プロモーション成功の鍵はCV計測―あなたのYahoo!広告 正しく計測できていますか? 具体的なITP対策を解説
複数のデジタル広告を出稿しているが、「Yahoo!広告」のコンバージョン(CV)だけが低い――そんな時、「Yahoo!広告は効果が低い」と決めつけるのは早計だ。ITP(Intelligent Tracking Prevention)対策ができておらず、コンバージョンが本来より低く計測されている可能性がある。特に、広告のランディングページにおいて、サブドメインやクロスドメインなど、複数のドメインが使われているサイトの約8割に不備があるという。
今回は、LINEヤフーの担当者に、ITPとは何か、その影響や検証方法、具体的な対策などについて詳しく聞いてみた。
ミドル・シニア層に強くiOSユーザーが多いYahoo!広告
国内最大級のオンライン広告プラットフォームである「Yahoo!広告」。検索広告とディスプレイ広告を展開し、Yahoo! JAPANを中心に多彩なサービス面に露出できるため、老若男女を問わず日本の人口の約8割以上にリーチできる。
あらゆる商材のプロモーションに適するが、なかでもミドル・シニア層へのリーチ比率が高く、不動産・自動車などの高額商品、健康食品やヘルスケアなどのライフスタイル商品などに特に強みを発揮する。
閲覧デバイスは、スマートフォンが7割以上を占めるが、パソコンでの閲覧も3割弱と比較的多く、BtoB商材に強いことも特徴の一つだ。また、Android端末にはGoogle検索がプリセットされていることもあって、必然的にiPhoneユーザーの割合が高くなる。iOSユーザーには、ミドル・シニア層や高額所得者が多いことを鑑みれば、デバイス面からも前述した傾向がうかがえるだろう。
Yahoo!広告のCVが低く見えるのは、正確な効果測定ができていないから!?
ただし、この「iOSが多い」という特性によって、Yahoo!広告の効果測定には、ITP(Intelligent Tracking Prevention)の影響が大きいという問題が生じる。
ITPとは、2017年にアップル社がSafariに搭載したサイトトラッキング防止機能で、Cookieの利用を制限し、利用者のプライバシーを保護する機能だ。現在、アプリ内ウェブビューも含めたiOS全体で反映されている。他ブラウザもこれに追従し、現在はGoogleの提供するChromeを除く多くのブラウザでCookieの利用が制限されている。利用者のプライバシーが保護される一方で、広告のCVが低く計測されている可能性があるのだ。
お客様から、「Yahoo!広告からの流入がたくさんあるにもかかわらず、CVに至っていない。CPA(顧客獲得単価)も高くなってしまっている」という相談を受けることが増えています。ターゲット設定はもちろん、サイト内のUI/UXやクリエイティブの改善も行っているのにCVが取れない、その理由がわからないという悩みを聞きます(濱里氏)
いったい何が起きているのだろうか。
Yahoo!広告では、CV計測にCookieを活用してきたが、ITPの影響により、iOSユーザーのサードパーティCookieは、他ドメインに遷移したタイミングで即時削除される。現在は、JavaScriptで生成したファーストパーティCookieに行動データを書き込む方式となっているが、“何も対策を行わなければ”ユーザーの最後のインタラクション(ユーザーが広告に対して行ったアクション)から24時間で削除されてしまう。
セッションから24時間以内にCVがあれば計測されますが、購入までに数日かかる商材もあります。とりわけ、マンションや自動車などの高額商材は、広告閲覧から購入までに長い時間がかかることも珍しくありません。そういった商材でITP対策を行わずにいると、広告からのCVがほぼ把握できなくなります(森氏)
CVが把握できなくなるだけではない。Yahoo!広告では、自動入札の活用を基本としているため、CV情報が欠損すると、広告の評価に大きく影響し、最適化が難しくなる。つまり、「本当はCVが取れているのに取れていない」となるとモデリングに影響し、広告配信の精度が劣化してしまうというわけだ。
サブドメイン・クロスドメインのあるサイトの8割がITP対策ができていない
もちろん、Yahoo!広告でITP対策を行い、正しいCVを把握する方法はあるが、正しく設定ができていない企業も多い。なかでも、広告のランディングページ(以下、LP)において、サブドメインやクロスドメインを使用している場合に、ITP対策が行えていないケースが多いという。
サブドメインとは
広告からのリンク先(例:商品ページ)は「www.examle.co.jp」なのに、リンク先の遷移先(例:フォームのページ)は「www.sub.examle.co.jp」となっている場合。
クロスドメインとは
広告からのリンク先(例:商品ページ)が「www.examle.co.jp」なのに、リンク先の遷移先(例:フォームページ)が「www.examle2.jp」とドメインごと変わる場合。
実際にLINEヤフーが、サブドメイン・クロスドメインがある1133アカウントを対象にITP対策が不備なく行えているか調査したところ、なんと8割近くに問題があることが判明したという。
広告からのリンク先には問題がないものの、リンク先以降がサブドメイン・クロスドメインへ切り替わる際にデータの欠損が生じているケースが5割を占めている(下図BとC)。
「対策できているつもりでいるが、実際はできていない部分がある」ことがあるわけだ。さらに言えば、そもそも広告のリンク先のLPでデータが欠損しているケース(D~F)も3割に上り、当然ながらこちらも大きな問題だ。
ITP対策のチェック方法
ITP対策が正しく機能しているかどうかは、まず広告のリンク先URLをチェックしてみよう。
ITP対策が正しく行えている場合
広告からのリンク先LPのURLで、下記のようなパラメータが付与されていれば、ITP対策は正常に動いているので、計測に問題はない。
&yclid=YSS.1000418917.EAIaIQobChMI1u60u5vi7wIVx24qCh0Z3gBgEAAYASAAEgK1ZvD_BwE
そもそも、yclidが付与されていない場合は、アカウントの[自動タグ設定]がオフになっているので、Yahoo!広告管理画面で「自動タグ設定」をオンにしよう。
ただし、yclidが付与されていても、サブドメインやクロスドメインの場合は、引き継ぎの途中で欠損する場合があるので、下記の方法でチェックしていくことをおすすめする。
ITP対策のチェック方法(Cookieとローカルストレージを調べる)
ITP対策に問題があるケースは大きく2種類あり、「Cookie」が欠損するケースと「ローカルストレージ(LS)※」が欠損するケースがある。欠損具合によって、対処方法が、下記図のB~Fの5種類に分類される(Aは欠損がないケース)。B~Fのどれに該当するのかを調べたうえで対応処理を実施していくことになるが、まずはどこにデータの欠損があるのか調べていこう。
ITPのチェック①シークレットモードで調べていく
まずブラウザをシークレットモードにして調べていく。シークレットモードにすることで、ブラウザ上の閲覧履歴、Cookie、ローカルストレージなどが切れた状態でチェックが可能になる。
Chromeブラウザでは、3点マークから「新しいシークレットウィンドウ」を選択する。
Windowsでは「F12キー」、Macでは「Command + Option + I キー」を押してデベロッパーツールを表示する。設定ボタンを押して、言語を日本語にするとわかりやすい。(英語表示から切り替わらないときは、デベロッパーツールを一度閉じて、開きなおす)
ITPのチェック②Cookieの確認
デベロッパーツール上部のタブを「アプリケーション」に切り替え、左のメニューから「Cookie」の左側の「▼」をクリックして開く。現在のブラウザにCookieを保存しているサイトの一覧が表示されるので、自分のサイトを選ぶ。
右側にそのサイトのCookieが表示されるので、上部の「フィルタ」に「ycl」と入れると、キーに「ycl」を含むものが表示される。
※UIの表現は「名前」と「値」
ITPのチェック③ローカルストレージの確認
デベロッパーツール上部のタブを「アプリケーション」に切り替え、左のメニューから「ローカル ストレージ」の左側の「▼」をクリックして開く。現在のブラウザにローカルストレージを保存しているサイトの一覧が表示されるので、自分のサイトを選ぶ。
右側にそのサイトのローカルストレージが表示されるので、上部の「フィルタ」に「ycl」と入れると、キーに「ycl」を含むものが表示される。
※UIの表現は日本語では「キー」と「値」
ITPのチェック④クロスドメイン、別ドメインの場合の疑似付与URLで確認
広告の遷移先となるLPだけでなく、その後のフォームやショッピングカートなどCVに至る過程で別ドメインやサブドメインがある場合は、次のように確認する。
- 広告からのリンク先(例:商品ページ): www.examle.co.jp
- リンク先の遷移先(例:フォームページ): www.examle2.jp
広告からのリンク先のドメイン(www.examle.co.jp)でyclid疑似付与URLを作り、そのURLにアクセスし、上記で解説したデベロッパーツールを使った検証方法で www.examle.co.jp のCookieとローカルストレージを確認する。通常の流れでコンバージョンまでの操作を行う。
同様に、リンク先の遷移先ドメイン(www.examle2.jp)でも、デベロッパーツールでローカルストレージとCookieを確認する。
疑似付与URLで付与するパラメータは次のように「?」でつなげて記載する。
http://www.examle.co.jp/?yclid=YSSS.99999999.test
YSA(検索広告)とYDA(ディスプレイ広告)でパラメータの付与方法が若干異なる。また、Cookieとローカルストレージで確認する値が異なるので、以下の表を見てチェックしよう。
GTMを使った2種類の処理で、ITP対策を実施
A~Fのどれに該当するのか調べたら、ITP対策の処理を進めていく。処理方法は「処理①」と「処理②」に分けられる。
処理① リンク先の設定処理
処理①では、まず「サイトジェネラルタグ」の設定を行う。サイトジェネラルタグは、ユーザーの行動(クリック数、CV、ページ滞在時間など)を詳細に追跡し、それによって広告キャンペーンのパフォーマンスを向上させ、より効果的な広告配信を可能にするものだ。
複数のタグを併用したり、サイトが大きかったりする場合はもちろん、基本的にはタグを一括管理できる「GTM(Google Tag Manager)」を活用するとよい。「タグの種類」画面で「Yahoo広告 サイトジェネラルタグ」を検索・選択し、「サイトジェネラルタグについて」のチェックボックス(コンバージョン保管機能を利用する/Cookie以外のストレージをコンバージョン測定保管機能に利用する)に必要に応じてチェックを入れる。これでデータ消失まで24時間から7日間に延長できる。
この時「Cookie以外のストレージをコンバージョン測定保管機能に利用する」のチェックを忘れ、ローカルストレージのデータ欠損が生じているケースがあるため、注意が必要だ。
サイトジェネラルタグは、クリック数、CVなどの「各種測定タグ(トラッキングタグ)」の前に読み込まれ、発効される必要があるため、<HEAD>タグ開始直後に設置する。そこで、こちらも「GTM」の「タグの設定」ページの下部にある「詳細設定」で「タグの順序付け」で「Yahoo広告 コンバージョン測定タグが発効する前にタグを配信」をチェックする。
処理② リンク先以降の引き継ぎ処理
処理②では、コンバージョンサイトのその先についても「同一に見なす」という処理を行っていく。まず、リンク先からクリックしてドメイン(サブドメイン)に切り替わるという「ワンクリックトリガー」の設定を行う。
次に、「変数」の「組み込み変数」の設定ボタンから「Click Element」をチェックし、組み込み変数の設定を行う。
そして、「タグ」の「新規ボタン」から新規タグを作成し、「トリガー」は先に設定した「ワンクリックトリガー」を選定、リンク先とその先が同一であり、データを引き継ぐというように、当該のURL(図ではaaa.comとbbb.com)を修正する。
<script> var xdomain = ['aaa.com', 'bbb.com']; if (typeof URLSearchParams !== 'undefined') { if ({{Click Element}}.href) { (xdomain.some(function(value) { return {{Click Element}}.hostname.indexOf(value) !== -1})) { var params = new URLSearchParams((new URL(window.location)).search.slice(1)); var yclid = params.get('yclid'); if (yclid) { lurl = new URL({{Click Element}}.href); var lparam = new URLSearchParams(lurl.search.slice(1)); lparam.set('yclid', yclid); lurl.search = lparam.toString(); {{Click Element}}.href = lurl.toString(); } } } } </script>
なお、いずれもGTM上での操作になり、ドメイン・サブドメインのあるサイトのITP対策の一例となる。サイトで実際に挙動しているタグのカスタマイズ状況や、動的なURL遷移などで正確に動かない可能性もあり、その場合はサイト内やログ分析ツール側で対応する必要がある。しかしながら、ほとんどのサイトでこうした設定をするだけで解決できるので、実施しない手はないだろう。
ITP対策の実施で、コンバージョンが1.2倍に!
多くの場合、Yahoo!広告のITP対応は、GTMでの簡単な設定で解決できる。適切なITP対策ができれば、広告効果にもしっかりと現れてくるという。
たとえば、複数の商材を取り扱うとある金融会社では、Yahoo!広告の流入数の割にCVが少なく、獲得単価もじわじわと上がってきていた。そこで、前述のyclidの疑似付与による検証によって、ローカルストレージでのデータ欠損があることを突き詰めた。
私の担当していたお客様なのですが、検索ではiOSが多いのに、CVはほぼAndroidという状況に大きな違和感がありました。iOSでのCVに欠損があり、そこを埋めるだけで評価が変わるのではないかと考えました。その後、2023年10月にITP対策の不備を見つけ、適切な対応を行ったところ、Yahoo!広告のコンバージョンが1.2倍になり、CPAも2割ほど下げることができました(濱里氏)
正確なデータ取得で広告配信効果も上がる
正確にコンバージョンなどを計測できれば、自動入札は7〜30日の実績(※)で最適な配信を行っていく。広告の効果を高めるための施策として、クリエイティブやターゲットの見直しばかりに目が行きがちだが、「正確にデータを取る」だけで広告配信の効果は自然と高まっていくだろう。
(※)「YSA:Yahoo!広告 検索広告」は直近30日間、「YDA:Yahoo!広告 ディスプレイ広告(運用型)」は直近7日間の実績で最適化を行う。
どんな施策も、データの数字が正しくなければ、改善や調整を重ねても誤った方向に進んでしまいます。ITP対策は正しい効果測定のために必須であり、将来に向けての基盤を整えるために必要な施策です。紹介した通り、多くのサイトでは、簡単な設定で十分対策できるので、今日明日にでも実施してほしいと思います(森氏)
正確なデータの取得は、デジタルマーケティングの基本中の基本。Yahoo!広告を導入されているサイトの管理者は、ITP対策が正しくできているかどうか、いま一度確認してみてはいかがだろうか。
ソーシャルもやってます!