クリスマスのプレゼント交換は、胸のはずむ大切な思い出になります。ただカップルの関係が悪化すると、交換したプレゼントをめぐる壮絶な戦いに発展することもあるようです。
弁護士ドットコムには、クリスマスプレゼントを渡した後に破局したとして、「返してほしいと要求された」などと複数の相談が寄せられています。
ある相談者は交際を始めたばかりの相手のリクエストで20万円超のタブレットをプレゼントしたそうです。その代わり、相手からは「ネックレスをプレゼントする」と約束してもらい、実際にお店で見せてもらいました。ところが実際には、20万円のプレゼントのお返しに見合わない「安物のネックレスをプレゼントされた」といいます。
その後、しばらくして別れることに。「タブレットを返して」と連絡しても無視され、「何度も連絡したら、恐喝で訴えると言われました」といい、泥沼の展開になりました。別れた後も、相談者はカードで分割払いをしています。
クリスマスプレゼントは相手と同等の金額でのプレゼントを交換すると約束したものでしたが、結局、相手からはタブレットよりも安いプレゼントを贈られただけでした。このような場合、相手からタブレットを返還してもらったり、相談者が支払っている残りの分割分を支払ってもらったりすることはできるのでしょうか。濵門俊也弁護士に聞きました。
●金額差のあるプレゼント代、返還してもらえる?
画像はイメージです(kouta / PIXTA)
——金額差のあるプレゼントだったそうです。相談者はそのことに不満を感じています。
「ネックレスをプレゼントしてもらう代わりに」「タブレットをあげる」、という約束は、ネックレスのプレゼントの対価として、タブレットを「交換」する契約(民586条)と解釈できます。
交換契約は有償契約ですので、民法559条に基づき、売買契約に関する規定が、交換契約に準用されます。
——相談者によれば、実際にお店で見せてもらったものと、実際に渡されたアクセサリーは別物で、20万円のプレゼントのお返しに見合わないものだったそうです。これは約束を果たしたといえるのでしょうか。
ネックレスがタブレットと比べて品質に関して契約の内容に適合しない目的物であったとしますと、相談者は、その不適合を知った時から1年以内にその旨を相手に通知して、履行の追完の請求、損害賠償の請求、契約の解除をすることができます(民586条、民566条本文)。
●交際間もなく破局、還元の理由にはならない?
——今回の相談者は交際を始めてすぐプレゼント交換をし、間もなく別れてしまったそうです。交際の継続を前提として贈り物を贈り合ったのであって、交際を続けないのであれば贈り物はしなかった、という場合には、どうでしょうか?
錯誤に基づく取消しができるかが問題となります。
ただ、「交際を続けることを前提として」いることを相手にきちんと伝えておらず、相談者が内心そういう前提だと思い込んでいただけである、という場合には、錯誤に基づく取消しは認められない可能性が高いです。
「法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤」(民95条1項2号)があり、それが表示されていたかどうか(民95条2項)を検討することになります。
本件であれば、「交際が継続されることを前提に、贈り物をする」ということが法律行為の基礎とした事情(契約内容)となっているかどうかを、当事者の合理的意思解釈から判断するのだと思われます。
——一般のカップルで「交際を続けることを前提にしている」ことを伝えることはかなりのレアケースではないでしょうか
たしかに、相手方も交際継続がプレゼントの条件と認識していて、それがプレゼント(交換契約)の基礎となっていた、と考えるのは難しいですね。
そのため結論としては契約内容とはなっておらず、解除もできない可能性が高いと考えます。
●残りの分割代「支払ってもらうことはできない」
——そのほかに、タブレットを返してもらうために何か主張できることはありませんか?
今回のケースは書面を取り交わしていることはないと思われますから、「書面によらない贈与」(民法550条)として取消しできるかも検討してみます。
しかし、書面によらない贈与の場合、「履行の終わった」ものは取消しできません。
本件は、「タブレット」という動産であり、引渡しも済んでいますから、「履行の終わった」という要件を満たすことは明らかです。
よって、相談者が「タブレットを返して」と主張したとしても、相手はそれを拒むことができますので、相談者はタブレットを返還してもらうことはできません。
せめてタブレット代の残りの分割分を支払ってくれないかと考えるかもしれません。しかし、タブレット代を分割して支払う契約をしたのは相談者ですから、残りの分割分を支払ってもらうこともできません。