新卒社員がイヤホンをしながら仕事をしていたので、「なにしとんや」と声をかけたところ、「音楽聴いてます」と返事があり、「そうか」と返すしかなかった――。そんなエピソードが、ネットの掲示板に投稿されていた。
投稿に対して、「自分もガムかみながら仕事やってたことあるからわかる」「集中するための儀式なんやで」と理解を示す声がある一方、「こちらの呼び掛けに気づかないのはアカン」「ながら作業は、実際は効率落ちてる」といった指摘もある。
もし、部下が電話を取らなくなったり、話しかけに応じなくなったりして、仕事に支障が出た場合、イヤホンをやめさせることはできるのか。また、仕事への影響が直接ないように見える場合は、どうだろうか。有坂秀樹弁護士に聞いた。
●労働者には「職務専念義務」がある
「職場のルールについては、就業規則の服務規律の章に『勤務時間中は職務に専念しなくてはならない』といった規定があるはずです。たとえ明文化された就業規則のない職場でも、雇用契約上、労働者には職務専念義務があります」
イヤホンをつけて仕事をすることは、職務専念義務に違反する可能性があるということか。
「はい。電話に出ることや頻繁に会話の必要がある業務の場合には、勤務時間中にイヤホンで音楽を聴いていては業務を十分に果たせませんよね。これは、職務専念義務に違反していることになりますので、上司はイヤホンで音楽を聴くことをやめさせることができます」
会話が聞こえなくても支障がないような業務の場合は、どうだろうか。
「企業は、職場の秩序を維持するために必要な措置を講ずる権限を持っています。労働者は労働契約上、組織の一員として上司の指示命令に服しつつ、他の社員と共同して業務を遂行する義務を負っています。
たとえば、イヤホンから音漏れしていれば、他の従業員の仕事の妨げになりますので、上司はやめさせることができます」
ただ、音漏れもなく、周囲に迷惑がかからない場合なら問題ないのではないか。
「音漏れしていない場合でも、同様です。イヤホン禁止は、髪型やひげなど私生活に及ぶものでもありません。ですから、職務専念義務の労務管理上、上司が禁止の指示を出すことは可能です。上司は外観からは、本人がどんな曲を聴き、仕事に集中しているのか、または仕事するふりだけでサボっているのかは判断ができませんから。
もちろん、上司が許可することは可能ですし、許可している職場もあります。選曲も含め、置かれた職場の業務や士気に差し障りのない使用条件を検討して、許可するのもありでしょう」
有坂弁護士はこのように話していた。