がり、昨今話題となっている“終活”を描きながらも「一味違う」点に心惹かれた人が多い様子。
なかでも「エレーナ先生がかわいすぎ」「とにかくチャーミング」といった声が主人公のおばあちゃん=エレーナに寄せられ、「お化粧して佇まいを整える姿が凄く素敵!同じ世代を生きた友人とこそできる会話もユーモアで溢れていてなお良い!」「おばあちゃん同士のやりとりがかわいかった」「女同士の友情がリアルで好印象」と、辛辣だが誠実な親友リューダとの関係性に触れるコメントも多々。
「『友達でしょう?』と怒ってくれる、気のおけない相手が果たしているのだろうか…なんだか羨ましくなってしまった」と、思わず自分自身と重ね合わせたという声も寄せられている。
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<提供:エスパース・サロウ>