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パチンコの店長が自死、遺族補償の給付決定 労基署は「不支給」判断→審査請求で逆転
画像はイメージです(K,Kara / PIXTA)

パチンコの店長が自死、遺族補償の給付決定 労基署は「不支給」判断→審査請求で逆転

パチンコ店の店長だった男性(当時41)が、1カ月80時間を超える時間外労働は認められないものの、店舗内倉庫で自死したのは業務で強い心理的負荷を受けたことによるものだとして、男性の妻が遺族補償給付などを請求した事案で、労働基準監督署長が不支給とした処分が審査請求で取り消されていたことがわかった。労働者災害補償保険審査官による決定は5月21日付。

審査官が取り消しの決定をした場合、監督署長は当初の処分を取り消して新たな処分をしなければならない。代理人弁護士によると、遺族補償給付などを支給する新たな処分が8月にすでに決定されており、10月に支給が開始されたという。

監督署長の処分を審査官が取り消し、遺族補償給付などを勝ち取った事案だが、審査官はどのような“逆転判断”をしたのだろうか。

●労基署「業務上の事由で死亡したとは認められない」「精神障害の発症もない」

決定書によると、パチンコ店を営む会社に勤めていた男性は2018年、埼玉県内にある旗艦店舗の店長となり、8カ月後には同旗艦店の近隣に新規開店する店舗の店長も兼務することとなった。兼務開始から約半年後、旗艦店舗の倉庫で縊死した。

妻は、男性の死は店長を兼務したことによる強度の心理的負荷によるものだとして、遺族補償給付と葬祭料を労働基準監督署長に請求した。

しかし、監督署長は業務上の事由で死亡したとは認められないとして不支給の処分をおこなったため、妻は処分を不服として審査請求した。

●争点「精神障害の発病の有無」「業務上の心理的負荷で発病したことによる自死か否か」

男性の死について、業務による心理的負荷で精神疾患を発病したことによるものと認められるか否かに加え、精神科通院歴がないことから精神障害を発症していたか否かも争点となった。

妻は、男性が経営に重大な影響のある新規事業の担当として店長を兼務していたことに加え、社長からのプレッシャーを強く感じ、営業成績は決して悪いものではなかったにもかかわらず、自身が考えていたほどの営業成績があげられず、新規事業が失敗したと思い込むなどして心理的に苦しみ、うつ病を発症し自死に至ったと主張した。

業務による心理的負荷については、厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に照らして、「新規事業の担当になった、会社の立て直しの担当になった」に当たるとし、休日や労働時間外でも業務連絡を受けてからすぐ返信していたことなどから、直ちに業務対応できるように待機し、常に緊張状態を強いられていたとして、その強度は「強」と判断されると訴えた。

そのうえで、男性の当時の行動や様子等から、抑うつ気分が2週間以上続き、易疲労性が進んでおり、自信喪失や不合理な自責感などもみられるほか、睡眠障害の状態でもあり、「中程度のうつ病を発症していたことは明らか」だとして、新規事業による強い心理的負荷を受けて認定基準の対象疾病を発症して自死したと訴えた。

これに対し、監督署長は審査請求における意見で、旗艦店舗と近隣の新規店舗は相乗効果を狙っての新規出店で、「1人の店長が一元的に管理運営することについては、合理的で自然な考え方」だとし、男性も新規出店に積極的な進言をしていたとして、心理的負荷要因の強度は「弱」と判断したと反論。

精神障害の発病についても、判断する根拠が認められず、発病していたとは判断できず、男性の死は「業務上の事由によるものとは認められない」と主張した。

●業務による心理的負荷の強度は「強」だったと認定

審査官による決定では、審査官が精神専門部会の医師に改めて意見を求めたところ、同医師が適応障害を発症していたと考えられると申述し意見を変えたことから、男性は自死当時、「適応障害」を発症していたと判断した。

経営に重大な影響のある新規事業で業務の難易度が高い二店舗同時運営の店長として、複数名で担当していた業務を1人で担当することとなり、業務内容・業務量が明らかに増大したと考えられることから、これに伴う責任の増加、業務密度の高まり等を考慮し、男性の心理的負荷の強度は「強」だったと認定。

男性の発病した精神障害は業務上の事由によるものと結論づけ、遺族補償給付および葬祭料を支給しないとする監督署長の処分を取り消した。

男性の妻の代理人をつとめた河村洋弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「労基署が、請求人や使用者が提出した資料をしっかりと見ていなかったのではないか」と労基署側の対応や判断を批判し、次のように話した。

「(遺族側に)弁護士がついているケースでも、労基署がこのようなずさんな判断をしたということは、弁護士がついていないケースだともっと粗雑に扱われているのではないかという疑念を抱きます。

今回の事件は、記録上1カ月80時間を超える時間外労働が認められない事案でしたが、『新規事業や大型プロジェクトなどの担当になったこと』と『複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった』ことを理由に業務による心理的負荷を「強」と判断した点が特徴的です。

立証の点では、男性が務めていた企業(使用者)が勤務に関する資料を提供してくれるなど(遺族側に)協力的だったということも、審査請求でこちらの主張が認められるうえで大きかったです」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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